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「お願い…!間に合って…………!」
少女は走りながら思い出していた。
自分の境遇、このWHについての記憶、そして……あの人との関係。
しかし、思い出そうとする度自主規制が働き邪魔してくる。思い出すことはいけない、とそういっているように。
あの人を救うには、忘れ去られた記憶を思い出さなくちゃいけないのに。
「…………危ない…ッ!」
声が聞こえて、はっと我に帰った。いつの間に、こんなところまで来ていたのか。ここ、えーと、ここ、どこだろ。突然気付いたものだから、場所が分からない。あ、ここって、本館の…………
「逃げて!××ちゃん………ッ!!」
…………ぇ
いま、
……………………………なんて言っ
「ガ、ガガガ、…か、…ゴ、こ、ンヂチわ」
「…………?」
嫌な機械音と鉄の塊が胸に飛び込んできた、
ということしか、瞬時でわからなかった。
胸にぴりっとした痛みと、
焼けたような熱さを感じる。
「か、は…………ッ」
口から出る生ぬるい何かを見て、
目の前の[鉄の塊]が
私に[反応した]copy dollだと気付いた。
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反対側の鉄格子が完全に開き、奥からふらふらと少女が出てきた。
「え……女の子!?」
「『あれ、女の子じゃなくて、』」
丁度その時、どこから流れているのか壊れたスピーカーの砂嵐のような音がリング上に響く。いつぞやに聞いた、大人びた幼い少女の声だった。相変わらず、抑揚の無い平べったい声だ。
<Ladies and Gentleman.welcome to the Colosseum !! Please enjoy the energetic fight of [the crybaby rabbit] today. The most of event at today's Colosseum is a partner of [the crybaby rabbit]. Well....Come and kill !!>
…………に、日本語じゃなかった…………!!
「ねぇ、放送…なんて言ってた?………はは…なんてね。涙にもわかるわけないか…」
「『きょうのころしあむ、とくべつみたい。』」
「…へ、へぇ、英語わかるんだ……」
「『…?』」
こんなことなら外国に生まれたかった…ッ!自分の引きニート時代をふと思いだし、悔し紛れにそう呟いた。涙に、うるさい、とたしなめられる。
「『てき、こぴーどーるだよ』」
「…………え?」
「『きょうの、とくべつ。こぴーどーるがてきだから』」
涙が、さも大切なことであるかのように2度も言った。
copy doll。その名は、忘れもしない。WHに来て、最初に知った自分の愚かさの元凶だ。
『にゃんちゃーん!今日は鮪さんを捌いたよ!』
…琉知愛。
『あ、いただきますはー!?』
可愛い、
『もう、ハジマッタノニ…』
狂った 琉知愛。
「『あのこぴーどーる、つくりたてなんだね。あるきかたも、わかってない』」
涙がふと呟いた言葉に、はっと我に帰った。…え、作りたて?
「そ、そんなの簡単にやられちゃうじゃねーかよ!」
「『ぜ、ぜろ…!こえ、おっきい…!』」
「あ、ご、ごめん」
ばしばしと叩かれる。やたら痛いが、行動が可愛い。バレたかと思い下を覗き見るが、客席にいる謎の集団は咆哮するライオンに興奮して食い入るようにリングを観ている。
「『こぴーどーるは、たたかうのうりょく、もとからあるよ』」
「そ、うなんだ…」
安心して尻餅をつく。しゃがんだままだと、コンビニに集うヤンキー氏になってしまうからね。盗んだバイクで走り出さなくちゃいけないからね。
「『…………はじまる。』」
涙が息を飲んだのと、ライオンとcopy dollが動いたのとは同時だったと思う。涙の目が輝きを増す。白い髪が顔にかかる。
「キャキャキャ」
ライオンが大きな肢体で、それでも滑らかな動きで敵に襲い掛かる。が、当のcopy dollはふざけたようにゆらり、ゆらりと蠢いている。ライオンが勝つことが狙いなのか、外の観客達はブーイングの嵐だ。
「『らいおんさん、がんばって…』」
涙の声が届いたのか、ライオンは疲れはてた身体を無理矢理動かす。copy dollは相変わらず、ゆらりとかわす。
しかし、その時事態は起きた。
「『あ、でるよ!でる、くろいきり』」
涙が唐突に叫び出した。
「黒い霧って、な──────……」
突然ぶわっと、動きを止めたライオンの周りを、その名の通り黒い霧が取り囲んだ。観客も騒ぎ出す。なんだ、これ…?
まさか、これも…異脳……?
「『ぜろ、め、あぶないよ。どやっ』」
ふと涙の方見ると、涙はゴーグルのような物をかけていた。ゴムの部分に捲られ、綺麗な髪の毛がくしゃくしゃに乱れている。…ドヤッ?
「…いやドヤッじゃねーよナニソレ」
「『ぜろも、どやっ』」
渡されたゴーグルのような物をかける。かけて、分かった。ような物、ではなくゴーグルでした。
「『このくろいきり、めにはいると、すごくいたい』」
「ちょっと遅かったのかな、うん、目ぇいたい。唐辛子はいったみたい」
ぐおおお、と目を抑え暴れまわる。めっちゃ痛い。これは、これ、こ、いてえええええうひょおおおおおお、涙とまんねぇぇぇぇぇぇぇぇ
苦し紛れに、穴をもう一度見てみる。
黒い霧は視界全体を覆うように真っ黒だった。なにも見えない。加えて、先程までざわめき、発狂寸前だった観客の声が一切聞こえない。
<Winner....[the crybaby rabbit].>
幼い少女の声だけが、響き渡る。
スピーカーの砂嵐が消えた頃、黒い霧も消え始めていた。
ライオンの寂しそうな鳴き声が、悲痛に響いた。完全に霧の無くなったリングの中心で、見るに無惨なcopy dollの姿と、目から赤い涙を流すライオンの姿がはっきりあった。観客は、固唾をのんで見守っている。
ライオンはもう一度、寂しそうに鳴いた。
孤独に苦しむ兎のように。
お久しぶりです、作者の樹でございます。
一つだけ、言っておきたいことがございまして、後書きに書かせていただきました。
途中のアナウンスは
[the crybaby rabbit]以外、特に意味はありませぬ
…………はい。それでは、ごきげんよう!




