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リヴァ・アルカ ―特殊部隊は、一人のアンカーを檻に乞う―  作者: Ilir Noct
第十二章「閉鎖系の外乱 ― Disturbance in a Closed System」

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尊大で軽薄な権力主義の男




 ローマ新拠点、午前八時。



 アルノは腕時計を見た。


 端末の画面が切り替わった。


 送信済みの表示が出た。


 アルノは宛先と添付ファイルを確認してから、画面を閉じた。


「……ありがと、アルノ」


 ユキナガが小さく言った。


 共用スペースには、朝食を終えたあとの皿が残っていた。コーヒーの匂いと、煙草の煙が混じっている。


 リヴァはカップを持って座っていた。


 フィンは紅茶を飲み、ジュリオは椅子に浅く座って煙草を吸っていた。アオイの前にも、飲みかけのコーヒーが置かれている。


 ユキナガの前には、ルカが残していったノートパソコンがあった。


「俺は契約書戻ってくるまで、一旦連絡控えとく。またなんか荒波立つと嫌だし。ノートパソコンの中の情報だけ確認しとく」


「そうしてください」


 アルノは端末をテーブルへ置いた。


「各自、今日の動きは伝えた通りです」


 フィンが紅茶のカップを持ったまま、アルノを見た。


「朝七時に、なっがい行動計画連絡で叩き起こすことなくなぁい?」


 アルノは答えず、共用スペースを見た。


「ヴィクトルは」


「通信室で爆睡中」ユキナガが言った。「床で」


 ユキナガは腕を組んだ。


「外周は一晩かけてオートにできたから、もう平気だと思う」


 アルノがユキナガを見た。


「寝てなかったんですか、ユキナガ」


「さすがにあんな後寝れない」


 ユキナガは吸っていた煙草を灰皿に押し付けた。


「じゃ、俺ようやくゆっくり寝てくるわ。おやすみ」


「マジで優秀な双子だなあ」ジュリオが言った。


 ユキナガは椅子を引いた。


「監視、なんか異常あったら警報飛ぶようになってるから」


 ユキナガはノートパソコンを閉じ、そのまま共用スペースを出ていった。


 廊下の奥へ足音が遠ざかった。


 少しして、玄関側の扉が開いた。


 カイが入ってきた。


 アルノがカイを見た。


「カイ、監視は終了です。ユキナガの自動監視が回っていますので」


「分かった」


 カイは上着を脱いだ。


 テーブルの上には、フォーラム当日の配置図が広げられていた。全員、なんとなくそこへ視線を向けないようにしていた。


 リヴァがカップを持ったまま顔を上げた。


「そういえばカイ、記録官ってどんな人?」


 カイがリヴァを見る。


「前に会いに行ってたよね」


「ああ」


 少し間があった。


「歩幅は七十センチほどだった」


「?」


 リヴァがカイを見たまま止まった。


 ジュリオが煙草を口から離した。


「なんだそれ」


 笑いながら、カイを見た。


「大切な情報だ」


「じゃあ俺は?」


「七十六センチ」


 ほとんど間がなかった。


 ジュリオの笑いが止まった。


 リヴァがカップへ視線を落とした。



 カイはアオイを見た。


「同歩」


 アオイの顔が固まった。


「あっ……」


 しばらく黙った。


 指先でコーヒーカップの縁を叩いた。


「……七九角」


 カイが上着を椅子へ掛けながら、少し考えた。


「それでいいのか」


 アオイが止まった。


「ちょっと待ってください」


「待たない。四四角」


「……」




 フィンがアルノを見た。


「部屋で寝てきなよ」


「いえ。書き終えたあと、少し寝られましたので。シャワーだけ浴びてきます」


 フィンが紅茶を置いた。


「今日はみんな、やること定まってるし。寝てきた方がいいよ」


「傷を治すには寝た方がいい」


 カイが言った。


 アルノは黙った。


 端末へ視線を落とした。


 送信済みの表示は、そのまま残っていた。


 少しして、端末を閉じた。


