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注:
この話は「ヴァンピール(吸血鬼)は感染さない」の語り手を変えた同じ話です。
先に読んだ人は、展開ネタバレ、結末は一緒です。
昔から、自分が周りとは違うと言うことは、なんとなく実感していた。
母が妹を身ごもった時、突然手を触れることを禁じられた。
まだ五才だった自分には、「罰」だとしか思えなかった。何も悪いことをしていないのに、とても耐えられない「罰」だった。
妹が生まれた後も、授乳に差し障る、妹が泣く、母がもたない、…言われる理由は意味が分からなかった。
代わりに保育園の友達に手を求め、寂しさを紛らわした。無理に繋ぐ手を離すことなく、握り返してくれる手が自分の救いになっていた。
ある日、自分が「人」ではないと知った。自分が生きていくには、少しながら人の血が必要で、無意識のうちに手から人の命に関わる「血」を吸い出していることを告げられた。
同じ人と接触しすぎると、相手に負担になり、命に関わることもある。自分を元気づけてくれた友達にとって、自分は害をなす者だと知った。
それを知った時には、一番仲良かった友達は引っ越しをし、いなくなっていた。
あまり丈夫ではない、と聞いていた。もしかしたら、自分のせいだったのかも知れない。控え目で、我が儘や無理も受け止めてくれ、いつも励ましてくれた、大事な友達だった。
ちょっと不思議な名前だった筈だけれど、薄情なことに今となっては名前も顔もよく覚えていない。
どんなにしっかりと食事をしても、どうしても少しは人の「血」が必要な体は、祖父譲りの「ヴァンピール」故だ。
祖父よりは父、父よりは俺の方が、血に対する依存度は低い。
祖父は祖母の他に「食事」のための人を数人雇っていた。血を提供し、秘密を守る代わりに生活を保障する方法で、祖母の負担を減らしていたようだ。
父は、母をこよなく愛していて、また、母も他の女は、例え血だけの関係でも許さない、とはっきり言い切っていた。
どちらも妻に負担をかけないよう、一族に伝わる技を身につけた、と聞いた。いつか俺にも守るべき人ができたら、必要になることがあるから、早々に身につけろ、と言われたところで、どうにもピンとこず、ろくに練習もしなかった。
普通の生活をしていたら、そんなに摂取しなくても問題がなく、欲張らなければ月に一度、少々血をいただければ充分だった。
血の「食事」はできるだけ控え目に、特定の人に偏らないよう注意が必要だった。
学校では、特に仕組まなくても手を握る機会くらいはあり、忍んで手に入れることはできていた。
やがて、手が大きく、厚くなっていくに連れ、手を通して血をやりとりするのが効率的ではなくなっていった。肌が薄く、太い血管が近いところが飲みやすいことに気がついたこともあり、むやみやたらに誰でも対象にするのをやめ、獲物を特定することにした。
捕食者としては、見栄えが良いのは重要だ。女の子に好まれる容姿は、提供者を呼び寄せるには便利だ。視線を感じるのはあまり好きじゃなかったけれど、そのうちそれを利用することを覚えた。
エサにされるとも知らず、目を輝かせてこっちを見る獲物に笑みを向けると、自ら寄ってきた。自分の中身が大したことがないことくらい判っている。向こうが勝手に抱いた架空の「王子様」を演じて、二、三週に一回「報酬」をもらう。
長く続けるのは、お互いにとって良くない。体調を崩す前に、そして理想とは違うことに気がつく前に、長くても三ヶ月以内には関係を解消したほうがいい。…実際に三ヶ月も続くことはなかった。
血が満ちている時に「命じれ」ば、何の後腐れもなく、今まで一緒にいたことさえうろ覚えになり、自然に離れていく。無理しても関係を続けたいと思うような者はいなかった。あくまで捕食-被食関係だ。