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魔法少女の妹  作者: ひらめんと
第四章 魔法少女が少ないわけがない
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第三十二話 超大型新人たち

「うーん、これでまだ魔法少女初めて二ヶ月未満と一ヶ月未満って本当?」

「タチの悪ィ冗談だな。オレがもう少し弱かったら育ち切る前に闇討ちでもしてた」

「素質ってやつね」

「自分で言うのかい?」


 その日の黒奴殲滅委員会は、魔法少女協会新都心支部の地下訓練場を貸し切り、新人たちと訓練を行っていた。


 この施設には、数百円ほど支払って予約しておくと、「電算機」の魔法少女に訓練用の黒奴(クロヌ)のホログラムを用意してもらえるのだ。


 データは潤沢にあるのか再現度はかなり高く、灰冠から金冠まで多種多様な黒奴(クロヌ)との擬似戦闘が可能なのだ。


 作りたてのチームでは大抵仲間との連携がうまく取れないものなので、そのためのものなのだが、このチームの新人たちは大型過ぎた。


「後衛二人は言うことねェな……前衛だからよく分からねェとも言うが」

「そうだね、ある程度経験を積ませて、汎用魔法の使い方を覚えればそれだけでも十分かも」

「……戦力になるってこと?」

「そうみたい! やったねボウ!」


 やや専用武器と特定の魔法に頼り切りな部分はあるものの、新たに加入した「弓」と「銃」の魔法少女は、その名に違わぬ強さを持っていた。


 未来予知の魔法なんて、反則みたいなものだ。狙撃手が持っていい魔法ではない。


 その上戦闘のセンスというもの自体がかなり高い。双子ならではの連携も相まって、放っておいても大成しそうなほどであった。


「ファンはある程度飛行できるようになってたね。浮遊じゃなくて小刻みな飛行なのがちょっとよく分からないけど……」

「練習したからね。それに、空中ならより風を感じられる」

「ドールも手札が増えてたな。防壁に、霧に、魔力武器だったか」

「生徒会と戦って、このままじゃダメだって思ったもの。まだまだ全面的に不足してるけどね」


 新たに加入したわけではないが、まだ魔法少女になって二ヶ月も経っていない二人についても、改めるように言うべき部分はどこにも見当たらなかった。


 汎用魔法も新たにいくつか覚えてきた二人も、足りないのは場数としか言いようがなかった。


 経験ばかり積んでいるもののさほど才能には恵まれなかったジェードからすると、ぶん殴っても許されるだろうかとつい考えてしまうほどだ。


 二人とも戦いの原動力は黒奴(クロヌ)への恨みだったが、最近ではそれも薄れて来たように見える。


「ねえ、汎用魔法って、私たちは覚えなくていいの?」

「あァ? ……そりゃ覚えておいた方がいいけど、半端に手ェ出すくらいなら無い方がマシだから何ともなァ……」

「ガンとボウに汎用魔法? じゃあジェード、ちょっと実践して見せてよ。アタシたちも見ておきたかったところだし」


 反省会の中で、話は汎用魔法の話になっていった。


 そして、このチームの中で一番汎用魔法を使いこなしているのはジェード。必然的に彼女に実演を頼むことになるのだった。


 ジェード本人があまり語らないことで、加えてつい二ヶ月前に元々所属していたチームが壊滅したということもあって他のメンバーはあまり聞かないが、これでもジェードは魔法少女の中ではベテランと呼ばれるような存在。


 専用魔法に頼り切るような素人魔法少女ではないのだ。


「んーと、まずは放出系の魔法からかな?」

「え、魔法って分類とかあるの?」

「あるよー。専用魔法については複合的なものが多いから何とも言えないけど……あ、ファンの専用の千の風(サウザンドウィンド)とかは典型的な放出系かな?」


 武器モチーフの魔法少女なので、てっきり他所のチームにも何か教わっていたりするものだとばかり思っていたジェードだが、どうやら二人は魔法の基礎的な知識から抜けているらしい。


