~序~
火がパチパチ鳴る。ウサギを仕留めた肉をほおばる三人。携帯食として燻製にもせねばならぬ。大仕事だ。一気に文明水準が下がったことを実感する。闇世が来ない。白夜だからだ。不眠に気を付けなければならない。下手すると不眠で精神に異常をきたすものがいるのだ。だから食事のあとに眠気を催すハーブを入れたお茶を飲む。
「あ~よかったな~あの宿屋」
呪術師が思い出す。
「言うなって」
勇者が釘を刺す。
「今は野宿だもんな~」
焚火の音がパチパチなっている。
「魔王城ってどんな感じなのかな?」
勇者はやっぱりそれが気になる。
「やっぱ魔王城というだけあっておどろおどろしいんじゃね?」
戦士はもっともらしいことを言う。
「恐ろしい感じかな?」
――別邸を見る限り違うような気がする
しかしこの声は戦士には届いていないようだ。
「魔王城に行ったら真っ先に宿屋行くぞ~」
勇者の本音が出た。
「魔除け魔法唱えておいた」
さすが呪術師。もっとも魔物に襲われたことはないが。
「サンキュー。これで熊も狼も寄ってこない」
俺達にとって実際の脅威は猛獣だ。
「町の名前もサロで魔王の名前もサロかあ」
呪術師は気になっていた。魔王である。いったいどんな強力な魔法を使うんだろうと。
「俺たちとほとんど年齢変わらないって言うんだから驚きだよなあ」
「ちょっと俺素振りしてくる」
戦士はむしろ戦闘を気にしてるようだ。本当は戦士の行動が正しい。なんせ魔王城に乗り込み魔王を討つのだ。しかしやっぱり違う。戦士よ、それでいいのか。
勇者は喉から出そうになった声を抑えた。
◆
一方で魔王は万が一勇者との交渉失敗に備えて生贄の儀式をしていた。敵対する遊牧民族の残党狩りを行いその一人を仮死状態にして生贄の祭壇で人間の血肉を堪能していた。もちろん残り物はシュクラに下賜するつもりだ。
魔王は喉から会心に満ちた低い声を上げた。
その時闇に蠢く者が現れた。
「残りはお前にやる。なるべく戦闘にならんようにしたいが万が一のときは玉座の後ろのレバーを上げてくれ。ここまで我は逃げる」
「おおせのままに。魔王様」
闇の中で咀嚼の音を聞きながら魔王はこの部屋を去った。