第八話
シュクラに謁見を申し出た犬人が居た。銅の原石を見せる。
「これが近隣の鉱山から取れた銅です」
コボルトのモコが言う。普通は武器に使うものだ。
「これに亜鉛を混ぜると……」
モコが出したのはきれいな硬貨だ。
「おお、なんて綺麗な硬貨なんだ」
シュクラもびっくりだ。思わず副官の席から飛び上がる。
「今や貨幣も貝ではなく黄銅貨の時代」
「いかがでしょう?」
「魔王様に許可を頂かないと分からんな」
玉座に座ってるサロは「いいだろう」すぐに許可を出した。こうして貝に変わって黄銅貨が流通した。
◆
黄銅貨はそれまで貝を通貨の替わりにしていたが安定してかつ綺麗ということで鋳造も楽ということですぐに広まった。
「通貨の単位を決めてください。今までは『カイ』でした」
シュクラは通貨の単位を決めろと言って来た。なんと他国と通貨レートは違うのだそうな。僕はまだ少年だ。こういった社会常識を教えてくれるシュクラにはほんとう頭が下がるよ。
サロはじっくりと硬貨を見つめる。犬に破を出した結果犬人が誕生したわけだが鼻が利くだけでなくこんなことまで出来るとは……。
「それにしても大きさで貨幣の価値が変わるんだな」
文字が違っていた。
「ええ」
「金庫はどうしよう。今まで活用してない地下一階などを使用するか」
「それはいいですね。すぐに地下もリニューアルしましょう」
(銭? 銭か。そうか!)
「ゼニ―」
シュクラは突然の単語にあっけにとられた。
「これはいい『銭』だ。通貨単位は『ゼニー』としよう」
「……」
シュクラは茫然とした顔からなんだか怒った顔に変わった。冗談だよ、冗談。
「おおせのままに」
それでも粛々、いやしぶしぶ従うシュクラ。
「どうした、シュクラ?」
笑いを堪えながらサロは聞いた。
「いいえ、別に」
なんとこうしてダジャレがそのまま通貨の単位になってしまった。サロは魔王である。冗談と言えども決まったことは決まった事なのだ。ちなみに城下の反応は「寒い」よりも「覚えやすい」であった。
国庫はいざという時のための地下に作られることとなった。もちろん防火扉も完備でいざ戦闘となった時も安心だ。
鋳造工場は魔王城の中に作られた。まあ、通貨ってお国のもん出しね。よってコボルトのモコは鉱山員から一気に四天王の次位に偉くなったのだ。
両替商も誕生した。
鋳造するのは大変そうだ。有毒なガスも出る。サロは心配した。モコもそうだがこんなんじゃ鉱山はどうなってるのかと。
「鉱山で働く人の住環境は大丈夫なのか?」
サロは直接モコに聞いた。
「あまりよくはありません」
「魔王城から鉱山の距離は?」
「鳥人族ならここからひとっとびです。すぐですよ。私はよく鳥人族が運ぶ籠で鉱山に出張してたもんです」
「じゃあ行ってみるか」
(暗夜の季節も終わり太陽が顔を出すようになったしな)