第四十四幕 竹河
「・・・五百年前に地殻変動を起こしたのがアイリーンの一族の可能性はあるか?」
「可能性はあるであろう」
蝶々を追いかけるのに飽きたルルーシェは今度は鳥を追いかけた。
キルシェとロディの会話は聞こえていない。
それでなければ無邪気に笑いながら走ることはできない。
「過ぎる力は定めすらも捻じ曲げる。力を使い始める子に必ず伝える言葉だ」
「時の流れもか?」
「あり得ない話ではないな。実際に地殻変動があった場所の近くに理は存在している」
「答え合わせをしてもらうか」
答えが出たころにきっと現れる。
そうでなければヒントを残すことなどしない。
「あっ!キィ見えて来たよ」
「あとにすると煩そうだからな。先にヴィリシアのところに行くぞ」
「ロディ、競争しよ」
「うむ」
本気で走られれば勝てないから初めから走らないという選択をキルシェはする。
どうせ真っすぐギルドには言っていない。
途中で買い食いをしてからキルシェがギルドに到着する時間を見計らって合流する。
「・・・まだ着いていないのか?」
ギルドの前で大人しく待っていると思ったが姿は無かった。
先に報告をしようと考えてギルドに入ると即座に怒号が響いた。
「遅いぞ!」
「ヴィリシア」
「保護者ならお子様とペットの管理くらいしろ!」
不満だという表情を隠そうとしないルルーシェはソファで座っていた。
その足元でロディは伏せの状態で待っている。
何があったのか分からないキルシェは説明をヴィリシアに求めた。
「何があったんだ?」
「そっちの反対側のソファに座っているハンターに食ってかかった」
「そうか、悪かったな」
「どうしてキィが謝るの!?」
「ここはギルドだ。マスターが悪いと判断すれば謝る必要がある」
納得はしていないがギルドマスターの権限が強いことも理解はしている。
仕方なく黙る。
「と、まぁ言ってみたが、今回に関してルルーシェに非はないな」
「どういうことだ?」
「どういうことですか!?先に殴りかかって来たのは、その子どもですよ、ヴィリシアさん」
「おいおい、何を言っている?マスターである私が悪いのはお前だと言っている。その判断に不服なら今すぐギルドから出てもらっても一向にかまわない」
マスターはお気に入りのハンターには甘い。
それは自分のところのギルドを繁栄させるために囲い込むためとも言えるが問題を起こすハンターは必要ない。
「でもヴィリシアさん、彼はいきなり殴りかかってきたんですよ」
「それがどうした?」
「出会い頭に殴りかかるような野蛮なハンターをのさばらせておくのですか?」
「ルルーシェはいきなり殴りかかるような野蛮なお子様じゃないのは知っているつもりだけどね。現役を引退してから二十年経ってもう一度やるなんて年寄りの冷や水も良いところだ、と言われて怒らない人がいたら連れて来て欲しいものだな」
「彼がそうだとでも言うのですか?どう見ても子どもでしょう」
ギルドマスターをしてからハンターになることは少ない。
だから話を聞けば冷やかされる。
「そのハンターが後ろにいるキルシェで、殴りかかったのはパートナーのルルーシェだ」
「えっ!?いやっそれは」
「自分のパートナーを貶されて引き下がるようではハンターは務まらないな」
「僕が悪かったです」
「私に謝っても仕方ないが謝罪を受ける気はないのだろう?ルルーシェ」
ソファで膝を抱えたまま何も反応を返さない。
拗ねているのと本気で怒っているという意思表示で動かないのだろう。
ルルーシェとていきなり殴りかかることが駄目なことくらいは重々承知している。
それでも譲れないものはある。
「・・・ないそうだ」
「悪かった、ルルーシェ」
聞こえているが完全に無視をする。
そんな簡単に許せるほどルルーシェの怒りは軽くない。
キルシェも納得のいくまでルルーシェの好きにさせる。
ロディは人のやり取りに興味はもともとない。




