【-死神と現人神の口論-】
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『下層部』施設におけるジギタリスたちとの戦いが終わり、一日が経とうとしていた夜遅く、ディルの部屋にノックも無しにジギタリスが訪れる。
「おい、“死神”」
「なんだぁ、今、何時だと思ってんだよ。それともテメェはそっちの趣味でもあるってのか?」
ディルは不機嫌に、ジギタリスを睨む。
「『下層部』施設を襲って、それからここで息を潜めている側の人間が言うことじゃないな。僕の権限を持ってすれば、君をここから追い出すことだってできる」
「追い出されたって俺は構わねぇぜ? まぁ、クソガキが少しばかり文句を言うが、ちょっとばかし鳩尾に蹴りでも居れれば黙るだろ」
「そのクソガキ――雪雛 雅についてだ。あの子は一体なんなんだ?」
「はぁ? 夜中にやって来てクソガキの話をしろとでも言うんじゃねぇだろうな? だったら俺だってテメェに言ってやるぜ? あの寡黙ガキは一体なんなんだ?」
ディルとジギタリスがしばらく睨み合う。
「君は彼女を雪雛家と知って鍛え上げているのか?」
「……はっ、雪雛家? そんなお偉いところのクソガキだったかねぇ、あいつは」
「知っていたんだな?」
「そうと言ったら、どうする?」
ジギタリスは手で顔を覆い、苦悩する。
「なぁにを悩む必要がある。苗字なんてただの記号だ。言ってしまえば名前だってそうだ。ついでに、雪雛家になにか取り得があるわけでもねぇだろ。ただの研究対象の一家ってだけだろうが?」
「使い手の最初の発現者の苗字は雪雛だぞ? それでも君は、取り柄が無いと言い切るのか?」
「言い切るね。ただ最初が雪雛家だっただけだ。あのクソガキは、ただの“異端者”。それ以上の力を見たことも無ければ、それ以下の力も見たことも無い。ただ、我欲の強いクソみてぇなほどワガママなガキってだけだ。で、俺に強く言える立場にあるのか、テメェは?」
ディルの追及にジギタリスは目を逸らす。
「アレに目を付けて、討伐者として育てようと思うなんて、気が狂ったとしか言えねぇな」
「君に言われたくない」
「“異端者”としても一流とは言い切れない二流か、クソガキ程度。なのに、内側にとんでもねぇもんを抱えていやがる。服従させて使役させられてんのか? あんな化け物と相対したなら、俺だったら殺すように命じている。俺の“死神”は異名だが、アレには正真正銘の“死神”が憑いていやがるんだからなぁ」




