お前にそっくりの人気モデルがいたんだけど、知ってる?
1話 鈍感な颯太
「ほんと奏ってイケメンだよな。彼女とかいないの?」
「恋人がいたら、颯太とはこうして遊んでないよ」
「それもそうだな。」
ここはとあるゲームセンター。太鼓の達人で、難易度鬼でフルコンボをたたき出しながら、何食わぬ顔でお互いの友情を確かめる2人がいた。
1人は、イケメンとも言えないが、ブスではない、つまりまあまあの顔である、赤羽 颯太。
もう1人は、イケメンで、正直男だったとしてもモテるであろう、女の子の一条 奏。ちなみに、颯太は奏のことを男だと思っている。奏のボーイッシュな顔と格好、そして着痩せする胸の影響であろう。一般的な女子高生と比べると、奏は胸がある方だが、脅威の着痩せにより、颯太は全く気づいていない。
「学校違うから遊べる時間も少なくなってきたよな。」
「颯太が馬鹿だからじゃん。颯太がもう少し頭良かったら俺と同じ高校に行けたのに」
2人は3歳の頃知り合った。家が近くという訳ではなく、むしろ町一個分ほど離れているのだが、親同士が同級生でとても仲が良かったため、それに子供も巻き込まれた形である。なので、小学校、中学、高校と、1度も同じ学校に通っていない。が、よく2人で遊んでいたため、とても仲良しなのである。
同じ学校に通っていれば、体育の着替えなどで、奏が女だと気づくことも出来ただろうが、違う学校に通っていたため、それに気づく機会もなかったのである。
また、奏は颯太と会う時は一人称を「俺」にしている。颯太の前では素の自分を出せる奏は、他の人には絶対に見せないような仕草も颯太には見せる。一人称「俺」も、その一つである。
そんなことから、今まで颯太は奏が女なのだと気づくことはなく、2人は男の友情を築いてきた。だが、その友情は奏が今まで颯太に隠しながらやっていた、あることによって終わりを告げる。
場面は颯太の通う私立高校。男どもが雑誌を広げ、好きなタイプを話し合っていた時である。
「やっぱ俺はこの子が好きだなー。ちっこくて可愛いし、なんか守ってあげたい」
「まじわかる!守ってあげたい…」
今人気の妹系モデル、小林 凛花。この場でも野郎どもを虜にしている。
「俺はこっちの方がタイプだなー、女子なのにカッコイイってのが、俺の性癖にぶっ刺さってる」
「俺は、凛花ちゃんの方が好きだなー」
こちらが注目しているのは、カッコイイお姉様系人気モデル 一橋 香奈。男女ともに人気がある、カッコカワイイ系のモデルだが、この場では、ファンはあまり多くないらしい。
「颯太はどっちが好きなんだ?妹系モデルの凛花ちゃんか、それともお姉様系モデルの、香奈さんか」
「どれどれ、うわ、凛花ちゃん可愛すぎん?守ってあげたいって気持ち分かりみがすごい。香奈さんもかわ……いい………な……」
「どうした颯太、急に変な顔しだして」
「いや、この香奈さんって人、俺の幼なじみにめっちゃ似てるんだけど……」
「えー!こんな可愛い人が幼なじみなん?羨ましすぎるわ、妬ましい…」
「いや、そいつ男なんだが……」
皆さんお気づきの通り、大人気モデル、一橋 香奈と一条 奏は、同一人物である。もちろん、颯太は、そうとは思わず、「こんなにそっくりな人もいるんだなー」としか思っていない……
2話 思い悩む奏と凛花
「ねえ、結局のところどうなの?告っちゃえば?いけると思うよ?あなたは私に匹敵する人気モデルなんだし」
大人気モデル、小林 凛花と、一橋 香奈(一条 奏)は同じ高校に通っている。そして大の仲良しである。2人は共に、高校生になってモデルデビューを果たしたが、二人の関係は中学時代から始まる。共にモデル志望だったため意気投合し、今に至る。
「それが出来たらこんなに悩んでないよ……」
「奏ほど美青ね…美少女だったらどんな男でも行けると思うんだけど……まさか男だと思われてたりしてるんじゃない!?」
「多分そうかも……」
「え……」
凛花にとっては励ましの冗談のつもりではあった。だが、その冗談は、奏にとっては、自分を思い悩ませている事実であり、逆に奏の心をえぐることになってしまう。
