【プロローグ 02】
♭
――君はきっと世界を変えるために産まれて来たんだ。
――次の生徒会長は月見里 光君に決定しました! 皆さん、温かい拍手を!
――月見里君はなんでも出来るんだね、凄い!
――ああ、それは月見里に聞いてくれ。
――貴方、光は才能の塊よ。なんにだってなれるわ!
――こんな息子を持つことができたのは、父さんの最高の誇りだ。
――月見里は凄いよな。不良どもをたった一人で更生させたとか。
――先生より月見里の方が、授業するのも向いているんじゃね?
夢現の男の脳内を、記憶が駆け巡る。そこに肯定も否定も加えることなく、男は微睡みに身を任せ、そして揺蕩う記憶に全てを預ける。
――分かった、月見里が凄いのは分かった。でもさ、ちょっとあり得ないだろ。
――あいつ、化けもんだろ。なんでも出来るのは良いけど、少しは欠点ぐらいあっても良いだろ。
――月見里って重そう。付き合ったらどうなるか、分かったものじゃないっていうかさー。
――将来性はあるんだけど、付き合うのは勘弁でしょ。私、普通の男が良いし。
――ヤベェだろ。なんなんだよ、ちょっとは弱みぐらい見せろよ。
――なんでも出来ることが、そんなに偉いことなのかよ。
悪夢ではない。過去にあったことが、ただ記憶として流れて行っているだけだ。だからこそ男には苦痛では無い。
男にとって、自分を分かってもらえる人間は正義であり、分かってもらえない人間は悪なのだ。だから、痛みなど感じはしない。
――なぁ、助けてくれよ。なんでそんな冷静に居られんだよ。
――死にたくない、死にたくない死にたくない! なんで私たちは助けてくれないのよ!
――使い手、だっけ? そんなのに目覚めたんなら、全員を助けるくらいしろよ!
男に寄り添うのは正義だけで構わない。悪から更生できない人間は、断罪すれば良い。そうすれば男には、仮初のカリスマが備わる。
――なんてことをしてくれたんだ、お前は。
――あなたなんて、産まなければ良かった。
そう言われ、煙たがられて数十年。父母は生きているのか、死んでいるのか。
男は頭を振って、誤魔化す。そんなことはもう、良いのだと。
――君は世界の希望になるんだ。それほどの才能を、持っているのだから。
正義だけを執行する。そうして男は真実のカリスマを手に入れることができた。男はどんな人間をも惹き付ける。信仰心は喪ってしまったけれど。




