寝息
部屋の電気を消した。
カイはリヴァをベッドに下ろした。
横たえた瞬間、リヴァの手がカイの袖を掴んだ。
眠りかけている手が、そのまま離れなかった。
「……カイ」
「ここにいる」
「どこにも行かないで」
「……ああ」
カイはベッドの縁に腰を下ろした。リヴァの手が袖を掴んだまま離さなかった。
カイはリヴァを見た。
それからベッドに上がった。リヴァの左側に横になった。手繰り寄せて、リヴァにだけシーツをかけた。
リヴァがカイの右肩に頭を預けた。
頬がシャツに押しつけられた。
体重がかかってきた。
カイは動かなかった。
一度だけ、息が止まった。
「…リヴァ、」
「…う、ん」ほとんど吐息だった。
リヴァの頭が、カイの胸板に乗ってきた。
右手がカイのシャツの左脇を摘んでいた。
カイは右手を、上に乗っているリヴァの背中に回した。
カイはリヴァの背中を一定の速度で優しく叩いた。
リヴァの呼吸が、少しずつ変わっていった。息が深くなった。
眠りに落ちるにつれて、身体から力が抜けていった。
カイが天井を見た。
リヴァの吐く息が、シャツ越しに胸へ当たった。
「リヴァ」
「……」
返事は返ってこなかった。
カイは動かなかった。
リヴァの脚が動いて、膝がカイの腿に乗った。
カイの右手がリヴァの腰に下がった。
喉が一度動いた。
息を一度吐いて、右手をリヴァの頭に移動させた。
右手で、リヴァの髪を一度撫でた。
リヴァの髪が、カイの胸の上に広がっていた。ラベンダーグレーの編み込みが、ほどけかけていた。
一本だけ、カイの首元にかかっていた。
呼吸するたびに、毛先が動いた。
リヴァが身じろぎをして、両足をカイの足の間に入れた。上半身はカイの上にほとんど乗っていた。
カイは天井を見続けた。
「……」
一度、目を閉じた。
リヴァは深い呼吸をしていた。
頬も胸から離れなかった。
「…ん」
リヴァが小さく声を出した。カイの耳元で吐息に混じった声がした。
カイは左手で自分の顔を覆った。
「………くそ」
一時間が経った頃、カイはゆっくりと動き始めた。
リヴァの体を支えた。ゆっくりと、頭を枕の上に移した。
胸元から重さがなくなった。
リヴァが少しだけ眉を寄せた。
カイが動きを止め、呼吸も止めた。
しばらくすると、また寝息がたった。
カイは手を離した。
立ち上がった。
床を踏む位置を選んだ。音がしなかった。
ドアを開けた。隙間から出た。
ゆっくり、息を吐いた。
下を向いて三秒、目を閉じた。
それから、執務室に向かった。
”Simon's Theme” / Jóhann Jóhannsson




