第一話 童話『王と妃と魔女』
昔、ひとりの美しい王がいました。王には美しいお妃がいました。
ふたりは互いに深く愛し合っており、二人の王子と一人の美しい姫に恵まれ、長いこと幸せに暮らしていました。
美男美女と名高いふたりは国じゅうの民から慕われていました。
あるとき妃が病気になりました。
国じゅうの医者にみせましたが、病を治せないといわれてしまいました。
日につれて病気が重くなっていく妃に王は悲しみにくれながらすごしていました。
あるとき王の前に一人の魔法使いを名のる女があらわれました。
顔は美しかったのですが、高慢でうぬぼれが強く、世界中で誰よりもすぐれた魔法使いだと思いこんでおりました。
女はいいました。
「わたしが王さまの願いを叶えてみせましょう。願いが叶ったあかつきにはわたしを妃にしてください」
「その代わり叶えられなかったときはその首をもらうぞ」
「ええ、どうぞお好きになさってください」
それから女は三日三晩部屋にとじこもると、病を治す薬作りに専念しました。
そして三日後、できあがった薬を妃に飲ませたところ、たちまち妃は元気をとりもどしました。
白かった頬は赤みを取り戻し、肌もふっくらとしていました。
王は妃と手をとりあい喜びましたが、女との約束も忘れておりませんでした。
やくそくしたように女を側室にすると告げましたが、女はひどく怒ったようすでいいました。
「約束が違います。私は妃になりたいのです。それとも王さまともあろう者が約束を違えるおつもりですか?」
王は不用意に約束してしまった自分自身を反省しながら女を妃にしました。
元気になった妃は側室になってしまいましたが、変わらずふたりは深く愛し合っていました。
新たな妃となった女が嫉妬してしまうほど仲の良いふたりに助けるのではなかったと心の底から後悔するほどでした。
しばらくして今度は王が病気にかかりました。
世界中の医者に見せましたが、治せないと知ると側室になった妃は女に王を救うように頼みました。
妃になった女は答えました。
「王とわたしの前に二度とあらわれないのなら治しましょう」
女の言葉に妃は悩みました。王のことは愛しておりますし、ずっと側にいたいと思っていました。
ですがこのままでは王を救うことは出来ないと判断した妃は女の要求を呑むことにしました。
妃は王が治るのを確認する前に城を追い出されました。
邪魔者が消えた女は喜びながらつきっきりで王を看病しました。
そしてすっかり病気が治った頃には王の愛する妃の記憶も病と一緒に消えていました。
元気になった王はつきっきりで看病してくれた女を深く愛するようになりました。
王の深い愛を感じ、妃となった女はとても幸せでした。
それというのも、女は王の病気を治す薬と一緒に飲ませていた別の薬がありました。
それはもっとも愛するものを忘れる薬でした。
それにより愛する妃を忘れてしまった王は側にいた女をすり込まれたように愛してしまったのでした。
高慢な女は妃の地位を手に入れたことにより、その本性を露わにしていきました。
女の正体は魔法使いなどではなく、魔女でした。
日に日に増して行く悪事の数々に家来は困り果てていました。
そしてその悪事を暴いたのは王と妃の子どもたちでした。
王子たちは城から追い出された妃を連れ戻し、真実を王に告げました。
子どもたちの言葉に全てを思い出した王はすべての元凶である魔女を火やぶりの刑に処しました。
そしてふたりはいつまでもいっしょに幸せに暮らしました。
童話『王と妃と魔女』から抜粋