「……では、各々任せました」


 立ち上がった。


「ゆっくり休んでね」


 フィンが片手をひらひらと振った。


 アルノはそのまま共用スペースを出た。


 階段を上がる靴音が、二階へ遠ざかっていった。







 ローマ新拠点 装備室 午後二時二十六分。


 テーブルに、リヴァの装備が並んでいた。


 Glock 19。予備弾倉。無線機。止血帯。予備のイヤーピース。


 AXMCのケースは、椅子二脚を使って横に置いてある。


 フィンは弾倉を一つ手に取った。


「これ予備?」


「うん」


「四本は多くない?」


「多い?」


「拳銃でそこまで撃つ頃には、狙撃地点にいないと思う」


 フィンは一本をテーブルの端へ避けた。


「少しでも身軽でいた方がいいと思う」


 リヴァは止血帯をポーチへ入れ直した。


 フィンが無線機のクリップを確認した。


「こっちは右だね」


「いつも右」


「じゃあそのまま」


 リヴァがフィンの手を見た。


 フィンは右手で無線機を持っていた。


「フィン」


「うん?」


「昨日から、右利きになったり左利きになったりしてる」


 フィンが自分の手を見た。


 一拍置いて、左へ持ち替えた。


 右手で眼鏡の外側を押し上げる動作をしようとして、止めた。


「……ほんとだ」


「眼鏡してないのに眼鏡あげてる」


「……」


 リヴァはフィンを見た。


「まだ戻れてない?」


「いや、戻ってるよ」


「何になってたの」


 フィンが予備弾倉を一本ずつ並べ直した。


「尊大で軽薄な権力主義の男」


「……誰かモデルがいるの?」


 フィンが止まった。


「…家族みんなそんなもん」


 フィンが息を吐いた。リヴァの方を向いて、少しだけ笑った。


「あのときは、ごめんね」


「急にしてきた時?」


「うん」


 リヴァはポーチのファスナーを閉めた。


「びっくりした」


 フィンが一拍止まった。


「アルノもびっくりしてた」リヴァが言った。


「それは別にいいや」


 フィンが少し笑った。


 リヴァはフィンの横顔を見た。


 フィンがリヴァから視線を外して、下を見た。


「戻りたかったから」


 フィンは弾倉を一本取った。


 残弾確認用の穴を見た。


「触った方が早い気がした」


「だから…したの?」


「そこは判断間違えたね」


 フィンは弾倉を戻した。


「ごめん」


 リヴァは何も言わなかった。


 少しして、AXMCのケースを開けた。


 フィンが銃身側を確認する。


「もしまた俺が変でも」


 リヴァの手が止まった。


「放っといていいよ」


 リヴァはケースの中を見た。


「フィンが戻ってこなかったら?」


 フィンは少し黙った。


 ケースの留め具を一つ閉じた。


「その時は、そのまま仕事して」


「嫌」


 フィンは二つ目の留め具を閉じた。


 リヴァがフィンを見た。


「戻ってきて、ちゃんと」


「うん」


「絶対」


「……そのつもりだよ」


 フィンはケースを閉じた。


 金具が二つ、続けて鳴った。


 リヴァはテーブルの上の煙草を見た。


 二箱置いてあった。


 緑の箱の横には、いつものフィンのものと違う、金色の箱。


「それ、誰の吸ってた煙草?」


「……父親」


「……」


「全部終わったら捨てるよ」


 フィンは金色の箱を取った。


 緑の箱と一緒に、上着のポケットへ入れた。


「じゃ、チェックは終わり」


「うん」


 リヴァは避けられていた弾倉を手に取った。


「……いや、」フィンが言った。


 リヴァが顔を上げると、フィンの唇が自分の唇に触れた。


 フィンがリヴァの顎に指を添えた。


 リヴァは目を瞬いた。


 フィンは薄く目を開いて、リヴァを見ていた。


 しばらくして、フィンが離れた。


 リヴァは呼吸を整えた。


「……今のは?」


「俺」


 フィンが笑って言った。


 AXMCのケースを持ち上げた。


 いつもの左手だった。


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