 結芽は飛華里を魔法で転移させたときに舞から聞いていた話だが、この話は実は一般的にはあまり知られていないものなのだ。


 ここ数年で急に増えた魔法少女関連の書籍にも、協会が検閲しているので載っていない。


 ジェードは放出系、構築系、付与系の三種についてざっくり説明すると、実際に十種の汎用魔法を使ってみせる。


「これが放出系の基本、魔力弾。単に魔力を放出するんじゃなくて、そこに破壊力を持たせたものだね」

「ただ、単に球形で飛ばすことは少ねェからな? 楕円にしたり矢みてェにしたり、工夫の幅が広いからこその『汎用』魔法だ」

「……踏んずけて足場にもできるってことかしら?」

「ドール、テメェは工夫とおふざけの区別くらいつけろ」

「失礼ね、大真面目にこの発想よ」


 アイアンの言うように、楕円や矢のような形に変形させて見せるジェード。ガンとボウは目を輝かせてそれを見ている。ロマンの塊みたいなものなので、仕方ない。


 ついでにジェードは、飛ばした魔力弾を急停止させたり鋭角的な軌道を描かせて見せたりもする。


 いっぺんに十個も二十個もそれぞれが別々の方向から飛んで来れば、それだけでも脅威になるのがこの魔法なのだ。


「次が魔力光線。光線って言っても、光るわけじゃないけどね?」

「魔力弾と違うのは、継続的に攻撃ができるって所だな」

「これも曲がるんだよね。この前の模擬戦では酷い目に遭ったよ……」


 ジェードの手から放たれた魔力のビームは真っすぐ訓練場の壁に向かっていき、これもまたありえない角度で曲がって幾何学模様を描き出す。


 魔力弾よりも燃費が少し悪いのが難点だが、状況によってはこちらの方が使える。


 それに何より、対価が軽い魔法少女からすればさほど気にならない程度の消費量の差だ。


「で、これが魔力武器。剣とか槍が基本形だけど、切ったり刺したりっていうよりも、削り取るっていう感覚が近いかも?」

「魔力を押し固めてるわけじゃなく、内側の芯みてェな部分から放出し続けてるってのが肝だな」

「あ、それそういう感じだったのね。通りで……」


 今度は手刀に沿うような形で魔力のブレードが生成される。これもまた形は変幻自在で、伸び縮みしたり手から離れて飛ばしたりもできた。


 ドールが生徒会と戦った時に見た魔力防壁のカッターとは異なり、チェーンソーとでも呼んだ方が分かりやすいように思えた。


「さて、放出系はこんなところだけど、何か質問はあるかな!」

「燃費悪くない?」

「正直微妙だね。だからこそ、専用魔法との兼ね合いが大事なんだ」

「むむ……私たちみたいに、専用魔法が補助っぽい感じの場合は、こっちがメインウエポンになるってこと?」

「そうそう。でも二人の場合、銃撃がメインじゃない?」

「銃でしか攻撃できないと思わせたところをズドン! みたいな?」


 それは果たして黒奴(クロヌ)相手に通用する戦術なのか。


 その疑問はさておき、ジェードは構築系の実演に移った。


「放出系はさっきみたいに魔力の消費が常に激しいものばっかりだけど、構築系はこんな感じに、一度発動させればこっちのもの、って感じのが多いかな」

「今発動させてんのが魔力防壁。その名の通りの壁……というか板か? でもって盾だな。つっても丸くしたりもできるけどな」

「魔力武器は盾にならないの?」

「咄嗟に使う分には悪くねェけど燃費も考えろよ?」

「あ、そっか」


 最初は以前ドールも見たことのある魔力防壁。構築系の汎用魔法の基本である。


 単に攻撃を防ぐだけでなく怪我人を乗せる担架代わりにもなる便利なやつだ。


 ちなみに、モチーフが自動で体に沿うように展開してくれるバリアもこれだ。


 壁であり、板であり、盾にもなるが、ドールはジェードの生成した防壁の一枚の制御を糸で奪い取り、振り回してカッターにもなることを示して見せる。


「そっか、ドールの糸ならこういう魔法の制御も奪えちゃうんだ。相変わらず使い勝手がいいねそれ……」

「霧とかと合わせて使われると流石に厳しいわよ? この糸、ちょっとでも抵抗があると魔力の消費量跳ね上がっちゃうもの」

「魔力霧……何だっけ、デコイとか緩衝材とか、そういう使い方をするんだっけ?」

「そうね。それに、普通に浴びせてやっても眩暈とか吐き気とかするわよ」

「じゃあ何で私に飛ばしたのかな??」


 そう言いながらファンの方へ魔力でできた靄のようなものを飛ばすドール。これも汎用魔法の一つだ。


 魔力の反応を追ってみれば、確かに本体と似たものが二つに増えたように感じられるので、デコイになりそうだとガンたちは思った。実際、後衛は特に重宝する魔法なのだ。


 デコイになるだけでなく、ジェードの防壁に被せるように出して見せれば、防壁と霧が干渉し合ってどちらも掻き消えた。


 作用は薄めだが、防御手段としてもある程度期待できるのだ。


「えっと、防壁と霧は見せたから……魔力塊が最後かな?」

「そうだな。燃費は最悪だけど、その分防御力は十分だ。急所のガードに使うのが基本だな」

「鈍器にもなるかな?」

「ファン……ドールが移っちまったのか……?」

「アタシが移るって何よ!」


 最後と言ってジェードが見せたのは、魔力でできた結晶のようなもの。


 魔力防壁でも箱状にすることはできそうだし、幾重にも重ねれば似たようなことはできそうだったが、これはまた違う使い方ができそうなものだった。


 狙撃される場所を予め予測された上でこれを発動されてしまうと、それだけで防がれてしまいそうだと、狙撃手らしい考えを二人揃って考えていた。


 前衛と中衛の二人は揃って鈍器としての使い道を考えていたが。


「構築系はこんな感じ! 根本的に使われ方が違うから、放出系とどっちがいいかっていうのは、一概には決められないんだよね」

「これ黒奴(クロヌ)の攻撃防げるの?」

「それは頑張って避けた方がいいかな。黒奴(クロヌ)の魔術を防ぐのに使ったりはするけど、黒奴(クロヌ)に殴られたり体当たりされたりする想定でしょ? 流石に防ぎきれないと思うなあ」

