【プロローグ 01】
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「以上が、アジュールによる報告となります」
「ふむ……死んでしもうたか」
「しかし、数千の星が巡るとき、彼女もまた、この世界、そして、我らの前に産まれ落ちることでしょう」
異様に長い髭、そして尾を揺らしながら里の長は報告に来た者を下がらせる。
「炎竜の祖たる血を流す者も、遂に果ててしもうた。我らが全ての祖である、海竜様に関わったが故の、末路なのかも知れんなぁ。そう、始祖に触れることは、ワシらには不運を招くことなのじゃよ」
「しかし、アジュールの祖父は狂い竜でありましたが、彼女は決してそうではなかったと、考えております」
付き人の一人が里の長に進言する。
「分かっておるよ。して、ワシらはどうする?」
「どうする、とは?」
「人間の、生きることへの叫びを聞き、そしてアジュールの報告を聞き、それでワシらはなにをする? 幾つかの里の長は、ワシらよりも先に人と争うことを決め、そして人と手を結ぶことを決めたそうじゃ。その両方の里から、ワシらは協力してくれと手を差し伸べられている。なにせ奇蹟たる『金』の竜を産んだ里じゃ。その里が、どちら側に力を貸すか。それは大きな大きな、両方の士気に関わる問題なのじゃろう」
付き人が各々、それを聞いて案を出し合う。人に付くべきだと言えば、海魔に付くべきだと答える者も居る。そういった言葉のやり取りはやがて喧騒に変わり、そして手は出さないものの争いへと成り果てる。
「『銀』はともかく、『金』は目覚めておらんのか」
「分かっておりますでしょう。『銀』など未だかつて目覚めた人間などおりませぬ。そもそも『銀』など『金』に劣る力。『金』もまた、純血種たる炎竜の血を流す者が全て死んだ今、目覚めることなどありません。あれは生まれ付いて発現するものであって、後天的に目覚めるものでもございません。そのことは長も一番、よく理解しているところでしょう?」
「そうじゃのう。純血種の炎竜の血を引く者が、『金』に目覚めんかったからこそ、ワシは長をやれておるのじゃからのう。人間如きの『銀』もまた、期待するだけ無駄ということじゃな」
自身に嘲笑を込めて言い放ちながら、長い尾が床を叩く。
「ワシらは未だ動かずとも良い。ワシらは、今、動くべきではないのだ。そう、始祖たる海竜様の選択を、この耳で聞くまでは、決めるべきではないじゃろう。始祖の海竜様に関われば死が訪れる。そのような不幸に、ワシらが付き合う必要もあるまいて」




