011 オリオ
「……っんっ……私は……」
無事にソウルコンバージョンが終了し、オリ姉が目を覚ました。
「オリ姉ぇぇぇぇぇぇ! よかったんダゾ、もうだめかと思ったんダゾ!」
シガは感極まってオリ姉に抱き着くと、涙と鼻水をなすりつけるかのようにその胸に顔をこすりつけた。
「シガ……、無事だったか。よかった……」
くりくりと巻いたシガのくせのある髪の毛を指ですきながら頭をなでるオリ姉。
うんうん、いいな姉妹愛。
なんていうか尊い。俺の魂を削った甲斐があったというものだ。
ちなみにオリ姉を救ったことで、さらに俺の魂が減ったためしばらくソウルコンバージョンは使えない。
次に何があっても命を救う事は出来ないのだ。
何があってもこの尊い光景が失われることがあってはいけない。
そう、いけないのだ。
そんなよこしまではなく純粋な思いを馳せていると、オリ姉と目があった。
彼女の顔をまじまじと見るのはこれが初めてとなる。
さらりと伸びた濃い青色の前髪が右目を隠している。いわゆる目隠れという属性だ。
綺麗に伸びたまつ毛の左目。吸い込まれそうな綺麗な青色の目だ。
サラサラのショートカットヘアで爽やかな青紫色の唇が特徴の美人。
それがオリ姉の第一印象だ。
「シガ、再会の挨拶は後よ」
そういうとオリ姉は力任せに抱き着いているシガを、これまた力で振りほどいて……そして俺の前で跪いた。
いや、足が無いので跪いているとは言えないのだが、恭しく首を垂れている。
「この度は命をお救いいただきありがとうございます。私の名はオリオ。
魔王プローヴェル様。あなたを主と仰ぎ忠誠を誓います。我らに永遠の繁栄を」
流れるように忠誠を誓われた。
思った事を言います。
……すごくいい……。
幼い言動が目立つシガも一応そうなんだけど、このラミアお姉ちゃんのオリオも高校生の俺からすると年上のお姉ちゃんなんだよ。
俺が年上属性があったのかは覚えてないけど、年上の女性ってすごく大人に見えて憧れるんだよね。
そんな憧れの年上女性が跪いて俺に忠誠を誓うと言っているのだ。
なんというか、こう、すごい。
ただの高校生の俺にこんなことが起こるのかと。
だけど逆にいうと、ただの高校生の俺に上に立つ資格なんかあるのかなと思ってしまう。
よく思い出せないけど、俺には人に誇れるようなところは一つもなかったと思う。
か、彼女はいたけどね! たぶん。
沈黙が辺りを支配する。
そ、そうだ。返事をしないと。
えっと、えっと……。
緊張する!
「(頼りない俺だけど、よろしくお願いします)――うぬの忠誠受け取った。余のために尽くせ」
「ははっ、このオリオ、わが主のために命を捧げる所存です」
淀みのない返事が返ってきた。
そんなに気張らずにやってもらえたらいいのに。
それもこれも翻訳が悪いせいだ。
なぜか魔王ロールプレイする設定になっているけど、このままずっと続くのかこれ。
でもまあ、素の俺が出ると愛想を尽かされちゃうかもしれないし、これはこれでいいのかもしれない。
「わが主よ。配下になったばかりに恐縮なのですが、上申したき事が」
上申?
確か意見を言う事だよね。
まさかダメ出しとか?
「(な、なんでしょうか……)――よかろう、申せ」
「はっ、ありがたき幸せ。
恐れながら……私の部下たちを救い出す許可をいただきたいのです」
ほっ、よかった俺のダメ出しじゃなかった。
安堵する俺の前でオリオは言葉を続ける。
「恥ずかしながら、我々ラミア部隊は人間たちの卑劣な罠に落ち全滅寸前でした。
そこで最後まで抵抗していた私が捕虜となることで部下たちを見逃してもらう事を人間と取引したのですが……私の考えが甘く、私の捕縛後、人間達は次々と仲間たちを捕らえていきました。
……あとはわが主のご存じの通りです……」
主と仰ぐ者に対して自らの汚点を語る。
つまり自分は無能であることを自分で説明している事になる。
俺は別に何とも思わないけど、戦国の世とかなら信頼は失うわ切腹は言い渡されるわと、そんな事になるのではないか。
つまり、オリオはそれだけの覚悟を持って今俺に願いを伝えているのだ。
「お願いします、我が主よ!
この私に汚名を返上する機会をお与え願います! どうか、どうか!」
俺を見上げる青い綺麗な目が、まっすぐに俺を見上げる目が、わずかに涙を貯めているのが見て取れる。
自分の不甲斐なさを嘆いてか、僅かばかりプルプルと震えている。
これだけの覚悟を持った願いだ。
この願いを聞き届けないなど、主の資格なんかない。
などとカッコいい事を言っているが、元々快く受け入れるつもりだった。
それでもこの清らかな願いに俺の心は強く打たれているのも事実だ。
「(オリオの気持ちはよく分かった。助けに行こう)――よかろう。許可する。その場所に案内せよ」
「あっ、ありがとうございますっ! このご恩は一生忘れません!」
オリオの表情がぱあっと明るくなったかと思うと、ブンブンと何度も頭を下げ始めた。
「オリ姉、プローヴェル様は懐のふかーい方なんダゾ。オレが何回失敗しても許してくれるんダゾ」
いや、シガはもう少し自制しようね。
俺の懐は聖人みたく深いわけじゃないからね。
さすがにフォローには限界があるからね!
「こ、こらシガ。主様にむかってなんてことを。ほら謝りなさいほら」
「痛いんダゾ、オリ姉、痛い、ギブギブなんダゾ」
オリオはシガの頭に手を当て、力任せに頭を下げさせる。
これが姉妹の上下関係……。
「(大丈夫だから、シガを許してあげて)――問題ない。咎めはせぬ」
「主様がそう言われるのでしたら……。ほら、シガ、次は無いわよ」
「ううう、わかったダゾ……次から気を付けるダゾ……」
少し涙目なシガ。
今は反省してても、多分そのうち忘れるだろうな……。
「それでは我が主よ、不肖このオリオがご案内致します」
次回は下半身のお話です。




