さよならモルディブ
最終日の朝は、よく晴れていた。
コテージのデッキに、長いテーブルが出ていた。フルーツ、パン、卵料理、淹れたてのコーヒー。ラグーンの色が、昨日より少しだけ濃く見えた。
リヴァが先に座っていた。白い半袖のリネンシャツに、生成りのワイドパンツ。髪を緩く後ろで束ねていた。
レッドが向かいに腰を下ろした。皿にパンを取った。
「最後の朝だな」レッドが言った。
「うん」
「あっという間だった」
ユキナガがあくびをしながら席についた。髪が片側だけ跳ねていた。
「九時半に水上機です」アルノが端末を畳んだ。「桟橋集合は九時十五分」
「もう?」フィンが言った。
「はい」
「さびしくなるね」フィンがパンをちぎった。「テキサス組とは、しばらく会えないんでしょ」
リヴァがカップを置いた。
「レッド、テキサス遠い」
「遠いな」
「会えない」
「ああ」レッドが少し笑った。「俺らがいなくて寂しいか」
「レッドが寂しい」リヴァが言った。
「お、嬉しいこと言うな。持って帰っちゃうぞ」
リヴァがイーサンを見た。
イーサンは、テーブルの端にいた。食べる手は止まっていなかった。会話には、入っていなかった。
カイがリヴァの隣で、コーヒーを飲んでいた。レッドを鋭い目で見ていた。
「リヴァ」
カイがリヴァにコーヒーを入れた。
ヴィクトルが最後に来た。
「飛行機の準備はできてる」ヴィクトルが言った。「腹いっぱい食っとけ。機内食は知れてる」
「はーい」ユキナガが言った。
「菓子は積んだ。お前らが好きそうな」
「ヴィクトル優しい」フィンが言った。
「リヴァが寝るのに必要だからだ」
マレの空港は、人が多かった。
海の匂いが、空調の匂いに変わっていた。
ここで、二手に分かれることになっていた。イーサンとレッドは、ドバイ経由でテキサスに戻る。二人の家は、テキサスにあった。残りは、ヴィクトルのチャーター機で日本へ直行する。
搭乗ゲートの手前で、足が止まった。
「ここまでだな」レッドが荷物を肩にかけ直した。「アルノ、リヴァを頼む」
「はい」アルノが言った。
「こっからまた二十四時間かーきちい」
レッドがリヴァの前に立った。
「寝ろよ。ちゃんと」
「寝る」
「飛行機で寝ろ。ヴィクトルが菓子積んでくれてんだ」
「食べてから寝る」
「それでいい」レッドが笑った。「達者でな」
レッドが一歩下がった。
イーサンが、前に出た。
「リヴァ」
「うん」
「疲れたら来い」
「……」
イーサンはリヴァの頭に手を乗せた。
「またな」イーサンが言った。
「うん」リヴァが言った。
イーサンがサングラスをかけた。背を向けた。
レッドがその隣に並んだ。
二人が、ゲートの方へ歩き出した。
レッドが一度振り返って、手を上げた。イーサンは、振り返らなかった。
ゲートの人混みに、二人の背中が紛れた。レッドの白いシャツが、最後まで見えていた。
「リヴァ」カイが言った。
リヴァのキャビンバッグを、もう肩にかけていた。
「行くぞ」
「うん」




