154、あれから10年……
154、あれから10年……
「モグモグ……あ、お姉ちゃんおはよう。今日は早いね、朝から学校あるの?」
「お腹すいたから起きただけだよ。講義は昼からだし、あ、ジャムちょうだい」
「ハア……、お気楽だねえ」
魔人オカマとの戦いから10年目の夏、リーちゃんはキャピキャピの女子高生、姉のミーちゃんは大学生だ。
小1のおてんばっ子が、よくまあ……おっといけない、タマシールで張り付けられた魂から邪念が流れ込んでくるのかイェイ?
あ、申し遅れたが、我は松下家の家宅神、サンチじゃイェイ。ヒエール殿の創ったタマシールの生き残りじゃイェイ。
本当ならご近所様と一緒に全焼していたところであるが、我は家電達となり敷地内から飛び出し、さらにリーちゃん達をえこひいきして守るため、神技「家内安全」で我が身を守った結果、タマシール大爆発の被害も被らず、焼け野原にポツンと、不自然に残ってしまったイェイ。
当然、世間は松下家だけがなぜ被害もなく残ったのか?
「奇跡の一軒家だ!」
と騒ぎ立て、しばらくは大勢のマスコミの取材が殺到し、専門家が調査したが、
ホホッいくら調べても分かるわけないイェイ。
そしてもう一軒、神技「ご近所づきあい」で難を逃れたゴミ屋敷。
おっちゃんの家も我が元の敷地に戻し、無傷ではあったのじゃが、元々ボロ家であった上にタマシール大爆発の衝撃でさらにボロくなり、周りの倒壊した家と、大して変わらない見てくれになったので、マスコミの取材も受けなかったようじゃ。
そして当のおっちゃんはと言うと……
「全部売って店を再建するぞ~」
と、意気込んでいたが結局、
周りで家や家財道具を失い困っている人たちを見たおっちゃんは、
なんと。
「こんな新品みたいな電子レンジ、ほんとにタダでいいんですか?」
「困ったときはお互い様だ、大事に使ってやってくれな」
「ありがとうございます(怖い人だと思ってたけど、意外といい人なのね)助かります」
大量にあった家電を無償で配ってしまったのじゃ。
その結果、変人扱いされていたおっちゃんの好感度は赤マル急上昇イェイ!
ちょっとした美談としてニュースになり、それを見た全国の人たちから集まった援助や寄付で「リサイクルショップのリサちゃん」を再建したイェーイ。
今まで、店を人任せにしていたおっちゃんも、制服着て毎朝早くから店の周りを掃除して頑張っとるイェイ。
魔人オカマに破壊された町並みもほぼ元通りじゃ。リーちゃんがパチンコでオカマ目がけて撃ったあの校舎も、きれいに建て直されたイェイ。
この件も校舎がなぜ、あんな遠くにふっ飛ばされたのか……と専門家が頭を悩ませていた時、一部の住人が「UFOと地デジカのような宇宙人を見た! きっと奴らの仕業だ!」と、騒ぎ立てたものじゃから、「それじゃピラミッドを壊したのも?」と謎の事件はすべて宇宙人の仕業ということで片付けられてしまったイェイ。
「いってきまーす」
お、リーちゃんが学校に出発する時間になったようじゃイェイ。愛車の赤い自転車にまたがり、軽快にこぎだしたイェイ。
特別、早く学校に行かなければならない理由はないのだが、いい天気で寝覚めも良かったのでなんとなく早く出発したのだ。来週からいよいよ夏休み、頭の中はすでに休みモードに入っている。
リーちゃんは自転車のギアをチェンジし、スピードをあげた。セミロングの髪の毛が心地よくなびく。
「おっちゃーん、おはよー」
「おお、リーちゃん、今日は早いな」
大通りの信号を渡り、リーちゃんはおっちゃんに手を振った。おっちゃんも掃除の手を止め手を振り返し答えた。
手を振っているおっちゃんの後ろには、ショーウィンドウがあり、そこには白黒テレビ、ローラー絞り機付き洗濯機、電気冷蔵庫、レトロな三種の神器が飾られている。
そう、それはまさしく……
リーちゃんは通り過ぎざま、その電気冷蔵庫を見て一瞬ハッとして自転車を止めた。
「え? 何? いま冷蔵庫が笑ったような気が……んな訳ないか。ガラスに何か写り込んだんだわ」
「ん?どうしたんじゃ?」
「ううん、何でもない」
「来週から夏休みだな、うちでバイトするか?」
「ハハッ、考えとくわ、じゃーね」
リーちゃんは、再び自転車をこぎはじめた。
「今一瞬、リーちゃんと目が合ったヴェ」
「記憶が消えてしまっているから、ヒエール殿の顔は見えないはずだボー」
「いよいよ今日だォ、うまくいくかのう」
ショーウィンドウの中のヒエール様、ブラウン様、ペタンコ様は、おっちゃんに聞こえないようコソコソ話し始めた。もちろんおっちゃんも、あの時の記憶は消えているが、元々家電のキヲクの声を聞くことができるので注意が必要だ。
いよいよ今日? 三種の神器様達は、いったい何を企んでいるのだろう。
「おーい! 香織ぃぃ」
「わっウザ、でかい声で呼ぶなよ、もう」
軽快に走るリーちゃんの後方から、立ちこぎ猛スピードで迫ってくる男子。サンヨーだ。リーちゃんは自転車を止め、小声で文句を言った。
小1の頃はリーちゃんの方が背が高かったが、今は逆転してサンヨーの方が10センチほど高い。イケメンではないが、さわやかな感じの少年に成長した。
全焼した三井家も、他のほとんどの家同様火災保険で建て直し、元の場所で暮らしている。
