【-追憶-】
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「君はいつから僕を変態だと思うようになった?」
「はぁ……出会った時からもうずっと変態だと思っていますけど」
旅の途中に、ケッパーは不意に訊ねて来た。こういったことはよくあることだったので、ありのままの気持ちをそのまま言葉にして返す。
「そりゃそうだよねぇ、僕みたいな変態、他のどこにも居ないと思うんだよ」
「変態であることを誇りであるかのように言うの、やめてくれません?」
呆れて物も言えないといった具合で、言い表す。
「良いんだよ、僕はそういうお下劣な誇りだけで。なんかこう、もっと高貴な誇りなんて大嫌いなんだ。肩書きは息苦しくなるだけだ。だから“禍津神”なんて騒々しい異名を付けられたことも、特段、苦とも思っていない。こういった異名のおかげで僕のことを怪しい討伐者と思ってくれる分、生きやすい」
「私は生きにくいと思いますけど」
「それは観念の相違だね。君は高い評価を受けて、それなりの地位に就くことこそが誇りであると、そう思うのかい?」
「誇りって、そういうものじゃないんですか?」
心底、興味なんてありませんけど、と後ろに付け足しながら空を仰ぐ。
「それは誇りじゃないよ。ただの名誉だ。名声ですらない。本当の誇りというものはね、誰にも分かってもらえなくて、誰にも向けられることのないもので、且つ自分で語るものですらないんだ。僕は君より長く生きている。けれど、僕という人間を語る討伐者の中に、僕のことを本当に分かってくれている人は一人として居なかっただろう?」
「はぁ……?」
首を傾げる。
「無論、君も分かってくれてはいない。でも僕はそれで良いと思っている。語ればそれは誇りじゃなくなる」
「じゃぁ、変態であることが誇りってわけじゃないってことですか? だってさっきから変態であることを誇りのように言っていますから、それはいわゆる形だけ、言葉だけのものってことになりませんか?」
ケッパーはその言葉を聞いて、特徴的な引き笑いを起こす。
「そう、その通りだよ」
「益々、あなたのことが分からなくなりました」
「きっと気付いた頃には、僕の誇りは芽吹き、蕾を作り、花として咲くと思っている。でも、このことはきっと、ただ一人にしか、気付いてもらえない。君は、気付いてくれるかな?」




