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七年ぶりに吸血ウイルス感染者が国内で発生した。旅先で感染し、周りに広げたらしい。
早々に吸血族や研究所の連中が対応し、十五人に広まった程度で収束した、と聞いていた。
ところが、突然俺の住むすぐ近くの市で感染者が出た。うまく逃げた奴がいたようだ。
感染から日が経ち、血の摂取を繰り返すことで本格的な「吸血鬼」へと変貌する。一時は赤い目になる奴が三人もいて、次々に被害者が増え、それが加害者になっていく。
俺もかり出されて、昼は学校、夜は吸血鬼退治に忙しく動いていた。
「何で人間が感染るのを、俺たちが退治しなけりゃいけないんだぁ?」
いとこの玲二がぼやいていた。玲二達の家は感染者が多い辺りにあり、自然と対応させられることが多くなっていた。
「食料の安全確保は義務だ、って、父さんが言ってたよ」
「だけどさあ。どうせ牙有りの奴らも、牙無しの俺たちも、見分けがつかずに忌み嫌う連中だぜ?」
「ヴァンピールなんて架空の話だと思わせないと、我々の生活にも関わるだろう?」
玲二の父、叔父の良平が笑っていた。
玲二とその兄の連は大学生、叔父は普通の会社員だ。
俺にしても昼間は普通の高校生。中間試験も近いってのに、こんな騒動は勘弁してもらいたい。
俺たち吸血族は、血を得ることで、人並み外れた力を得る。
人の意識操作もそうだが、体力も、筋力も、五感も跳ね上がる。それは、にわか吸血鬼の吸血ウイルスにやられた連中も同じだ。
吸血ウイルスは、元々は牙を持つヴァンピール、吸血牙族がウイルスに感染することから人に広がる。牙族であっても、ウイルスに感染していなければ、血を吸ったところで何も起こらない。感染者の牙で皮膚が傷つけられ、血を吸われることでウイルスに感染する。潜伏期間は一日から三日程度。何度か人の血を摂取することで、やがて目が赤くなる。その間、概ね一、二週間程度。
普段は人として過ごし、目の色も普通を装う。それが人を襲う時には赤い目を顕わにし、特殊な力を使うようになり、感染力も強まる。激しい乾きから、人を襲う回数は増えていく。人から人へ感染す方がよほど多いが、普通の人から見れば、感染した人間は「吸血鬼」だ。
玲二と連と俺で見つけた吸われて間もない黒目が五人、叔父が赤目を一人、開発された即効性の「治療薬」を額に打ち込めば治療は終わる。ウイルスが死滅すれば、体の変化も元に戻る。
至って簡単だ。銀のピストルも、十字の聖剣もいらない。
ピストルや剣でやられたら、吸血鬼じゃなくても、普通の人間でも死んでしまう。それを「退治」と言うんだから、迷信の力は恐ろしい。
後は赤目が二人、黒目が数人、この退治が難しい。赤目の動きが追えていなければ黒目は増え続けるが、黒目も症状が出るまで判りにくい。
夏場なら、肩口を出している奴が多く、見ただけで判ることもある。何せ、特徴的な首筋への嚼み跡だ。大抵は、そんな傷に気がつけば隠そうとする。寒くなれば首元を覆うことも増え、ますます外目からは見分けがつきにくい。
大切なのは、調査と、追跡、五感向上。
そうやって血の力を消費するせいで、事件が起これば「吸血鬼」だけでなく、俺たち吸血族もまた、血を欲するようになる。
そのうち、月一の補給では少々足りなくなってきた。
一応「彼女」への礼儀として、二股はかけないようにしている。そうなると、相手の体調も考えると、こまめに摂取するか、そこそこの量を摂取して早々に次の獲物を探すか。
相手の要望にもよる。
首筋だろうと、唇だろうと、ボトルの口と変わらない。吸血行為は、場所も場所だけに、どうしてもエロく見える。実際、エロ心を利用して捕食するわけだから仕方がないが、それなりの雰囲気を作り出し、要望に応じたうえで啜る血は、練習する気もない俺は常に全血をもらっていた。
必要な成分だけをもらい、残りの血を戻す方法は手間と時間がかかり、そんなことに時間をかけるくらいなら、適量をガバッと飲んで次を探す方が合理的に思えた。まさに俺は吸血族なんだろう。
いとこの連でさえ、本命の彼女ができてから部分吸血をするようになった、と言っていた。俺以上に結構遠慮なく全血を啜って、時々被食者を貧血にしていたくせに。
「おまえも、おまえから好きだって思うような人ができたら変わるさ。手放したくないような人が現れたらね」
聞いてて、かゆっ、と思った。




