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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第四章「乾いた地平線 ― The Dry Horizon」

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第三部 三年前のブカレスト




 ヴィクトルお手製の昼食後。


 リヴァはログハウスの外の段差に座っていた。AXMCの清掃をしていた。バレルを拭いて、ボルトを確認して、また拭く。


 そのとき、風があった。砂埃の匂いがした。


 顔を上げた。


 アルバンが立っていた。


 十メートル先。砂利の上。


 サングラスをかけていた。レンズの奥の目が見えなかった。黒いシャツ、手ぶらだった。


 アルバンは言った。


「迎えに来た」


 近づいてきた。


「……なんで」


「辛そうだったから」


 リヴァはAXMCのバレルを置いた。動けずにいた。


 その瞬間、ログハウスのドアが開いた。



 カイだった。


 一瞬でアルバンを確認した。


 HK416を構えた。


 レッドが出てきた。Colt Pythonを抜いた。首を鳴らした。


 イーサンが外周から来た。アルノが出てきた。Walther PPKを左手で持った。


 ヴィクトルが最後に出てきた。昼食の片付けを終えて、マセラティに煙草を取りに行っていたところだった。Beretta 92FSを持っていた。


 アルバンを見た。


「……久々だな。また会いたくはなかった」ヴィクトルが言った。


「誰だ」


「覚えてないのか」


「覚えていない」


「三年前ブカレストの港にいただろ。倉庫の仕事だ。俺以外全員お前にやられた」


 アルバンが少し止まった。


「思い出したか?」


 この間、ヴィクトルはリヴァを逃がす方法を考えていた。


 見当がつかなかった。


 三年前と同じになる。その可能性が高かった。


 それでも口が動いた。


「今日は何しに来た」


「彼女を迎えに来た」


「迎え?」ヴィクトルは笑った。「おいおい、女を迎えに来るなら花束の一本も持ってくるもんだろ。それがわかってるのか?」


「わからない」


「そういうもんだ。手ぶらで来て連れて行こうとするのは、やり方がなっていない。今日は帰れ。出直してこい」


「帰らない」


「聞いてたか?」


「帰らない」


 ヴィクトルが少しだけ目を細めた。


 交渉が通じる相手ではないのはわかっていた。三年前もそうだった。ただ、黙って引き金を引くより口を動かした方が、自分が落ち着いた。


「……交渉の余地は」


「ない」


「まったく?」


「まったくない」


 ヴィクトルが息を吐いた。


「なら、しょうがない」


 Beretta 92FSを構えた。



 カイが合図を出した。


 視線だった。声を使わなかった。


 レッドが右に散った。イーサンが左に出た。アルノが背後に回った。ヴィクトルが正面に残った。


 リヴァが射線のすぐ脇にいた。撃てば、アルバンが盾に使える距離だった。


 五方向から同時に動いた。


 カイが正面、ヴィクトルの横から入った。HK416を構えたまま間合いを詰めた。同時にレッドが右から来た。イーサンが左から来た。


 アルバンが動いた。


 カイの懐に入った。HK416の銃口を内側から押し上げた。カイの右腕が上がった。その腕を取った。体を回した。


 カイが砂利に落ちた。


 日本の時と同じ。全く重さがないように投げられた。


「……っ」


 右から来ていたレッドがアルバンの側面に入った。腕を取りに行った。


 アルバンが振り返らなかった。


 レッドの腕が当たった瞬間に体を沈めた。腰を使った。


 レッドが宙を舞った。


「おいおい——っ」


 背中から砂利を叩いた。


「……マジか」


 イーサンが計算して入った。アルバンが体を回す動きの逆側から来た。体重を全部乗せて腰に向かった。


 アルバンが受けた。止まった。動かなかった。


「なぜだ」イーサンは言った。


 関節を狙った。取れた、と思った瞬間にアルバンが体を半回転させた。腕ごと回された。


