enter19>>呪
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喉の奥がいたい
吐瀉物の臭いが鼻を突き抜ける
「ああ、大丈夫かいzeroくん…」
さぞ心配してます、とでも言うように宇佐見さんが近づいてくる。
息が苦しい
全身から水分が抜けていくようだ
「皆、最初は怖い。でも根はいい奴等ばかりだよ、気にしなくていい」
彼は、まるで笑っていない笑った目を僕に向け僕の背中を撫でた。
身の毛がよだつような臭いが宇佐見さんから匂う。
逃げだしたかった。
僕は、このままでは危険なのか
「ズァ、ズァいじょうぶですズァ」
ぶわっと嫌な臭いが近づいてきた。
反射的に目をやると、首の方向がおかしい男がこっちに毛むくじゃらの手を伸ばしていた。
「う゛ぁぁぁぁぁぁ!!!」
「あ、こらこら隈井くん。zeroくんを驚かせちゃだめだろう?」
「ズァっ……ご、ごめんズズァい(ごめんなさい)」
反転していた脳ミソが玉座に戻ってきた。
「……はぁっ……はぁ……ッ」
二重にも三重にも見えていた周りが、ようやく形に戻ってきていた。
頭がいたい。逃げたい。
隈井くん、と呼ばれた男はやっぱり首がおかしかった
傾きすぎている。
首から下は、
「首から下は日熊だけど、普通の男の子だよ。ね?進藤くん」
「ズァい(はい)、よろじ、く、zeroぐん」
傾きすぎている首が笑った。
隈井が僕に笑いかけると周りの奴等も恐る恐る近づいてきた。
臭いが一斉に立ち込める。またはきそうになった。
ほら、………………ほら…………ぼく
頑張らないと
平常心を 保て
いつもの、
いつもの僕 らしくいろ
ぼくらしいおれでいろ……
ふらふらしながら立ち上がる
頭は相変わらず、揺らめいている
「…宜しくお願いします、皆さん!」
顔面の笑顔は、
保たれた
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僕らは、外にある草むらで話をしていた。
風が吹き抜けるが、その度、獣の臭いだけが充満する。
「いやぁ、次に来る子はどんな子なのかドキドキじでいたよ!」
「僕らは、人見じりだからね!」
横にいる男、……基、男達が言った。
彼、……基、彼等の名前は二階堂といった。二人で一つだ。
彼等には、顔を除いて体が一つしかない。
中心に生えた首から上はなく、両肩に入り込むように二つの少し長めの首が伸び頭がくっついていた。
「zeroくんはもっとぉーー、こわそうな子かと思ってたわぁーー!」
語尾を伸ばしがちなのが、烏山さん。
自称三十路の女性だ。
目が、4つある。2つは人間の顔にあるであろう位置に鎮座している。
頬に、適当にくっ付けられたかのようなもう2つは、機能していないのか白濁として死んだ魚の様だ。
無理矢理捩じ込まれたような2つの目が邪魔で表情括約筋は全く動いていなかった。
確かに話してみると、臭いがすごいが皆さんイイ人だ。
ただ、おかしい。形状、話し方、…
失礼だとは思うが、すごく[気味が悪い]のだ。
この人達は何故、こんなことになったのだろうか。
そればかり気になって会話に集中出来ない。
「あたし達はね、何千と数がいりゅ(いる)のよ。だかりゃ(だから)、皆のことを紹介すりゅ(する)のは難しいわね」
会話がふと耳に入り、我に返った。
話していたのは、足が極端に短く頭でっかちな、まるで小人のような尾々元さんだ。
……何千と??
「そんなに、いるんですか?」
「えぇ、そぉーよぉー」と烏山さん。
想像不可能な数だ。
日本円でいくら??…日本円だよ。
以前、琉知愛と観たお笑い番組の寒い芸人のネタが思い出された。
表情が消えた。
「……ぜ、zeroぐ……ん?」
誰かの心配げな声が聞こえ、静まり返った。緊張が走る。
「さ、……さぁさ!皆、薬の時間だ。部屋に戻ろう」
宇佐見さんが声を張り上げると、皆各々散らばって去っていった。
どこに行くのか見る余裕もない。
「……どうしたんだい、zeroくん。……何か思い出したのか?」
宇佐見さんが呟くように、言った。
子供のように、首をふって否定する。
「私達もね…最初は普通の人間だった。」
宇佐見さんは、僕の横に座った。
風が吹き抜ける。臭いは気にならなくなっていた。
「……私達は[作り替えられて]しまったんだ。…皆、身寄りのない者ばかりだったよ」
「……作り替えられる?」
僕が聞くと、宇佐見さんは自傷気味に笑った。
「元々、私達も異脳者だった。WHに[回収されて]ここに来た。何せ、身寄りのない者達だったから抵抗しても無駄だったんだよ」
宇佐見さんの握り締める拳が、草むらを殴った。
宇佐見さんは、思い詰めたような表情をしている。昔の、僕のように。
ただ、僕はそれを
見つめることしか出来なかった。