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リヴァ・アルカ ―最強特殊部隊は、たった一人のアンカーを失えない―  作者: Ilir Noct
第六章「浮遊する標的 ― Drifting Target」

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52 Hours



 全員が位置についていた。


 ユキナガの声が無線に来た。


『いくよ。接続確認。スナイパー』


「完了」とリヴァは言った。


『オーバーウォッチ』


「完了」カラムの声。


『エントリー』


 水音がした。地下入口の海中からだった。


『リカバリー』


「準備できてる」フィンの声。


 短い沈黙があった。


『いこう』ユキナガの声。


 誰もアルノの代わりに号令はかけなかった。


 でも、全員が動き始めた。


 リヴァは岩陰に膝をついた。AXMCを岩の縁に据えた。


 距離、450メートル。風、南南西、秒速2.6。


 空が、わずかに白み始めていた。夜明けの手前。輪郭が、ぎりぎり見える明るさだった。


 外周の見張りが二人、地下入口の前にいた。事前情報通りだった。


 スポッターはいなかった。


 自分で全部、声に出すしかなかった。


「距離450、風2.6、横風補正0.4ミル、弾道降下1.2ミル」


 自分で呟いた。声に出した。カイの声がない代わりに、自分で確認した。


「東側、先」


 息を吸った。半分吐いた。止めた。


 アルノのことを、考えそうになった。


 止めた。


 引いた。


 東の見張りが壁に肩から叩きつけられ、そのまま崩れた。


「取った」リヴァが無線に言った。


『リヴァ、移動』フィンの声。


「うん」


 リヴァが装備を抱えて、岩陰を移動した。20メートル。事前に確認していた次のポジション。


 膝をついた。バイポッドを据えた。スコープを覗いた。


 二人目の見張りが、銃声に気づいて動き始めていた。地下入口に駆け込もうとしていた。


「距離430、風変わらない」


 自分で言った。


 引いた。


 外した。


 弾が見張りの肩の横を抜けた。


 修正した。即座に。風が変わっていた。秒速2.4。落ちていた。


「補正0.3」


 引いた。


 見張りが前のめりに転んだ。


「ヒットした」


『移れ』カラムの声。早かった。


「うん」


 リヴァがまた装備を抱えて移動した。


『入口開いた』カラムの声。『二人』


「うん」リヴァが言った。


『射線なし』カラムからは撃てなかった。


「了解」


『次点南東、岩盤の上』無線を占有しないための、最短の指示。


 リヴァが動いた。カラムが指示した位置に着いた。


 膝をついた。スコープを覗いた。


 地下入口の前で、二人の男が銃を構えていた。フィンが正面から来ているのを、迎え撃つ構えだった。


「距離380、風2.4、補正0.3」


 引いた。


 一人目が地下入口の灯りの前で影ごと消えた。


『ヒット』ユキナガが言った。


『もう一人、動いた』カラムが言った。『右、二歩。距離変わらず』


「うん」


 ボルトを引いた。次弾を送り込んだ。


 引いた。


 二人目も崩れた。


『クリア。移れ』カラムの声。


 正面玄関。


 フィンがMP5SDを構えていた。


 地下入口の階段を、降りていた。


 冷たい目だった。普段の軽さがなかった。手元の動きが、機械のように正確だった。


 階段の途中、踊り場で、敵が一人現れた。ドア裏に待っていた。フィンが一瞬、止まった。


 フィンが先に撃った。喉に一発だった。


 男が階段の途中で身体を折って、崩れた。


 またフィンが動いた。表情を変えなかった。


 地下に着いた。廊下。左右に部屋。


 無線にユキナガの声が来た。


『フィン、奥の部屋三つを潰してから、奥に進んで』


「了解」


 フィンが最初の部屋を蹴った。


 中に二人。


 二発。


 崩れた。


 次の部屋。


 一人が盾を持っていた。


 フィンが横に動いた。壁際に寄った。角度を変えた。盾の端から頭が出た瞬間に、撃った。


 崩れた。もう一人も崩れた。


 次の部屋。


 また二発。


 薬莢が転がる音だけがした。


 六人。三十秒。






 カイが海底のトンネルを抜けて、地下に浮上した。


 マスクを上げた。タンクを岩陰に隠した。HK416を構えた。


 目の前に、敵が一人いた。気づいていた。銃を構えようとしていた。


 カイが先に撃った。一発だった。


 男が一瞬立っていて、それから遅れて崩れた。


 カイが廊下に出た。


 奥に向かった。


『リヴァ、一人地下から』カラムの声。


「見えてる」


 リヴァが構えた。


「距離400、風2.4」


 その時だった。


 別の方向から、二発の銃声が来た。


 リヴァの近くだった。岩盤に当たった。


