第四十七話 集う魔法少女たち
「どうして、魔法少女を……」
「うん。この町のこと、色々聞いちゃってさ」
「そっか……そのことで悩んでくれてたんだ」
結芽の問いに対し、夏帆は考え込む。当然、これまで何も考えてこなかったわけではない。どれだけ戦っても、何を守っても、賞賛を得られないどころか邪魔者扱いされる現状に、不満が無いと言えば嘘になる。
「……でもやっぱり、生まれ故郷だからかな」
それでも、夏帆は戦うことを選んだ。
「言葉にはしづらいんだけど、そうとしか言えないよ。ここには嫌な人がたくさんいるけど、それよりずっとたくさんの思い出とか、守りたい景色とか、そういうものがあるの」
「……戦った結果、カスどもに石を投げられることになっても?」
「気にならないわけじゃないけど、それがこの町を離れる理由にはならないかな。それに、お父さんたちの復讐も兼ねてるし」
この旅館は夏帆の祖父母の経営していたものだが、夏帆の両親は跡を継がずに漁師になった。そしてある時、黒奴の襲来で命を落とした。
その日、夏帆は漁船を眺めながら、堤防で釣りをしていた。あっという間の出来事だった。空に現れた裂け目から降ってきた黒い何かが、海に浮かんでいた小さな漁船を残らず沈めてしまったのだ。そして黒奴はすぐに、ロータスによって始末された。
それから八年間、モチーフには選ばれず、魔法が使えるようになるわけでもなかった夏帆は、普通の子供のように振る舞った。黒奴に敵意を見せれば白い目で見られるから、漁師を海に出ないよう説得すれば怒られるから、大人の言うことに素直に従う普通の子を演じた。
魔法少女になってからは、何も隠さなくなったが。
「結芽さんは、復讐は何も生まないと思う?」
「そうでもないんじゃないかな」
「即答だね……ふふっ」
「おかしい?」
「さあ? この話をすると、皆私のことを止めるから、最初から否定されなかったのはこれで二人目だなって」
大人は言った。魔法少女なんてやめなさい、と。黒奴は大人が何とかする、と。
夏帆は答えた。黙れ、と。
魔法は魔法でないと対処できない。もしかしたら魔法技術総合研究所みたいな所が魔法の使えない人でも魔法に対処できる方法を編み出しているのかもしれないが、今のところそういったものが一般市民の手に届いてはいないので、結局黒奴は魔法少女が何とかするしかない。
大人がピーピー喚いても、夏帆にとって彼らが庇護対象であることに変わりはない。ゆえにあれこれ言われても大して気にしないのだ。
「……やっぱりよく分かんないな」
「……結芽は魔法少女じゃないんだよね?」
「うん。……本当なら関わるべきじゃない、ただの一般人だよ」
話を聞いてもやはり、結芽に夏帆の考えは理解できなかった。復讐はしたければすればいい。だが、それを邪魔するカスどもをそのままにしておく理由がどこにあるのか。
昔から人一倍身体能力が優れていた結芽だが、その力を人助けに活かそうと考えたことは一度たりともなかった。結果的に誰かを助けていたとしても、それは結芽のエゴを押し付けた結果そうなったに過ぎない。
夏帆は結芽の内に燻る激情を感じ取り、呟くように言った。
「……本当なら関わらせるべきじゃない、って表現が適切かもね」
朝食をとるとすぐに、黒奴殲滅委員会とライフセーバーズは配信のために浜辺の方へ出て行った。雲は最後まで眠い眠いとぐずっていたが、引きずられていった。
ライフセーバーズの姿が見えなくなると、真帆と翠花もどこかへ出かけてしまい、旅館には結芽一人が残されることになってしまった。二人が宿を出る前に、警備員の一人も雇っていないのに不用心ではないかと聞けば、魔法をかけているので大丈夫だとのこと。
それならばと、結芽も一人で宿に残っても退屈だったので、散歩に出かけることにした。あまり町の人と関わりたくはなかったが、景色には興味があったのだ。
初日から色々なことがあって、気持ちを整理しておきたかったというのもある。
「……あの変な格好って、もしかして……」
しかし、昨日真帆に案内された高台に向かうと、そこには妙な格好をした五人組の先客がいた。
真っ黒なドレスを着た猫背の女性。
全身タイツの上に鎖や足枷が巻き付いた少女。
交通誘導警備員の制服のような格好の女性。
デニム地のオーバーオールを着てライト付きヘルメットを被った幼女。
鉢巻を巻いたチアガールのような衣装の少女。
見れば分かる。魔法少女だ。魔法少女でなければ、新都心に行こうとして電車を乗り間違えたコスプレ集団だろう。
「きひっ、コーラルのやつ、遅刻か……?」
「そうみたいね。実家に帰ってるらしいし、寝坊かしら?」
「真帆さんなら今朝翠花さんと一緒に宿を出たのを見たよ。買い物に行ってるか、何かトラブルがあったんじゃないかな」
「よく知ってましたね、ボム」
「あたし何も言ってないわよ?」
「……知らない人、混じってる」
チアガール少女の見た目にそぐわない小さな声の呟きに、他の四人はすぐさま反応して飛びのき、それぞれの専用武器らしきものを構えて結芽を囲む。ふと湧いたイタズラ心だったのだが、流石に見ず知らずの他人、それも魔法少女に起こすべきではなかった。
結芽はすぐに両手を挙げて無害アピールをした。
「ほんの出来心でした。反省してます」
「こいつ、変身してない……?」
「それどころか魔法も使ってないわ」
「そりゃ魔法なんて使えない一般人ですし」
「えっ、じゃあ魔法無しで認識阻害突き抜けてきたってこと!?」
普通の感性を持った一般人ならあの状況で悪戯心を発揮することはないはずだが、結芽は普通の感性とは縁がないので関係なかった。
ヘルメット幼女は認識阻害がどうのこうのと言うが、結芽にはそんなのはさっぱり分からない。発動していたのなら、魔法の使えない結芽には五人の姿を認識することはできなかったはず。しかし今、普通に悪戯ができたので発動していなかったのではないか。
怪しまれまくっているこの状況を余計に波立てるつもりはないので、その件については深掘りしなかったが。
「と、ところでさっきこの人、真帆さんと翠花さんがどうこうって……」
「知り合いだから矛を収めてくれ、チーム海防魔法少女」
「あ、翠花さん……あてっ」
「何してんのよおバカ。あたしたちも途中から面白がって眺めてたケド……」
今にも魔法の一つでもぶつけられそうだった所に、ようやく真帆と翠花……変身しているのでコーラルとロータスが到着した。二人の手にはビニール袋が下げられており、やはりどこかに買い物に寄っていたようだった。
二人がどうにかとりなしてくれたので、とりあえず敵ではないことだけは理解してもらえた。そのついでに自己紹介も済ませる。
「きひひっ、『写真機』のカメラだ……魔法少女じゃないなら、そんな無茶はよすんだな」
「『平土機』のブルドーザーよ。よろしく……でいいのかしら?」
「あっ、『土嚢』のサンドバッグです」
「あたしは『爆弾』のボム。……身長はギリあたしの方が上かしらね」
「……『拡声器』のメガホン。……ん」
ちなみにコスチュームは上から順に黒ドレス、交通誘導警備員、全身タイツ、オーバーオール、チアガールである。
それぞれが名乗り終えると、全員の視線が結芽に向く。そういえば名乗っていなかったと思い出して結芽も同じようにした。
「あー、えっと、泡沫 結芽。ごく普通の一般人。よろしく」
この時、コーラルとロータスも含めた全員の心が一つになった。お前のような一般人がいるか、と。