「え、男と間違えてるってそんなことある?あの人気モデル 一橋 香奈だよ?我が校の2大マドンナの1人、一条 奏だよ?まさかそんなことある??」
「颯太とは1回も同じ学校になったことないし……私、颯太と会う時は一人称「俺」なんだよね……格好もボーイッシュで……そっちの方が楽だから………」
発言する度に、声が小さくなり、萎れていく奏に、凛花は頭を抱えていた。雑誌の表紙撮影時でさえ、堂々としていて、大物女優のような風格がある奏だが、こと好きな人の話になると、ものすごく弱気になるくせがある。その顔、その透き通った声、そして触ればわかる豊満な胸があるのに、そこまで弱気になるとは、奏の言う「颯太君」とやらは、余程鈍感クソにぶチキン野郎に違いない。私が手助けしてあげなくちゃ!と、決心した凛花は、奏にある提案をする。
「奏ってさ、自分が女だって颯太君には言わないの?」
「言ったら、今の関係が崩れそうで怖いんだよね…」
ほうほう、自分からは女とばらしたくないと。ならば、
「じゃあさ、さりげなくね、さりげなーく一橋 香奈のことを話題に出してみれば?推しの話とかしてさ、」
「いや、でも、あ、うーん……」
「もうっ!悩んでないで行動しよ!そんなんじゃいつまで経っても進展しないよ!!」
「そう…だよね、うん!私頑張ってみる!何とか自分が女だって伝えて、颯太に女として意識してもらいたい!!」
「よし!その意気だ!さっそく颯太君に連絡するんだ!!」
「……」
「どうしたの?奏。スマホじっと見つめて…」
「コレ見て、どうしよう…」
さっそく颯太に連絡しようと奏は自分の携帯をカバンから取ったのだが、そのホーム画面には1件のメッセージと写真の通知が来ていた。
颯太『奏!お前にそっくりなモデルさんがいた!!一橋 香奈って言うらしいんだけど、知ってる?似すぎててまじびっくりすると思う!!写真送っといたから見てみて!!』
奏のことを男だと思っているからであろう、颯太は、香奈=奏だとは思っておらず、すっごい似てる人と認識したらしい。
凛花は再び頭を抱えた。
(こいつやばい……鈍感過ぎない……?)
3話 ポンコツ奏
「なあ!写真見てくれた?めっちゃ似てたよな!」
「あー、うん。そうだねー。めっちゃ似てたねー」
本当に颯太は鈍感すぎる。目の前にいるのが、その人気モデルだということも、私が女だということも、そしてその人気モデルが自分のことを想っているということも……全く気づいていない。
私が自分で自分の想いを伝えないとこの鈍感野郎はいつまでも私を男と思い接していくのだろう。
そんな思いを抱えながら、その日はいつも通り遊び、颯太とは別れた。
「凛花ー!!やっぱ無理ーー!!!あの鈍感野郎気づく気配ないぃーー!」
「こんな夜中にいきなり電話かけてきたから、どんな用事かと思えば……そんなことで電話かけてくんなや」
「凛花にとってはそんなことでも、私にとっては一大事なんだよー!」
「知らん!自分で解決しろ!」
ガチャ!勢いよく電話を切る凛花。モデル時のカワイイ系とは似ても似つかぬ、塩対応。これが、小林 凛花の本当の姿だ!的なタイトルで告発本出してやろうか。よし、そうしよう。
あれ?メールだ。凛花から?告発本はやめてってお願いかな?
『言い忘れてた。次デートする時、私も一緒に行く。あんたが自分で女だって言えないんだったら私が言ってやる。私に任せろ』
告発本出すのやめます。さすが凛花。神はここにいた。
『いいよ!友達も一緒に!俺も友達連れてきていい?』
『全然いいよ!じゃまた今度!』
颯太からのOKも出たので、次の遊びの日、いや、デートの日?に、凛花も連れてこうと思います。
そこで私が女だって言えたらいいな。どうせなら自分の口から言いたいけど……多分無理だろーなー。
『ちなみに、友達はなんて名前?』
やばい、どうしよう!凛花は誰がどう見ても女!男だと思われている私が、女友達を連れていくのはおかしいのでは!?いや、待て。これは私が女だと告白する大チャンスでは?今だ!今がその時だ!頑張れ一条 奏!!
『それは当日のお楽しみー!』
あぁ、自分が嫌になる。なんだよお楽しみって……なんのお楽しみなんだよ、ふざけんなよ。これもう颯太が鈍感野郎と言うよりか、私がチキン野郎なのでは!?
