第四十九話 方向性の違い
「アンタたち、他に泊まる場所無かったの……?」
「困ったことにね」
「きひっ、気まずいから嫌だったんだがな……」
「どのツラ下げて……!」
「落ち着いて六葵! あっちも今はお客さんなんだから!」
結芽たちがこの港町に来てから二度目の夜。団体客が宿に来ると聞いて見てみれば、見覚えのある五人組、海防魔法少女が玄関に立っていた。コーラルの姿だけは見えなかったが、他のメンバーは勢ぞろいで、ライフセーバーズが揃うのを確認すると、変身を解いた。
認識阻害を解いた姿を晒すのは魔法少女が最も忌避することだが、同時に自分に敵意が無いことを示すのにこれ以上ない手段でもあった。どうして自分たちがライフセーバーズだと分かったのかと夏帆たちは聞きたかったが、ここまで誠意を示されれば中に入れないわけにもいかない。何より、予約も取ってあったのだ。
一方、黒奴殲滅委員会は気にした様子もなく、荷物運びを積極的に手伝っていた。
「ご飯多めにって、こういうことだったんだ」
「ごめんね、準備任せちゃって。今日は真帆姉も用事があったみたいで……」
「そっちは配信があったんだし、変身するだけでも消耗するって聞いたことあるし、気にしないで」
荷物を運び終えるとすぐに夕食にしようということになったが、当然ながら座る位置はチームごとに分けられていた。流石に仲良く隣でご飯を食べる気にはなれなかったらしい。
魔法少女同士のごたごたである以上、結芽に手出しできる問題ではないことは理解できていたが、二十人近い同年代の女子が集まっているにもかかわらず静かな食事風景を眺めるのは、何とも言えない複雑な心境だった。
真帆はしれっとライフセーバーズ側に座り、険悪なムードに首をかしげていた。夏帆たちはまだ、真帆がコーラルであるとは知らないのだろう。
翠花はこんな状況だが、手出しも口出しもせず、黙ってご飯を食べていた。
「……あっちの人たちとはどういう関係なの?」
「あっちも同業者よ。ライフセーバーズと仲が悪いみたい。アタシたちとしては、修行の邪魔にならなければ何でもいいけどね」
「へー……」
海防魔法少女について知らないフリをしながら隣の美音に聞いてみると、黒奴殲滅委員会は二チームの対立に干渉するつもりは無いようだった。薄情なようだが、所詮は他人。他所のナワバリということもあるし、変に手出ししない方が良いのだろう。
そう頭で理解しても、心は納得してくれなかったが。
「仲良くできないのかな……同じ魔法少女なのに」
「そう単純な話でもないみたいです。ほら、この前も新都心で見たじゃないですか」
「結芽さんが気にするようなことじゃありませんよ。気にせずバカンスを楽しんじゃってください!」
結唯の悪意のない言葉が、今の結芽には一番苦しかった。
諸々の用件を済ませ、あとは寝るだけという頃合い。結芽は夏帆とアンジェリカ以外のライフセーバーズメンバーに呼び出され、宿の裏庭を訪れていた。手入れをする余裕が無いのか、雑草が生え放題の荒れ放題な庭だった。
夏真っ盛りなので、夜でもそれなりに暑い。風が吹いていたのでまだマシだが、正直結芽はさっさと用件を済ませて宿に戻りたかった。
「実はこの二日間、宿にいる間は君の様子を観察させてもらっていた!」
「視線の正体それかぁ」
「何で気づいてンだよ……」
まどろっこしいことは暑くてやっていられないのか、祭里は早速本題に入った。
何となく結芽も予想はしていたが、魔法少女のグループの中に混ざる一般人ということで警戒されていたのだろう。それで昨晩の翠花との会話を聞かれたか、今日の海防魔法少女たちとの遭遇を見られていたか。
いずれにしてもやましいことはないので、怪しまれているならさっさと誤解を解きたいところだった。
「んー……ホントに魔法少女じゃないんだよね?」
「変身できるならしてる。戦えるなら戦ってる。自分で言うのも何だけど、じっとしていられないタイプだし」
「それはー……分かる……けど……スヤァ」
「寝るな雲! もうちょい頑張れ!」
チーム内最年長というだけあって、雲は結芽が何か隠していることを勘づいている様子だった。まさか認識阻害が効きませんだなんて言えないので、結芽は適当に誤魔化したが。
