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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第三章「境界圏 ― Threshold Zone」

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寝息



 部屋の電気を消した。


 カイはリヴァをベッドに下ろした。


 横たえた瞬間、リヴァの手がカイの袖を掴んだ。


 眠りかけている手が、そのまま離れなかった。


「……カイ」


「ここにいる」


「どこにも行かないで」


「……ああ」


 カイはベッドの縁に腰を下ろした。リヴァの手が袖を掴んだまま離さなかった。


 カイはリヴァを見た。


 それからベッドに上がった。リヴァの左側に横になった。手繰り寄せて、リヴァにだけシーツをかけた。


 リヴァがカイの右肩に頭を預けた。


 頬がシャツに押しつけられた。


 体重がかかってきた。


 カイは動かなかった。


 一度だけ、息が止まった。


「…リヴァ、」


「…う、ん」ほとんど吐息だった。


 リヴァの頭が、カイの胸板に乗ってきた。


 右手がカイのシャツの左脇を摘んでいた。


 カイは右手を、上に乗っているリヴァの背中に回した。


 カイはリヴァの背中を一定の速度で優しく叩いた。


 リヴァの呼吸が、少しずつ変わっていった。息が深くなった。


 眠りに落ちるにつれて、身体から力が抜けていった。


 カイが天井を見た。


 リヴァの吐く息が、シャツ越しに胸へ当たった。


「リヴァ」


「……」


 返事は返ってこなかった。


 カイは動かなかった。


 リヴァの脚が動いて、膝がカイの腿に乗った。


 カイの右手がリヴァの腰に下がった。


 喉が一度動いた。


 息を一度吐いて、右手をリヴァの頭に移動させた。


 右手で、リヴァの髪を一度撫でた。


 リヴァの髪が、カイの胸の上に広がっていた。ラベンダーグレーの編み込みが、ほどけかけていた。


 一本だけ、カイの首元にかかっていた。


 呼吸するたびに、毛先が動いた。


 リヴァが身じろぎをして、両足をカイの足の間に入れた。上半身はカイの上にほとんど乗っていた。


 カイは天井を見続けた。


「……」


 一度、目を閉じた。


 リヴァは深い呼吸をしていた。


 頬も胸から離れなかった。


「…ん」


 リヴァが小さく声を出した。カイの耳元で吐息に混じった声がした。


 カイは左手で自分の顔を覆った。


「………くそ」




 一時間が経った頃、カイはゆっくりと動き始めた。


 リヴァの体を支えた。ゆっくりと、頭を枕の上に移した。


 胸元から重さがなくなった。


 リヴァが少しだけ眉を寄せた。


 カイが動きを止め、呼吸も止めた。


 しばらくすると、また寝息がたった。


 カイは手を離した。


 立ち上がった。


 床を踏む位置を選んだ。音がしなかった。


 ドアを開けた。隙間から出た。


 ゆっくり、息を吐いた。


 下を向いて三秒、目を閉じた。


 それから、執務室に向かった。

”Simon's Theme” / Jóhann Jóhannsson

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