 一本背負いだった。


 背中から落ちた。


 アルノが側面からWalther PPKを撃った。今度は引き金を引いた。


 アルバンが前に踏み込んだ。弾が後ろを抜けた。


 懐に入ってきた。


 アルノの顔の横に右手を振った。


 掌底だった。


 眼鏡が飛んだ。


 アルノが横に吹っ飛んだ。


 思わず声が漏れた。


 飛ばされたまま、動けない。


 ヴィクトルが撃った。アルバンが右に出た。弾が左を抜けた。


 懐に入ってきた。


「待——っ」


 腰を落とされた。肩に乗せられた。


「待て待て——っ」


 投げられた。


 肩から砂利に落ちた。



 リヴァがGlock 19を抜いた。


 アルバンとの距離は二メートル。外す距離ではなかった。


 アルバンの胸の中央に照準を合わせた。


 引き金を引いた。


 アルバンは避けなかった。


 弾が、その左脇を抜けた。


 後ろの砂利が跳ねた。


「……え?」


 リヴァは動かなかった。


 照準は、ずれていなかった。




 アルバンが一歩動いた。


 カイの頭部に向かって足を踏み込んだ。


 リヴァが一歩出た。砂利が鳴った。


「…待って」


 アルバンが止まった。


 足が砂利の上で止まった。カイの頭から十センチのところで止まった。


 アルバンがリヴァを見た。


「……殺さない方が嬉しいのか」彼は言った。


「嬉しい」


 少し間があった。


「そうか」


 足を引いた。


 カイから離れた。


 全員から離れた。


 その真ん中に、アルバンが立っていた。


 息が乱れていなかった。汗もなかった。


 リヴァを見た。


 歩いた。


 リヴァの前に来た。


 止まった。


 片膝をついた。


 カイが砂利に手のひらをついたまま、こちらを見ていた。立てなかった。


 レッドが肩を押さえながら、空を向いていた。


「……おいおい」彼は言った。天を見たまま言った。「本当にマジか、これ」


 イーサンが両手を砂利についていた。立ち上がろうとしていた。できなかった。


「なぜ通らない」咳をしながら、彼は言った。


 アルノはまだ動けなかった。小さく呻いている。


 ヴィクトルが肘をついていた。上半身を起こそうとしていた。


「……また全員やられてる」ヴィクトルは言った。


 アルバンだけが立っていた。


「来い」彼は言った。


 アルバンの灰色の目が、見上げていた。何も読めない目だった。ただ、リヴァだけを見ていた。



 アルバンが手を伸ばした。


 リヴァの腕を取った。


 引いた。


 もう片方の腕がリヴァの膝の裏に入った。


 持ち上げられた。


 抱えられた。


 銃が手から滑り落ちた。


 抵抗しようとした。


 何をすればいいのか、一瞬わからなかった。


 その一瞬で、足が砂利から離れた。



 背後で砂利が鳴った。


 カイが片膝をついていた。立ち上がりきれないまま、それでもこちらへ這っていた。


「放せ」


 アルバンがカイを見た。何も言わなかった。


 アルバンがリヴァを抱えたまま踵を返した。


 車があった。


 黒いBMW 7シリーズだった。いつの間にかいた。


 アルバンがドアを開けた。


 リヴァを乗せた。


 頭が当たらないように手を当てた。その行為が妙に丁寧で、おかしかった。


 乗り込んだ。


 エンジンがかかった。





 車が走り出した。


 リヴァは窓の外を見た。


 テキサスの道が流れていった。砂利道から舗装路になった。


 アルバンは何も言わなかった。


 リヴァも何も言わなかった。


 しばらくして、リヴァが口を開いた。


「……どこに行くの」


「俺が使っている場所だ」


「テキサスに拠点があるの」


「ある」


「何のために」


「仕事」


 リヴァはアルバンを見た。


 横顔だった。サングラスをかけたまま運転していた。無表情だった。


 目的が読めなかった。


 全部わからなかった。



"Land of All" / Woodkid

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