『颯太の友達の名前はなんて言うの?』
『ああ、高橋 大和ってやつだよ』
へえ、大和君かー、面白い人だったらいいなー。まあ、颯太の友達なんだし、悪い人ではないと思う!凛花見たらびっくりするかな?『わ!本物だ!リアル小林 凛花だ!』的な反応するんだろーなー、きっと。私にも気づいてくれたら嬉しいな…ファンの存在は日々の励みになるし、颯太が応援してくれたら、きっと私はなんでも出来るんだけど……いや、まず私を女って認識してもらわないと!!そうしないと何も始まんないよ!よし!次のデート張り切っちゃお!!
そしてポンコツチキン野郎である私、一条 奏は、運命の『颯太とのデートwith凛花&颯太フレンド』の日を迎えるのであった……
4話 4人でデート?
「颯太!マジで説明してくれ!!なんで、なんであの人気モデル小林 凛花さんと、俺の推しの香奈様が目の前にいるんだ!?そして、俺に向かって『大和君、ですよね?今日はよろしくね!』なんて可愛い笑顔で言って俺を悩殺させようとしているんだ!!?俺は今日死ぬのかァ??それともこれが世にいう美人局ってやつか!?どうなんだ颯太ぁぁ!!なんでなんだ颯太ぁぁ!!なんか言えや颯太ァァァァァ!!!!」(くそ早口)
「まじ落ち着け!一旦黙れ!!迷惑だから!!!」
なんでなのかこっちが知りたい。大和、お前そんなうるさいキャラだったか?少なくとも空気はよめる良い奴なはずだろ?周囲の人から冷たい目線を向けられてるぞ……
小林さんが来たのはびっくりしたけど、奏の方はただの《《男》》だ。一橋 香奈さんとは確かに名前は似ているけど、性別も違うし、ただのそっくりさんだ。でも、奏と、小林さんになんの接点があったんだろう?同じ学校に通ってるとしても、なんかおかしい気がする。あ、カレカノとかかも、そうに違いない。
「小林さん?と、奏はなんの繋がり?もしかして付き合ってたりする?奏イケメンだし、スポーツもできて頭もいいから、とっても魅力的だもんね!」
あれ?小林さんが頭を抱えている?なんで?俺なんか地雷踏んじゃった?
「奏……私も頑張るから、これはモデル界でトップをとるより難しいかもしれないけど……何としてでも、あいつに奏を女と認識させて、気持ちを伝えよう。」
「ありがとう、凛花。私頑張るよ……いや、ごめん。やっぱ自信ない……」
「実際に見たからこそ言えるよ。これはマジでやばい。あんたが悩む理由が本当の意味でわかった気がするよ……」
奏と小林さんがなんか言ってる。声が小さいからこっちまでは聞こえないけど、なんか雰囲気暗すぎない?これから遊ぶのに、さすがに暗すぎない??
「ペアはどう分ける?」
俺たちは今、ゲーセンのエアホッケー台の前にいる。個人的ゲーセンで盛り上がるランキング1位のエアホッケー。4人というぴったりな人数が揃っていて、やらないわけがない。ペア分けなんてジャンケンでいいだろう。どんなペアになっても白熱するのがエアホッケーのいい所である。
「ジャンケン、ポン!ポン!ポン!ポ……」
勝ち組と負け組に分けることにしたのだが、奏と、小林さんがずっとアイコで全然決まらない。仲良し過ぎてちょっと羨ましいな。あ、奏勝った。てことは奏・俺ペアと、大和・小林さんペアの対決だな。幼なじみの力見せてやる!!
それからゲームは白熱し、現在同点、次のパックを決めた方が勝ち。3人とも始まる前はほのぼのとしてたのに、始まってからは目がガチになっててちょっと怖い。大和に至っては、最初は隣にあの人気モデル、小林さんがいたからだろう、顔を真っ赤にしていたが、だんだん真剣モードに入り、今では鬼神のようなオーラを放っている。怖っ。
「テェェヤァァアア!!!!オゥゥラァァァ!!!!!」
奇声を放ちながら、鬼早でパックを打つ大和。見てみろ、小林さん若干引いてるぞ。
「なんのこれしきぃぃぃぃ!!!!この程度かぁぁぁ!!」
こっちも!?奏だよね?!?これ奏だよね?!?なんかの化け物に憑依とかされてないよね?!?おいおい、小林さんエアホッケー台からちょっと距離取ったぞ!あたかも他人のように振舞ってる!絶対に知り合いと思われたくないんだな!俺もそうだ!俺もそっちに混ぜてくれ!!
ん?何だこの感触は?小林さんの元へ走り出した俺だが、腕に柔らかい感触があったんだが……え?奏顔赤いけど照れてる?まさか………