表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/21

009 俺の記憶調べ


「おいお前たち、オリ姉を放すんダゾ!」


 俺が耳にした言葉が、すでにシガが会敵した事を意味していた。


 先を走るシガに遅れること10秒ほど。俺もその場に到着した。

 シガの先にいるのは二人の人間と、そして……!


 馬から伸びたロープが体に括り付けられ、地面の上をずりずりと引かれている魔物。


 それは俺が想像していたものとはまったく異なるものだった。


 確かにシガと同じく上半身は人間で下半身は魔物だ。

 その肌は薄い水色。健康的な小麦色の肌とは程遠い。

 シガほどではないが主張の激しい双丘も見て取れる。

 肌の色こそ違えど人間の上半身であることは間違いない。


 特徴的なのは、その下半身だった。


 青色の鱗の生えた下半身は長く、先端に向かうほど細くなっている。

 足は無い。まるで蛇のような下半身。


 これは知ってるぞ、締め付けられたい魔物ナンバーワン、姉にしたい魔物ナンバーワン(俺の記憶調べ)の座に輝くこの魔物は、ラミアだ!


 シガが姉というからてっきりミノタウロスだと思っていたが、予想に反してのラミア!


 おっと、驚くのはここまでにして、助ける算段をしなければ。

 オリ姉さんはぐったりとしていて動く気配が無い。

 生きているのだろうか……。


「この宝剣シガスペシャルの前に塵となりたくなかったら早く解放するんダゾ!」


 ふむ、シガは武器に名前をつける派だったか。

 ネーミングセンスはともかく。


 二人の人間に見せ付けるように剣を高らかと掲げるシガ。

 若干自慢げなのはご愛嬌だ。


「ミノタウロスの生き残りと……見たことのない魔物、だな。あいつら失敗しやがって」


 無精ひげを伸ばした短髪の男が苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。


 俺たちを見て驚いたり怯えたりしないという事は、もしかして相手の戦力のほうが上なのか?

 この世界の人間たちは俺の予想よりはるかに強い可能性もある。


「おい……」


 ローブをまとった男が無精髭の男に声をかける。


「分かってる。お前ら動くなよ。こいつがどうなってもいいのなら別だがな」


 そういうと男は剣を抜き放ち、オリ姉の胸の上で刃をピタリと止めた。


 うおおい、初手で人質戦法かよ。

 いや、効果的だよ? すごく効果的だよ?

 さすが人間、頭が回るようで何よりだ。


「卑怯な人間達め、ぐぬぐぐなんダゾ。……そうだ、閃いたんダゾ!」


 え、ちょっと、ろくな予感がしないんだけと、ちなみに何を閃いたのか聞いてもいいかな……。


「くらうがいいんダゾ、シガスペシャルスマッシャーッッ!」


 解説しよう。シガスペシャルスマッシャーとは、物理的加速を得た剣が空を切りながら対象へと襲い掛かる技だ。今、目の当たりにしている。


 つまるところシガは手に持った剣を思いっきり髭の男にぶん投げたのだ。

 ぶん投げたといっても、鍛え上げられたミノタウロスの剛腕から投擲されたものだ。当たれば即死で間違いない。


 勢いよく、そして回転が付いた剣が男に命中する!

 はずだったのだが、途中でコースをそれて明後日の方向へと飛んで行ってしまった……。


「しまった、外してしまったんダゾ。……プローヴェル様」


 次のご指示を、みたいな顔でこちらを見るんじゃないよ!

 あのね、今動くなって言われてるの。

 確かにシガはその場から動いてないけどね、そういう意味じゃないんだよ?


「き、き、き、貴様らぁぁぁ!

 ふざけやがって、分かってるのか、俺たちが上、お前たちが下なんだよ。圧倒的な強者なんだよ俺たちは。馬鹿にしやがって!」


 おい、何をするんだ、やめろ!


 髭の男は目を血走らせて手に持った剣に力を込めた。

 銀色の刃の先端が薄水色の肌に吸い込まれていき、その境目から紫色の液体がしぶきを上げて噴き出した。


「や、やめろ、オリ姉が死んでしまうんダゾ!」


「へっ、馬鹿が。単細胞な脳みそでもやっとわかったようだな」


「おいっ、忘れてるんじゃないだろうな。魔物はマルヴァジータ様の力で回復しないんだぞ!」


 ローブの男が慌てた口調で髭の男を咎める。


「ちっ、うっせーな。

 死んじまってもはく製にすりゃあ高い金になる。

 それによ、生きのいいミノタウロスと高価そうなアイテムを持った魔物だ。

 こいつが死んだとしてもお釣りがくるぜ」


「勝手な事を……」


「お前も手伝えよ。さっさとあいつらを拘束しろ」


「ふん、偉そうに。まあいい、……光の束縛グリッロ・デロスクリタ!」


 俺たちに突如地中から現れた光る鎖が絡みついたようだが、そんなことはもうどうでもよかった(・・・・・・・・・・)


 俺の頭の中は言いようのない怒りで埋め尽くされていた。


 なぜこんな酷いことができるんだ?

 なぜそんなに簡単に命を奪う事が出来るんだ?


 俺が最初に見た光景もそうだった。

 三人の人間たちにやられたのであろう魔王ブラムドの姿。


 魔物だからか?

 ただ魔物で魔王だからとブラムドは殺されたのか?


 次に見たのは、数多くの首の無いミノタウロス達の死体。

 腹は切り裂かれ何かを取り出したかのようでもあった。

 明らかに殺すことが目的だと言わんばかりの所業。


 金のためか?

 金のために相手を惨殺して喜んでいるのか?


 シガは胸を貫かれて放置され、そして今、オリ姉も動けず無抵抗な体に剣を突き立てられた。


 お前たちにとって魔物って何なんだ?

 おもちゃか?

 お前らの欲求を満たすだけの下等な存在だと思っているのか?


 ふざけるなよ人間がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


次回は卑劣な人間へのお仕置きタイム!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