enter22>>謎
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「おや、…私もそろそろ行かなければ」
宇佐見さんがふと立ち上がりそう言った。僕はこれから、どうなるんだろうか。……検討もつかない脳ミソに腹が立つ。
「…これから検査なんだ。行ってくるよ」
苛立った脳ミソで生半可な返事を返す。宇佐見さんは、困ったように笑った。
「…あ、そうそう。私はしばらくここには帰って来れないから、詳しい案内は別の人に任せるね」
「け、……検査って何をするんですか」
「ん~、いつも血液検査だけなんだけどね…今回は何だか違うらしくて、よく分からないんだ」
へらり、と笑った宇佐見さんが何故だか不憫に思えた。
「あ、あの、宇佐見さ────」
……あ、宇佐見さんが危ない
「──────ッ!?」
「ぜ、zeroくん?大丈夫かい?」
突如、呼吸もできない程の頭痛に襲われた。それに今の、今の感覚…
どこかで同じようなことがあった気がする。なんだ、なんなんだ一体。
「涙、どこだい?涙?」
「涙?」
宇佐見さんが、空中に向けて口笛を吹いた。まるで、何かを呼ぶようなその音に反応したように、突風がふく。
「『るい、ここだよ』」
突風に目をつむると、いつの間にか目の前に知らない子供がたっていた。白いワンピースが、風になびいている。あれ、機械の声……?
「やあ、涙。この子がzeroくんだよ、私がいない間頼めるかい?」
「『わかった。るい、がんばる』」
何処からかふらっと現れた、白いワンピースの少女。るい、という名前らしい。声が機械音だから、本当に少女なのかも危ういが。
「それじゃあ…zeroくん、涙。行ってくるね」
「『がんばって、うさみ』」
「……いってらっしゃい」
宇佐見さんは僕らの挨拶を聞くと、ふと微笑んで、大きな鉄の扉に吸い込まれるように入っていく。さっき感じた、謎の感覚が、宇佐見さんを止めろ、と僕の精神に命ずる。
しかし、おろおろしている間に宇佐見さんは扉の向こうに消えた。何故か、もう帰ってこないような気がした。
「『ぜろ、よろしくね』」
二人きりになると、涙は扉を見たまま言った。涙の声はやっぱり機械音で、彼女もまた改造人種であったと気づかされる。
「…宜しく、えっと……涙、さん」
「『うわさによると、ぜろよりるい、とししたなんだよ』」
「え?そうなん、ですか…」
「『ぜろ、もう、るいのともだち。けいご、いらないよ』」
「ああ、そういう──────!?」
くるっと振り返った少女に、僕は腰を抜かしそうになった。
「……ッ!」
ずっと、
探していた。
会いたかった。
あの子に、
あの少女に、
「『ぜろ、どうしたの………わっ』」
……───────瓜二つだった。
考えるより先に抱き締めていた。涙が止めどなく溢れる。ふわりとする身体、温かい体温…
それらが全て、ツーさんの異脳のような偽物ではないと教えてくれる。会いたかった、あの、不思議な少女……
「『ぜろ、どうしたの、ないてるの』」
「…………会いたかった…」
「…『ぜろは、るいのこと、しってるの』」
「……え?」
ばっと涙の身体を離すと、涙はきょとんとした表情で僕をみていた。
「『るい、ここにずっといるのに』」
「……ずっと?」
「『ここが、るいのおうちだよ』」
涙は無表情な顔を、よく見ていないと分からないほど微かに歪めて笑った。…確かに、涙はあの少女とは違う気がする。
頬の謎の模様も、綺麗な長い黒髪も、涙には無い。ちゃんと見直すと、涙は白髪でショートカットだった。全くの真逆なのだ。
「人、違い…………?」
「『るいは、るいだよ』」
不思議そうに首をかしげる、涙。でも、そっくりなのだ。髪が違っても、服装が違っても、声が違っても、顔だけは、あの綺麗な顔だけは忘れない。間違えるはずがない。
…………かといって、似ているだけでこんな感情になるのだろうか?(別に美少女だから抱き着ける程、まだ僕は変態ではないもん!)
その時、ガラスの壁に掛かっていたデジタル時計が大きな音をたてて鳴った。
「『あ、ぜろ!!いまから、ころしあむ、あるよ!』」
「ころしあむ…?なんだそれ」
「『ころしあむ、みれるよ!』」
返事をする前に、妙に興奮した様子の涙に手を引かれ、建物の中に入っていく。広い広場の端にある小さな窓を開き、そこに涙は手をかけた。
少女といた時のように片手で担ぎ上げられ、そのまま窓の向こう側へするりと飛び出した。
「え?なに、え?」
「『ここ、るいのおへや』」
そう呟く涙。窓の向こう側は、真っ暗で何も見えなかった。担ぎ上げられたままではあるが、不安で仕方ない。涙の白い肌が、暗闇の中で光って見える。
「『しー』」
涙は、人差し指を口許に当てた。不覚にも、めっちゃ可愛い。
真っ暗で、前もうしろも分からない場所を、涙は真っ直ぐに歩いていく。飛び出してきた窓の光だけが、確実に僕らを照らしている。
「ねぇ。ころしあむって何なの?」
「『ころしあむ、たたかうところ』」
「へ、へぇ?」
「『おりて』」
そう言うと、足場があるかも分からない場所に降ろされた。しっかりした床があった。
「『よいしょ。よいしょ。』」
突然しゃがんだ涙は、床にある一部をペタペタと触り、床の一部を取り外した。忍者か。
「『はじまってる』」
そう言われ覗いてみると、眩しい光に目が眩んだ。
目がなれてくると、真下に檻のようなリングが見える。リングの周りには太い鉄格子が並び、その周りには沢山の見物人らしき人々がいた。皆、顔を隠している。なんだ、これ?異質な雰囲気に飲み込まれそうになる。
リングの一部分の鉄格子が開くと、その奥にあった大きな道から、巨大なライオンが不気味に喉をならしながらゆっくりと歩いて、リングに上がる。
「…………ひー、でけぇー……」
「『あのらいおんさん、つよい』」
「つよい?」
「『まけたことない』」
涙はうんうん、と大きく頷いた。
巨大なライオンは鼓膜が破れる程咆哮したのち、威嚇の目を反対側の道に向けた。
「…………あれ?」
ふと、何だか違和感に気が付く。このライオン、何だか…普通じゃない気がする。確かにデカイから、そういう意味もあるんだろうけど。……なんだ?
謎の不安にかられているとき、反対側の鉄格子が厭な金属音を奏でながらゆっくりと開かれていた。




