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【討伐者】  作者: 夢暮 求
【-才能の花と夢見た男-】
207/323

【-人はどうすれば強くなれる?-】


 雅は、足元が砂で満ちている施設を利用する許可をジギタリスから得て、そこで短剣を振り乱しながら考える。

「風紋、か」

 こうして身を動かしているのは、足元が不安定な場であっても変わらない剣術を発揮するため、そして自身の動きの最適化のためでもある。乱れ無く、キレのある動き。無駄を排除し切った動きを求める。誠の動きを参考にしようとも思ったのだが、彼の場合は“受けること前提の動き”を取っている。即ち、自身の『光』による鎧、或いは盾で攻撃を受け止め、そこにできた隙を突くという反撃型。攻勢に出たとしても、やはり“受ける”ことを重視する。その動きに無駄を無くし、キレのある動きに変えているため、雅の戦闘スタイルとは異なる。


 だから、剣捌き以外に得るものは少ない。


 今まで、なんでもかんでも見て、真似てここまでやって来た。けれど、ここからは自分自身との戦いだ。


 ディルから教わったこと、葵の力の使い方から学んだこと、楓の動きから知ったこと、誠の戦い方から盗んだこと、そして鳴とジギタリスの力の使い方を真似たこと。これらは全て付け焼き刃だったのかも知れないけれど、今は自身の基礎に変わっているはずだ。

 それを確かめるように、足運びや体の捻り方、そして短剣の振るい方などを一つずつ確かめ、最後に、自身が振るう側とは逆に『風』の力を及ぼし、噴射させることで一瞬であれど自身に備わる腕力以上の速度で短剣を振り抜いた。直後、筋肉が悲鳴を上げ、そして骨が軋み、肩が外れるかと思うほどの恐怖から思わず、短剣を手離してしまう。


「これはまだ、調整が必要、ね」

 砂地が描く風紋が異常なほどに乱れている。雅は片腕の痛みを堪えつつ歩き、手放してしまった白の短剣を拾う。

「御免ね……もっと上手く力を使いたいだけなの。ここまで付き合ってくれて、それでも折れず、そして私を主と認めてくれていること、とっても嬉しいわ」

 そう白の短剣に語り掛けつつ、黒の短剣も見据える。


 アルビノの短剣、そしてリィの短剣。両方とも大事な雅の武器であるのは変わらないが、そこに残されている意志に反するような、雑な扱い方はしたくない。


 戦いの中で投げることもあるけど、それはそれ、これはこれ、だもんね。


 あれは人を守るために、誰かを守るために力を用いている。そして、その力に触れるように投げている。一度も、なにかを傷付けるような、そして誰かを殺すような想いを込めた力に向かって投げたことはない。

 そして、そのように扱っても白の短剣も黒の短剣も、雅を主を認めている。見放してはいない。それは短剣に込められた意思が、その使い方を認めているという証拠でもある。

 だとしてもだ。投擲に頼り続けるような今の戦法では駄目なのだ。確かに、『風』の力で加速させてなにもかもを貫く一投は、対象の度肝を抜くに違いない。だが、同時に手元にあった一本の短剣を手離すことになる。


 もっと、二本の短剣を手元に置いたままの戦い。それができなければ、それでは、きっと頭打ちになる。楓が自信の才能に甘えているのなら、雅も戦法に甘える形になってしまう。

 だからこそ、ジギタリスの力の使い方は学び、会得しなければならないことなのだ。手元に短剣を残したまま、自身の細い腕から繰り出す剣戟を、噴射によって数倍にも威力を高めることができる。ただし、今のように『風』の力を筋力が耐え得る限界を超えてしまうと、自身に大きな負荷が掛かり、意味も無く自分を傷付ける結果になってしまう。


「葵も楓ちゃんもデュオで、私と鳴、あとついでに誠はソロ。ソロがデュオになる方法って、あるのかなぁ……いや、二つあれば有利と思っちゃいないけど、戦いの幅が広がるのは、大きい気がする」

 ディルたちは、揃って五行に属する力が重複しているらしいから、実質のところはデュオ。そして、自身からベロニカと名乗った海魔から“理”を取られてしまわなければ、あの男はクインテットではなくセクステットという、五行を超えたわけの分からない力の持ち主であったということになる。討伐者証明書の星は五つしかない。『金』の力が重複していたのだから、気付くわけもない。

「重複……力の重複。本来、有り得ないデュオ……『風』に『風』を重ねれば、私もデュオになれる……?」


「なれないなれない、そう簡単にデュオになれたら、私たちの存在意義ってなにさっていう話になっちゃうから」

「ひゃうっ!?」

「お尻を触っただけで、そんな声を出しちゃってさー。ふふふ、でも、良い触り心地だったなー、固くもなく柔らかくもなく、実に良い感触。でもでも、肝心なのは胸だからねー」

