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【討伐者】  作者: 夢暮 求
【-第八部-】
231/323

【プロローグ 01】


――アルガス様、どうかなさいましたか?


 大男が足を止めたことを気に掛け、この日から付き人は問い掛ける。


――ああ、彼らですか。アルガス様は気になさらなくて結構ですよ。アルガス様に近寄ることもできない、ただの有象無象です。


 付き人はそう言って、大男が眺めている人々を貶す。


 無能、と『上層部』では一般人を呼び、蔑んでいる。使い手、或いは討伐者とならなければ過酷な労働が課されるだけでなく、人としての扱いすらまともに受けることさえできていない。


――しかし、アルガス様の『土使い』としての力は偉大ですね。僅か五年で、この付近の土壌を改善するだけでなく、海魔を寄せ付けないほどの戦闘経験。アルガス様がいらっしゃれば、『上層部』は安泰でしょう。


 付き人は大男の功績を、求めてもいないのにペラペラと喋る。それは、自身に媚びを売って高い地位を目指そうとしている野心が見え隠れするほどだった。だからこそ、大男はこの付き人には決して心を開くことはないだろうと、この時に決めた。


――それとも、無能の中に好みの者でも? アルガス様の指示であれば、無能など好き放題に扱ってくれて構いません。なんでしたら、夜に侍らす女を片っ端から集めましょうか。


 そのようなことは求めていない。大男は拳を固く握り締め、続いて一般人の元へと歩き出す。


 大人も子供も老人も女も、心が死んでいる。一体、どのような言葉を投げ掛けられればこのような表情をし、そして光の宿っていない瞳をするものなのか、付き人には分からずとも大男には分かる。大男は、運命が違えばこの、未来を夢見ることさえできない一般人の仲間入りをしていたかも知れない人生を、歩んで来た。ダウンタウンで育ち、力に目覚めるまではゴミのように扱われた。だからこそ、大男はそこに、自らのダウンタウンで見た光景を重ね合わせた。


――それ以上、近付いてはなりません。石を投げ付けられでもしたら、どうするのですか?


 付き人の言葉に構わず、更に一般人の元へと歩く。


 スーツを着込んだ大男が近寄り、それも使い手がやって来たことで、死んだ心を持つ一般人の中にもさすがに動揺の色が見えた。誰かが連れて行かれ、誰かが苦しみ、誰かが嘆く。きっとそのような経験をして来たからこそ、戦慄しているのだと大男は思った。それは大男が初めて査定所に拾われたときと同じような恐怖に違いない。そんな不安を少しでも和らげるために、大男は腰を降ろし、彼らに向かって微笑む。


――こんな無能と接してはなりません。


 そう咎めた付き人を、大男は迷わず殴り飛ばしていた。


 一般人を無能と呼ぶのなら、力ある者がそれを守るべきではないのか。


 大男が自身にそう問い掛けたとき、もう討伐者になることに迷いは無かった。

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