愛し子、挨拶する。
おまたせしました
無理無理無理無理!
え!ツラい!天帰る!
ツラいから天にかえるー!
どうやったら帰れるの?ねぇ神?時が来ればわかるって言ってたよね?
今がその時じゃあねぇんですかい?
神に問うてみたり、丹田に力を入れたり、羽が生えて天に召されるところをイメージしてみたけど全然だめ。
せめて事前に教えておいてよ!
それか私がきいてなかっただけなの?
呆然と椅子に座ったままでいると、
司会おじさんが「静粛に!」と生徒達を注意する。
周りが静かになった。
私(の脳内)も静かになった。
思わず立った。
しまった。
みんな、体は前を向きながらもこちらに視線を送る。
今までの人生の中で1番注目されている。
もう引下がることは出来ない。
ゆっくりと壇へと向かいながら、軽く死を覚悟する。
恥ずかしい。緊張する。穴があったら
入りたいとはまさにこの事。
でもここで本当に蔦で穴を掘って、そこに入ったら今と比べ物にならないくらい注目されてもっともっともーーーっと恥ずかしくなるんだろうなぁ、とか
地底人のように地中に住みはじめて人の目に触れなくなってやっと、羞恥が緩和していくのだろうなぁ、とか
関係の無いことをグルグル頭中巡らせて気を紛らわす。
どうしよう、どうしよう。
壇上にあがってしまった。
さっきの学園長と同じポジションだ。
顔に熱が集まり、さっきここにくるまでに馬鹿なことばかり考えてないで挨拶の内容をあらすじだけでも考えておくべきだったなぁと悔やむ。
悔やんでももう遅い!やるしかない!
いっけーーーーー!
もうなにがなんだかわからないまま口を開き、極度の緊張でパッサパサに乾いた喉から声を絞り出す。
「みなさま、ごきげんよう。
私は緑の愛し子、シャーロット・ロスでございます。」
そこからはもうツラツラペラペラティラティラあることないこと喋り続けた。
季節の話だの志だの夢だの、無難なことは全部言い尽くして(学園長と内容がわりとかぶっているが、無言を貫いたり穴を掘るよりマシだろう)、5分程度たった。
よし、そろそろ終わっても良いだろう、
今こそこの挨拶に終止符を打つべきだ!
「先生方、並びに来賓の方々、そして先輩方。
御面倒をおかけすることがあるかもしれません。そんな時は優しく、時に厳しくご指導いただけると幸いですわ。
ご清聴ありがとうございました。」
そう締めて、ぺこりとお辞儀をし、壇から降りる。
こんなもんだろう。
9歳の即興初スピーチにしてはよくできたもんだ。
飛んでくる拍手の中、自分を脳内でわしわし褒めていたら右の方から特に強い視線を感じる。
ちらりと目線をそちらに向けてみると、ルーカス様と目が合った。
その目は、私に何かを訴えかけるように見えた。
表情は変わらないので詳細は不明だが、
『おい!そこのyouに行ってるんだぜ!わかってるのかyo!』
みたいな感情はひしひしと伝わってくる。
アレか?
『僕の身代わりになってくれてありがとう!
めっちゃ助かりました感謝感激雨あられ!』
ってことか?
私が元の席に着くと、左隣に座るルーカス様に『いいってことよ!これで貸し一つね!』と薄っすらジェスチャーしてみる。
すると伝わったのか、すこしムッとした表情を返された。
王子に貸しを作るのはよくなかったか。
慌てて貸しとかやっぱ無しで!とボディーランゲージを送るが、もうこちらを見てはくれない。
あーあ、やっちまったかな。
左から漂う嫌な甘さの香りの中、私は淡く反省の念を抱いたのだった。




