【プロローグ】
男は約束に縛られて生きていた。
女は喧騒を求めて生きていた。
男はヒーローを夢見て生きていた。
男はありし日の故郷を求めて生きていた。
男は悔いの無い人生を生きていた。
種は撒かれ、花は開いた。
水は揺蕩い、氷と化した。
大地は揺れ、光は天を求めた。
火は燃え上がり、音は貫いた。
金は暴れ、風は巻き込まれた。
故に、世界の行く末は託された。
それを希望と呼ぶかどうかは未だ分からない。
しかし、時は残酷にも流れる。
次元を超越する海魔は天を貫く塔を眺め、
混沌に融解した鉄の拳を持つ海魔はすり鉢状の大地を睨み、
海魔の王は深淵へと続く腐った海の大穴の中に身を投じた。
この世界が人間の手に渡るか、
それとも海魔の手に渡るか、
それは未だ降臨しない神ですら分からない。
ただ一つ言えることは、
“神”という異名を与えられた討伐者を海魔の王は軽視し過ぎていたということ。
彼らが紡いだ希望の糸は、決して細くか弱いものではないということ。
願わくは、
その糸が束ねられ、希望の玉とならんことを。
「とは言え、独りよがりに願ったところで事態は動かない。なぁ、雪雛 雅? さっさと自分を見つけ出さなきゃ、希望どころか絶望になってしまうぞ」