普段は遅刻ギリギリのサンヨーも、今日はなぜか早起きだ。
「雪でも降るんじゃないかしら」
「降らねーし、もうすぐ夏休みだぜ?」
リーちゃんとサンヨーは自転車で並走し、たわいもない会話をしながら学校へ向かった。二人は小中高と同じ学校へ通い、同じクラスにも何度かなったが、あくまでも幼なじみで、付き合っているとかそういう関係にはなっていない。
あの戦いの記憶は、消えてしまっているのだから仕方あるまい。
しばらく走ると二人の前方に、ベビーカーに赤ちゃんを乗せた若いお母さんが信号待ちをしているのが見えた。その傍らにパグ犬がちょこんと座っている。
リーちゃん達がその後ろにキュッと止まると犬が振り向き、シッポを振って鳴きだした。
「ワンワン、ベフッ」
犬はリーちゃんに駆け寄り、嬉しそうにリーちゃんの足にじゃれついてきた。
お母さんは慌ててリードを引っ張り、リーちゃんに頭を下げた。
「この子ったらもう、ごめんなさいね」
「あ、大丈夫です、パグは好きだから、おーよしよし」
リーちゃんがしゃがんで手を出すと、パグはフガフガ言いながら手を舐めてきた。
「かーわいい、フフッお名前は?」
「ベフっていうの、男の子よ」
お母さんはベビーカーの向きを変えて微笑み、パグの名前を教えてくれた。
ベフ? ……なんだろう、何故か懐かしい気が……
その名前を聞いたリーちゃんの心の中に不思議な感情が湧いてきた。
「キャッキャッ」
「あ……れ?」
「どうしたんだよ、香織」
リーちゃんがスッと立ち上がると、ベビーカーの赤ちゃんと目が合った。1歳くらいの男の子のようで、リーちゃんの顔を見つめて足をバタバタさせて喜んでいる。
「まあ、こんなに喜んで、おねータンのこと好きなの? 彼氏に怒られるわよ」
「か、彼氏じゃねーし」
ベフと赤ちゃんに見つめられ、心の中の感情はさらに高ぶってくる。リーちゃんは、何となく目をそらし、自転車のかごに乗せている自分のカバンに目をやった。
少し開いたカバンのファスナーの奥で何かが光っている。
「あれ? スマホのライトかしら」
リーちゃんはファスナーを開き、中を見ると光っているのはスマホではなく、ちいさなポーチだった。小学生そう、あの時から使っているボロボロだけど愛着のあるポーチ。
所々擦り切れて、空いている穴から光が漏れている。
「おっかしいなぁ、ライトとか入ってないのに」
リーちゃんは首をかしげながらポーチを開けた。
光っていたのは一枚の古ぼけたカードだった。小学生のころ知らないうちにポーチに入っていて、何となく持ち続けていたこのカード。これは……!
「な、何で光ってるのかしら」
「あら? テレビに挿すB-CASカードみたいね。どうして持ち歩いているの?」
「え? 分からないけど何となく……あら? こんなこと書いてたっけ」
「ダァダァ!」
「ベフベフッ」
リーちゃんは、カードに今まで書かれていなかったと思う文字を見つけ、それを呟くように読み上げた。
「今日のおすすめ魔法? 『再放送』って?」
と、その瞬間、カードから吹き出し花火のような光が飛び、カードは跡形もなく消え去った。そしてリーちゃんとサンヨーは、長い夢から覚めたような顔でお互いを見つめあった。
「あ……そうだった、あたしたち、レイちゃん達と友達になって……」
「魔人オカマと戦ったんだよ、戦闘スーツ着て空を飛んで……何で忘れてた、ってか何で今思い出したんだ?」
「キャッキャッ」
きょとんとする二人を見て、赤ちゃんは手をたたいて笑った。色白でちょっと四角い顔の男の子。そのムチムチの足には丸いアザが……
「レイ……ちゃん、なの?」
「あら? あなた何で名前知っているの?」
子供の名前教えてないはずなのに? お母さんは不思議そうに尋ねたが、ベビーカーのガードに括り付けてあるクマさんに子供の名前を書いているのを思い出し、
(あ、これを見たのね) と、にっこり笑った。
「お母さん、あたしレイちゃんとお友達になりたい! いいですか?」
「え? ええ、あなたみたいな可愛いお嬢さんなら大歓迎よ、でも彼氏に怒られない?」
「だから、彼氏じゃねーし!」
レイちゃん、人間になれたんだね、よかった……ヒエール様、約束を守ってくれたんだ。ハハッ、ベフは生まれ変わっても犬だけど。ジャブも五重丸もほかのみんなも、きっとどこかで元気に暮らしているはずだわ。
リーちゃんがそっと手を出すと、レイちゃんは小さな手で人差し指をキュッと握り返した。リーちゃんの目から涙がこぼれ落ちた。
「ホホッどうやらうまくいったみたいダォ」
「神は約束を守らねばならぬものヴェ。今回はちとえこひいきし過ぎたかも知れんがのう」
「あの子らはこの地球を救ったんじゃ、これくらいの褒美、少ないくらいだボー」
「そろそろ行かなきゃ、遅刻するぞ」
「あ、本当だ、早く出たのに意味なくなっちゃった。レイちゃんまたねーっ」
大きくなったリーちゃんは、あの夏休みの頃のようなあどけない顔で笑った。
稚拙な文章で、お恥ずかしい限りですが、何とか最終回まで書き終えることができました。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。