勘づく所までは良かったが、雲は今日一日で魔力と対価を消費し過ぎたのか、眠気が限界のようだ。六葵は肩を貸しながら、結芽を睨みつける。
「雲が持たねェから単刀直入に聞くけどよォ、海防魔法少女にこの宿教えたのはテメェか?」
「海防何たらって、今日配信に乱入して来てた人たちのこと?」
このとき、結芽には分かるはずもないが、六葵は結芽を威圧するように魔力を発していた。そのまま攻撃に転じることもできるので、魔法少女ならば多少なりとも反応している状況で、身じろぎひとつしない結芽を見て、二人は完全に当てが外れたという顔をしていた。
それは同時に、当たってほしくない予想が当たった、という顔のようにも見えた。
「シロか……じゃあ、連中にこの宿のことを教えたのはまた別のヤツだな……」
「ああ、そのことで疑われてたんだ」
「まるで他に心当たりがあるような言い方だね!」
「そりゃあ、誰だって秘密の一つや二つあるものじゃない?」
すっとぼけてみる結芽だが、やはり雲の目は誤魔化せない。
「本当は……誰が呼びよせたかー……知ってるー……?」
「……知らないと言えば嘘になる。……でも……」
真帆がコーラルだと知ったら、三人がどう思うことか。何より、夏帆がどう思うか分からない結芽ではない。ゆえに話せない。翠花のことも同じだ。元は自分たちのチームを率いていたリーダーが敵と繋がっているなんて、漫画やアニメなら燃える展開だが、ここは現実だ。そんなの、ただ辛いだけだ。
口ごもる結芽に対し、六葵はそれ以上は結構だとばかりに手で制した。
「いや、いい。……テメェから聞くような話じゃねェ。……悪ィな、こんな時間にこんな場所に呼び出して、こんな中身のねェ話でよ」
「夏帆とアンジェリカはありえないからね! 君じゃなければ、残るのは二人だけさ」
「美音たちは疑わないんだ」
「それこそないよー……殲滅委員会が来る前から……あいつらは襲ってきてたし……そういうの、絶対嫌いなタイプだしー……」
ふと気になって聞いてみれば、すぐに黒奴殲滅委員会に対する捉え方が分かった。雲の意見に対し、残りの二人も完全に同意している様子。あの四人は、もう少し黒奴をぶっ潰すというオーラを抑えた方がいいのかもしれない。主にそのオーラを醸し出しているのは二人なのだが。
ともかく、祭里たちの用件はこれで終わった。この後は真帆や翠花に真相を聞きに行くのか、それともこのまま黙っているのか。
「……海防何たらとは、方針が合わないの?」
いずれにしても、協力して黒奴と戦う未来は存在しそうになかった。どうしても分かり合えないのか。どうにかして町の人を説得することもできないのか。結芽はかすかな希望を抱いて、聞いてみる。
「そうだなァ……私らは町も人も暮らしも守ろうとしてっけど、アイツらが守ろうとしてンのは国だ」
「海の黒奴は厄介だからね! 町の方まで引きずり出せるなら、その方が圧倒的に戦闘で楽ができる。こう言っちゃうと何だけど、町なんて無くなっちゃった方がいいんだ」
「それが許せないからー……戦うの。戦うしか、ないの」
新都心で見たのは、黒奴の討伐報酬をめぐったトラブルだった。しかしここで起きているのはまた別の問題。人の暮らしをそのままに戦って守るか、町を完全に戦場に変えてとにかく黒奴を倒すことを重視するか。
どちらが良いか悪いかの話ではない。互いに譲れないものがあって、それが決定的に違うからこそ起きてしまっている問題なのだ。
「……夏帆は、魔法少女を続ける理由を、『生まれ故郷だから』と『両親の復讐のため』って言ってた」
「そうか……復讐……」
「ま、変わってねェだろうな……」
「……」
「三人はどうなの?」
結芽にはまだ分からない。どうして魔法少女になろうとするのか。どうして魔法少女であり続けようとするのか。
「どうして魔法少女を、この町で続けるの?」
海防魔法少女を呼んだ犯人の当たりもついているというのに、三人の目には確固たる意志が見えた。町を離れる気はないという、この町で戦い続けるという意志が。