「じゃあ何のために……特に霧なんて、対黒奴(クロヌ)戦での使い道が思いつかなくない?」

「……そうだね」


 ガンの質問にはあえて答えず、ジェードは付与系の魔法の説明を始めた。


「付与系はその名の通り、何らかの性質を何かに……基本的には自分に付与する魔法のことだね。使ってるのかどうかが微妙に分かりにくいのがポイントかな?」

「ジェードが今魔法を使ってるって気づいてる奴は……全員か。本当に新人なんだよな……?」

「多分肉体強化よね?」

「正解。……てか、何で分かるんだよ」


 付与魔法の基本は肉体強化。変身する際にモチーフが自動的に発動させてくれる魔法の一つであるが、自分でかけられるようにならないと出力はお察しだ。


 結芽ならこれ抜きでもこれと同じように動きができるな、とジェードが新体操の選手のように跳ね回るのを見ながら、ガン以外の全員が同じことを考えていた。


 ちなみにジェードはあまり結芽の身体能力のことを知らないので、ガンに比べてあまり驚いていないボウを見て不思議に思った。


「で、皆がいつもお世話になってる認識阻害も付与系に入るけど、今は実演のしようがないから省略しちゃうね」

「今はできないって言っても、ジェードは上手いからそのうち教えてもらうといいわよ」

「訓練場じゃ監視カメラがあるからなァ……協会が悪用するとは思えねェけど、むやみに変身とか認識阻害は解除できねェんだよな」


 認識阻害の実演はパスだ。全員に注目されている状態でどうやって認識をズラせと言うのか。


 これを極めた魔法少女はミスディレクションだとか何とかを利用して魔法に緩急をつけ、数十人に包囲されている状態から全員の意識の外に出ることも可能だが、ジェードにそこまではできなかった。


「最後にちょっとややこしいのが、飛行と浮遊の違いについてだね。どっちも飛ぶための魔法っていう点じゃ同じなんだけど、若干役割が違うんだ」

「飛行は中長距離の高速移動用、浮遊は短距離の移動用。ファンは小刻みに飛行使って移動してたけど、あのくらいの距離なら燃費を考えて浮遊を使うのが普通だな」

「でも飛行の方がもっと風を感じられるよ?」

「何言ってんだテメェ」


 名前は似ているが、飛行と浮遊では役割が違うのだ。


 役割が違うだけでなく、飛行には移動前に魔力をチャージする、タメの時間が必要になるというのもある。


 ほんの少しの時間かもしれないが、確実に動きが止まってしまうのだ。黒奴(クロヌ)がその間に攻撃してこないわけがなかった。


 しかし、タメの時間が無いからと言って浮遊に頼るというのも考えものである。


 浮遊は中長距離の移動を想定していないので、移動速度はやや抑えめなのだ。


 訓練次第である程度は伸ばせるものの、限界はある。つまり、両方を感覚で使い分けながら空中戦をこなせるようになってからが一人前ということだ。


「付与系はこんなものかな。付与系は特に覚えて欲しい魔法だけど、得意不得意はあるから、少しずつ覚えてくれればいいよ。その間は私たちが守るから」

「……」

「……」

「……言いたいことは分かるよ。何で黒奴(クロヌ)相手じゃなく、()()()()()()()()()()()()()ばっかりなんだ、って。そう思ってるんでしょ」


 ドールとファンは「え、そんなこと考えてたの?」とでも言いたげな表情をしていた。


 二人は魔法少女同士で戦うことをまるで考えず、いかにこれらの汎用魔法を工夫して黒奴(クロヌ)を倒すかだけを考えていたのだ。


 しかし黒奴(クロヌ)の倒し方を一つ思い浮かべるよりも、対人戦での利用法を考えることの方がよほど簡単なものばかりだった。


 放出系はどれも対黒奴(クロヌ)戦で使えそうなものばかりだったが、構築系は特に対人戦を想定しているようなものばかりだ。


 よほど強い魔法少女やそういう専用魔法を持っていなければ黒奴(クロヌ)の攻撃は防ぐものではないし、黒奴(クロヌ)が急所を狙った精密な狙撃をするとも思えない。


 付与系はどちらにも使えるが、なぜわざわざ対人戦のことまで考えるのか。ガンたちにはそれが分からなかった。


 ドールたちにはその発想がまず理解できなかったが。


「魔法少女には色々あるからね。……黒奴(クロヌ)と戦うだけのお仕事じゃないんだ」


 その言葉を聞いて、新人二人はどう思ったのか。


 黒奴(クロヌ)を倒すためだけに命をかける二人は、どう思ったのか。



 その答えを聞く前に、新都心南部で発生した黒奴(クロヌ)に関する救援要請を見て、殲滅委員会は地下訓練場を飛び出していた。

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