表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一球入魂 ~二刀流のタイムリーパー、最高の1試合を求めて~  作者: とまCo
第6話 ラクラン・リード

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/40

第12話 九月の呼び出し

 九月二十日。

 マイナーのクラブハウスは、夏の熱気が抜けて静かになっていた。

 そんな午後、きおは突然、監督室に呼ばれた。


 「きお、準備はできてるか?」


 監督の声はいつもより低く、慎重だった。


 「……はい?」


 きおは意味が分からず首を傾げた。


 監督は短く言った。


 「メジャーに行ってこい」


 きおの目が大きく開いた。


 「……えっ?」


 ラクランは息を呑んだ。

 ついに来たか──そう思ったが、同時に胸がざわついた。


 監督は続けた。


 「心配するな。二試合だけだ。

  完全な消化試合だし、来季のローテを考える材料が欲しいだけだ」


 その言葉に、ラクランは胸を撫で下ろした。


 (……二試合だけなら、まだ……)


 きおは震える声で言った。


 「……行きたいです」


 監督は笑った。


 「だろうな。行ってこい」


 ――――


 メジャー球場に着いたのは、九月二十二日。

 ロッカールームは広く、静かで、空気が重い。

 マイナーとはまるで別世界だった。


 きおは圧倒されていた。


 「……すごい……」


 ラクランは隣で、きおの寿命カウントを見た。


 昨日の清算で戻った数字は、初登板の頃より“わずかに”低い。

 三ヶ月で一ヶ月分の寿命が減る──そんなこと、普通は絶対に起きない。


 (……一年で一年四ヶ月分減る計算だ。

  不摂生でも、こんな減り方はしない。

  この比率そのものが、異常なんだ)


 胸の奥が冷たくなる。


 だが、きおは無邪気に笑っていた。


 「ラクランさん、ついに来ましたね……メジャー!」


 「……ああ」


 笑顔を返すのが、こんなに苦しいとは思わなかった。


 ――――


 メジャーはDH制のため、きおに打席は回ってこない。

 今日は投げることだけに集中すればよかった。


 初登板は九月二十四日。

 相手は同じく最下位争いのチーム。

 完全な消化試合。


 五回裏、監督が言った。


 「きお、行くぞ」


 きおは深呼吸してマウンドに立った。


 初球。

 ストレートが伸びすぎて、打者が完全に振り遅れた。


 ズバンッ。


 観客席がざわつく。


 ラクランの視界が揺らいだ。


 (……まただ)


 良い球が出た瞬間だけ、世界が歪む。

 そして寿命カウントが減る。


 (メジャーでも……変わらないのか)


 ――――


 二球目。

 スライダーが異様な角度で曲がり、空振り。


 揺らぎ。

 寿命が減る。


 三球目。

 打者が完全に振り遅れ、三振。


 揺らぎ。

 寿命が減る。


 きおは嬉しそうに笑った。


 「ラクランさん、メジャーでもいけますね!」


 「……ああ」


 声が震えた。


 ――――


 きおは一回だけ投げ、無失点。

 監督は満足げに言った。


 「よし、次も投げさせる。

  シーズン最後の試合だ。思い切っていけ」


 きおは目を輝かせた。


 「はい!」


 ラクランは胸が痛くなった。


 (……最後の試合。

  これで今年は終わりだ。

  頼む……無事に終わってくれ)


 ――――


 二試合目は九月三十日。

 きおは二回を投げ、また無失点。


 揺らぎは何度も起きた。

 寿命はまた確実に減った。


 だが、シーズンは終わった。


 監督はきおの肩を叩いた。


 「きお、来年は本気でローテを狙え」


 きおは涙ぐんでいた。


 「……はい!」


 ラクランはその笑顔を見て、胸が締めつけられた。


 (……来年なんて、本当にあるのか?

  この比率で寿命が減って……)


 だが、きおは知らない。

 監督も知らない。

 チームメイトも知らない。


 知っているのは、ラクランだけ。


 そして、九月の終わりの静かな球場で、

 きおの寿命はまた確実に削られていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