「なんの話ですか!? というか、どこから入って来たんですか!」

「私は情報屋みたいなものだよ。ここを一時的な拠点に定めた以上は、どの部屋にも私という残滓を置いている。ダム近くの都市じゃ、残滓で話すことはできなかったけど、この拠点一帯に置いているのは、入れ替わることのできる強いやつ。クソロリとウブロリの話を盗み聞きしたときだって、私は突然現れて、突然消えたでしょー?」


 だからって、水を吸いそうな砂場にまで現れるとは思わなかった。他のことに気を取られていたこともあるが、リコリスの接近を、お尻を触られるまで気付かなかった。

 しかし、考えてみれば至極当然なのだ。この女は“人で無し”。人であって人じゃない。人の形を取っていても、人という概念からは遠い存在。だから相応に集中していなければ、気配を感じることなんてできるわけがないのだ。

「そういうセクハラ、ケッパー並みで嫌になるんですけど」


「私は手を出すセクハラ、アガルマトフィリアのは手を出さないセクハラ。一緒にされると嫌なんだよねー、なんてーか、あれと一緒にされると殺したくなっちゃうくらいに腹が立っちゃうからさー」

「……すみません」

「でもー、アガルマトフィリアは私たちの中では一番、頭が良いと思うよー。育ちの良さが出てるんだよねー、“正義漢”はちょっと一所に籠もり過ぎたから、外を知らない。それに比べて、あれは外も内も知り尽くしているからねー。特に海魔の特性、異常性、その辺りは私じゃ調べられない領域なのに、やたら詳しい」

「ディルよりも?」

「ディルの知識は、出会った海魔のものしかない。けれど、アガルマトフィリアは、出会っていない海魔の情報も持っている。膨大な知識を脳の中に入れていて、いつでも引き出す。海魔についての情報なら、なんであろうと集めようとする、ビブロフィリアも真っ青なほどの収集家。人形に目を向ける前は、さぞ漫画や書物の収集が好きだったんだろうねー、今じゃ、ただの変態にしか見えないけどー」

 貶しつつも、リコリスはケッパーのことをどこか買っているようにも聞こえる。ただ、それを言うと、ひょっとすると逆鱗に触れてしまいかねないので、措いておく。


「リコリスさんは、どうやって重複したデュオに?」

「教えなーい。あなたに教えるのは、あのクソ男の仕事でしょー。私は勘弁願うわー……だから、あの胸ロリで納得したわけだし」

「納得?」

 後半は独白のようだったが、しっかりと雅の耳に届いていた。それに気付いたリコリスは、僅かに動揺の色を見せたが、すぐに飄々とした態度を取る。しかし、それは真実に近付こうとした雅を遠ざけるための必死な取り繕い方に感じられた。

「……さーて、問題でーす、勘の良いクソロリ。人は、どうすれば強くなれる?」


「努力、才能、勉強? あとは人間関係……友情、とかですか?」


「違うなー」

 リコリスがスッと雅に近付き、耳元で囁く。

「人は“なにか”を喪失したときに、初めて強くなる。物を壊されたときの激昂も、者を殺されたときの激情も、それは片時であれ人を強くする一つのプロセス。激昂と激情が過ぎたのち、その人に残されるのが果たして、求めていた強さかどうかは、さておいて、ね」

「喪……失?」

「まだクソロリには分かんないよねー、きっと。そして、馬鹿ロリもきっと、まだ分かっていない。自分がこれから強くなるために、なにを踏み台にしなければならないのか、を」

 それじゃーねー、と言い残してリコリスは砂場の施設から出て行く。入るときは残滓を利用したのに、出て行くときは堂々とし過ぎではないだろうかと、彼女の行動に溜め息をつきつつも、ここは今、安全なのだと再確認して、胸を撫で下ろす。


 誰にも襲われず、海魔にも襲われない。安全で、心安らげる場所。なのに、どうしてか雅は落ち着かない。


 それは、今までの経験から導き出された予感である。


 どこに行っても、安息の地は無かった。


 自身が過ごしていた浜辺の町も海魔が蔓延り、廃墟と化した町もまた海魔が跳梁跋扈していた。山間の街はセイレーンの――ベロニカの歌声で壊滅した。選定の町は海魔の襲撃に疲れ、ドラゴニュートの庇護下に居ることを良しとしていた。

 そして、ダムの近くにある都市。そこに至るまでの道中でも海魔に襲われた。そして、ジギタリスが警戒していた、この施設でも最終的には、影に隠れていた海魔の侵入を許してしまった。最後のそれは、まさに自身の注意力の散漫さによる失態であったのだが、けれどダム底に眠っていた、オロチと呼ばれた海魔は、ジギタリスでも見抜くことはできていなかった。


 つまり、どこにでも海魔は侵入する。どれだけ警戒していても、必ずどこかから忍び込む。ここの厳戒態勢を通り抜けたときは雅――人を通じて侵入した。次は一体、どのようにして入って来るのか。不安で仕方が無い。


 その不安が、約束された安全も、心の安らぎも、一時の休息だと感じさせていた。

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