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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十五章「凍結回廊 ― Frozen Corridor」

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11月の夜



 ルクセンブルク拠点 共用スペース 午後十時二十六分。



 窓の外はすでに暗かった。夕方まで降っていた雨が石畳を濡らし、街灯の光を鈍く反射している。古い建物の屋根と煙突が、低い雲の下へ黒く沈んでいた。


 暖房の入った共用スペースでは、玄関脇に脱いだコートが何着も掛けられていた。濡れた傘が壁際のスタンドにまとめて差してある。


 全員任務帰りに着替えて、リヴァは薄いラベンダー色のニットに黒いパンツを穿き、袖を手首まで引いていた。カイは黒い長袖のシャツ一枚で、フィンは濃紺のニットの袖を肘まで捲っている。


 長いダイニングテーブルに、豚肉の煮込み、じゃがいも、太いソーセージ、パンとチーズが並んでいた。


 リヴァは自分の皿に入っていた豆をカイの皿へ移した。


 カイはそのまま食べた。


 向かいでは変わらず着流しを着た惣一が印刷されたマルクのデータを見ていた。隣のカズマが食べながら惣一を見ている。


「ボス、和服寒くないの」


「早く食え」


 カズマが笑った。


 テーブルの端では、ユキナガとルカが食事の横に端末を三台並べていた。二人はすでに夕食を終え、スウェットに着替えていた。


 カラムはパンにチーズを挟んで食べていた。


「マルク、思ったよりいろんな会社やり取りしてる」


 ユキナガが画面を送る。


「こっちもまた出たよ」ルカが言った。


「またかよ」


「名前変えてるけど、送金先一緒」


「うわ。めんどくさ」


 フィンがグラスをおいて、隣の部屋の方を親指で指した。


「もういっそ時間かけてアオイが全部吐かせる?せっかく奥の部屋にマルクいるし」


「ありあり」


「自分ですか……」アオイがパンをちぎりながら言った。「もうさっきアルノがやったので十分吐いたと思いますけど…」


「そろそろ時間ですね」アルノが立ち上がった。「カイ。餌やり」


「ああ」


 カイがパンを持って立ち上がり、マルクが収容されている部屋へと向かった。


 ユキナガがソーセージを齧りながら、別の画面を開いた。


「……てかさ」


 惣一が煙草を持ったままユキナガを見る。


「カズマもいる。カラムもいるし……オリまで来てんじゃん」


 オラヴルが目線を上げた。黒のタートルネックのニットを着ていて、白衣は椅子にかかっている。


「なんかナチュラルにルカまで居るし」ユキナガが言った。


「俺はユキが行くなら来るよ」


 ユキナガは椅子の背へ寄りかかった。


「……もしかして今回の目的、デカい?」


 アルノは黙って食事を続けていた。


「ルクセンブルクまで全員できて、これで終わりじゃ無いよね」


 ユキナガが惣一を見る。


「もしかしてこれ、グレイ倒しに来てるとかあったりする?」


 惣一が小さく息を吐いた。


「ああ」


 フォークの音が止まった。


 リヴァが顔を上げた。


「……は?正解?」ユキナガが言った。


 フィンが惣一を見る。アオイも顔を上げた。カイは持っていたグラスをテーブルへ戻した。


「……倒すの」リヴァが言った。「グレイ」


「潰せるとこから潰す。そのために来た」惣一が言った。


「……」


 カズマは惣一を見て笑っていた。


「何笑ってんの」


 ユキナガが言った。


「うれしいから」


「何が」


「あの時仕留め損ねた。今度はちゃんと褒めてもらう」


 カズマはそれ以上言わず、チーズを一欠片取って口に入れた。


 アルノが手を止めて、惣一を見た。


 視線に気づいた惣一がアルノを見た。


「消耗戦はしねえ」


「……」


 アルノはパンをかじった。


 リヴァは二人の会話を聞きながら、オラヴルを見た。


「…オラヴル、飛行機こわくなかったの」


 オラヴルが瞬きをした。


「飛行機?」


「あー」


 ヴィクトルが煙草を灰皿へ置いた。


「前にオリは飛行機苦手って言ったな」


「まあ。苦手ではあるよ」


 リヴァが首を傾げた。


 オラヴルがフォークを置いた。


「……ちょっと、動いた記録を残したくなかったんだ」


 リヴァがオラヴルを見る。


 惣一が煙草の灰を落とした。


「今回は俺が通した」


 リヴァが惣一を見る。


「……平気なの」


 オラヴルは紅茶を飲んだ。


「ここ寒いし。天気悪いし。できれば日本にいたかったけど……」


「引きこもり」ヴィクトルが言った。


「リヴァが無茶しないように見てないといけない」


 リヴァは皿へ視線を戻した。


「そういやミントは?」


「日向先生んち」


「ああそう」


「ねね、俺次出る?」カズマが惣一に言った。


「出す」


「やった」


 アルノが何も言わずに眼鏡を上げた。



 食事が終わりかけた頃、アルノが端末を閉じた。


「各自、部屋は伝えた通りです」


 ヴィクトルが椅子の背へ身体を預けた。


「俺も一人部屋がよかった」


「私もです。夜更かししないでください、ヴィクトル」


 アルノはヴィクトルを見ずに答えた。


「親かよ」



 フィンが笑った。


「よろしくね。アオイ」


「………はい」


 ユキナガが水入りのコップを置いた。


「で、あと俺とルカは一緒な訳ね」


「俺は幸せ。アルノありがとう」


「二人部屋そこだけ?後は一人部屋でいいの」リヴァが言った。


「はい。それと、オラヴルと惣一の個室は、ここと同じ一階です」


「夜中に叩き起こされないことを祈っているよ」オラヴルが言った。


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