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【討伐者】  作者: 夢暮 求
【-決意の少女と狂気の男-】
241/323

【-かくも気高き影の王-】

///


「勘が鋭いなぁ、“死神”は。なにもかもお見通しだ。ぼくの肉体が仮死に陥り、精神だけが影を行き来していた時期を、想像と状況だけで見抜いてしまった」


 影の王は一人、チェス盤を眺めながら呟く。


「また影の中に隠れておったのか、我が主よ?」


「いいや、どうやらぼくの臭いを嗅ぎ分ける人間が一人、そして同胞が一体ほど居るようでね、影を伝って彼らの誰かの影へと入り込む余地は無さそうなんだよ。それでも、近場に行ってくれている“彼ら”の鋭敏を通り越した超絶的な聴覚と嗅覚のおかげで、僅かばかり声を拾うことができた。だから、独り言を零したんだよ。だから、“彼ら”と相対するときに影へ入り込もうと考えていたその策を、ぼくは今ここで破却しなければならないってことさ」


「そのような姑息な手段を使わずとも、我らが主はこの世を総べる王――神を降ろす方に在らせられるはず。どうして、高々、一人の人間、同胞の一体如きに気を掛けるのじゃ?」


「彼とぼくは似ている。強者であるが故の孤独も、理解してもらえない寂しさも、超越し過ぎた力への恐怖も、なにもかも。そして、目を付けた相手は、同じ人間だった。“二十年以上前のあのとき”も、そして、二十年以上経った今ですら、だ。きっと、ぼくと彼は合わせ鏡の中と外に居る存在さ。どちらが中で、どちらが外か。それが分かるのは、まだこれからと言ったところかな」


 キングの駒を手で弄びながら、影の王は不敵な笑みを浮かべた。


「そろそろ、彼奴が接触するじゃろうて」


「目標はチェスで言うところのクィーン。しかし、そう上手く行くかな。彼はどうにも、奇襲は向いていないようだから、きっと真正面からぶつかり合うつもりだろう。復讐心に燃えて同胞を狩っていたときには無かった余裕を、持ってしまったが故の慢心だ」


「人でも無ければ海魔でも無い。あのようなゲテモノを連れ歩くのじゃ。成功してもらわんと困る。最低でも一人は奏上してもらわなければなぁ」


 ベロニカは頬に残る傷痕に指を這わせ、やがて忌々しそうに顔を怒りに歪める。


「さて、ぼくは『地を穿つ根底の苑』をさっさと造ってしまうとしようかな。『海を貫く深淵の庭』の管理は任せるよ、ベロニカ。勿論、『天を仰ぐ頂点の園』を探すのも大切だけれど、それはいつか見つけられる代物だ。ここに無いものをまず有るようにしなければ、神降ろしもままならない」


「我が主の仰せのままに」


 ベロニカはキングの駒をチェス盤に戻し、立ち上がった影の王に敬意を表し、退出するまで頭を上げることはなかった。


 チェス盤に無造作に残された駒の一つが、小さな振動によって床に落ちる。その駒はクィーンではなく――

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