【-故に答えは出た-】
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「ふ、ふははっ……参ったね、こりゃ」
脇腹に出来た穴から止め処なくヘドロのような血を流しながら、アジュールは呟く。
大男が死んだあと、無駄ではあったがそれなりの抵抗をしてみた。人の姿から竜に転身し、“息吹”も吐いた。しかし、あの海魔には全く通じず、ただの一発を浴びて、林の中まで吹き飛んでしまった。竜の姿では目立ち、誠たち以外の討伐者に見つかりかねないことも加味して、人の姿に戻ってみてが、変わらず痛みは引いてくれず、またその体に受けた損傷は癒えもしない。ドラゴニュートの回復力をもってしても、あのスルトから受けた傷は癒えない。片翼を持って行かれたときも、治せはしなかった。グレアムも襲われた際、傷が癒えずに、エッグに呑まれてしまった。
禍々しいまでの力。浴びれば身体を蝕み、決して癒えない傷を残す力。鉄をも溶かす拳に秘められているのは、そのような呪いに近い代物も含まれているのではとアジュールは思うのだが、これを雅や誠に伝えることはできそうにない。
死に際が近付いている。それは、これだけの出血を見れば自然と分かる。
「義翼もまた壊しちまったしなぁ……ああ、畜生。もう少し、傍に居てやれば良かったか。死に目を見てもらうこともできずに死ぬのは、寂しいしなぁ」
しかし、あの場面ではああするしかなかったのだ。大男は引き下がることもなく、負けが近付いていた。大男を殺したのちに起こることを想像すれば、二つの魂はむしろ安い方だろう。
なにより、因縁あるドラゴニュートに、己自身の怒りをぶつけたかった。
「アルビノの兄貴……あんたのやっていること、きっとアルビノは望んじゃいないぞ。そんなことも、分からなくなるんなら、進化なんざアタイはしたくもないねぇ。今、このときの姿。これが一番さ。ふ、ふははは……もう少しだけ、生きていたかったがね」
自身の矮小さにもはや自虐的な笑いさえ込み上げて来る。
ドラゴニュートという種であることに誇りを持っていた。
その力は絶対であると思っていた。海魔の頂点に立ち、全ての生物の頂点に立つ者。
それこそが己たちなのだと、信じて疑わなかった。
だが、どうだろうか。世界には己たちを越えるほどの力を持った者がおり、そして人間もまだ必死に足掻いている。
滅びに向かっている種であるのにも関わらず、まだこの世界で生きようと、腐心している。なんと愚かで、なんと小生意気で、美しい生き物だろうか。
愛でていたい。ずっとずっと、愛でていたい。しかしそれももう、叶いはしない。
「これがアタイの答えさ。届けたよ、長様」
弱々しい、か細い竜の鳴き声を上げて、アジュールはその場に倒れる。
傍に誰かが居る。そんな気配を感じた。死に目を見届けてくれる者なら誰だって構わない。そしてアジュールは一つ、怖ろしいことを考えた。
「……どうだい、あんた? アタイの代わりに生きて、世界を見てみないかい?」