 待ち伏せていた敵だった。事前情報になかった。


「……っ」


 リヴァが身を伏せた。


コンプロマイズ(位置露見)。右岩へ』カラムの声。早かった。


「…」


『取る』


 カラムが構えた。


 1500メートル先から。


 待ち伏せていた敵までの距離、リヴァの位置から計算した。カラムからの距離は、もっと遠かった。


 横風。岩盤の傾斜。自転偏差。距離1500、仰角による弾道補正、そして風。


 カラムが、頬付けを深くした。


 L115A3の重量が、肩へ鈍く乗っていた。


 左手でストック後端を微調整した。呼吸でレティクルが流れる。横風がまた変わった。


ホールド(動かないで)、呼吸維持』


「…うん」


 無線が無音になった。


 待った。


 一秒。


 まだ待った。


 二秒。


 風が、落ちた。


 カラムが引いた。


 何も聞こえなかった。


 その二秒、後。


 待ち伏せていた敵が崩れた。



『移れ』カラムの声。


 肩の力が、少しだけ抜けた。


 リヴァが装備を抱えて移動した。今度は、もっと隠れた位置だった。


『次点、北東』カラムが指示した。


「了解」


 リヴァがそこに着いた。膝をついた。


 スポッターがいない代わりに、カラムが1500メートル先から見ていた。


 二人の連携が、できていた。


 お互いに、それを認識していた。


 言葉にはしなかった。


『カイ、フィン、合流地点まで何メートル』ユキナガの声。


「廊下を抜けたら、奥の大きい部屋」フィンが言った。「あと三十メートル」


「俺は反対側から二十メートル」カイが言った。


「両側から挟む」


「了解」


 フィンが廊下を進んだ。


 最後の角を曲がる前に、止まった。


 角の向こうに、気配があった。


 無線で言った。


『カイ、奥の部屋の前、敵の気配あり。人数不明』


「俺も着いた」カイが言った。「反対側から、同じ部屋の前。気配、ある」


『同時に行こう』


「了解」


 フィンが角を曲がった。


 カイが反対側から、同時に部屋に入った。


 部屋には、敵が三人いた。


 フィンが二人を、カイが一人を、ほぼ同時に処理した。


 四秒。


 部屋の奥に、もう一つの扉があった。


 二人が顔を見合わせた。


 言葉はなかった。


 カイが、扉に手をかけた。


 扉が開いた。


 部屋の中央に、人がいた。


 両腕が、頭の高さの半分で固定されていた。立たされていた。LEDのスポットライトが、直接顔に当たっていた。


 黒のタクティカルスーツが、汚れていた。襟が破れていた。シャツの胸元に、嘔吐の跡が薄く残っていた。乾いていた。何時間前のものか、わからなかった。


 眼鏡がなかった。


 顔が、痩せて見えた。頬骨が浮き出ていた。唇が割れていた。乾いて、血が薄く滲んでいた。


 左の肘の内側に、何箇所もの針の跡があった。一つではなかった。複数回、別々の場所に刺された跡だった。


 右手の指が、白かった。血流が止まっていた。


 アルノだった。


 カイが、止まった。


 止まったのは、〇.三秒だった。


 訓練された動きが、その間に消えた。


「アルノ」


 声が、低かった。


 返事は、なかった。


 カイが部屋に踏み込んだ。フィンが続いた。


 部屋の隅に、薬物の点滴の道具と、コップと、メモが置かれていた。誰かがついさっきまでいた痕跡だった。


 でも、誰もいなかった。


 フィンが部屋を一周した。出口を確認した。別の通路があった。地上に繋がる、別の階段。


「逃げてる」フィンが言った。


 カイは答えなかった。


 アルノの前に立っていた。


 アルノの目が、半分開いていた。


 焦点が、合っていなかった。


 でも、カイを見ようとしていた。


「……Wie lange… noch—」


 声が、かすれていた。声と判別するのが難しいくらい、小さかった。


 カイが、止まった。


「……」


 無線が、開いたままだった。誰も切らなかった。


 無線から、キーボードを叩く音がした。


『…ドイツ語、時間聞いてる』ユキナガの声。


 無線が、一瞬だけ静かになった。


『フィン』


『無理、ごめん』


 カイが、アルノを見た。


 アルノの目が、半分開いていた。


「アルノ、五十二」


「……」


 アルノが少し止まった。


 止まって、目を一度閉じた。


 閉じてから、また開けた。


「……How long(何時間経った)


「…52 Hours(五十二時間)


 アルノが、目を一度、閉じた。


 長いのか短いのか、判断できなかった。


 口元だけ、わずかに動いた。


 目を閉じてから、また開けた。


「……Too fucki(遅えんだよ、)ng lat(クソが)e.」


「悪かった」

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