第四幕 夕顔
元々、流しのハンターだったガイは、キルシェが気になり留まるようになり、ルルーシェに出会った。
そんなハンターばかりだ。
キルシェがマスターでなくなるのなら留まる必要はない。
ガイも離れたいが、他のハンターたちの世話役も兼ねている。
どこまでも苦労性なのがガイという男だった。
「賑わっていたんだな」
「あぁ、村の便利屋みたいでな。普通ならギルドに依頼しないようなものもあった。それでも生計が成り立ってたからな。村も活気づいた」
「・・・この薬草の採取の依頼は何だ。破格だろう」
「あぁ、ルルーシェのための依頼だ。懐かしいな」
「懐かしい?」
「ルルが五歳のときにハンターの仲間入りをして最初は森で薬草採取だった。薬屋の婆さんが毎日依頼してたんだよ。成人するってなっても依頼して、ルルも律儀に毎日受けて、届けてたよ。明日からルルはいないって伝えてやんねぇとな」
「そんな昔から居たのか、合いの子は。あいつが言っていたのは本当だったんだな」
「ルルがギルドに捨てられてからずっと育ててきたからな。ルルのために家付きになったハンターも多い。村が滅びないようにせいぜい流しを呼んでくれ」
今頃、独り身のハンターは荷造りをしていることだろう。
ここで妻帯者となった者も別の村や町に移住を考えている。
依頼を貼り出す掲示板も寂しくなる。
一枚だけ色褪せた依頼があった。
ギルドマスターだったキルシェが出した依頼で、後任のギルドマスターになることだった。
二十年前から貼り出され、誰も受けなかった依頼だ。
後任のマスターが決まり、依頼をする意味は無くなった。
旅に出たキルシェの代わりに外しておく。
「二十年前、お前がマスターを辞めてギルドを出たころだ。流しのハンターがギルドに寄らなくなった。キルシェをマスターとして認めないという意思表示だった」
「ふん、舐められるようじゃマスターとして最悪だな」
「キルシェに押し付けたのは、お前だけどな」
「で、何があった」
「その代わりに村の依頼を積極的に受けるようにした。冬の間、家で過ごすしかなかったのが、依頼を受けることで少しずつ活気がついた」
雪かきや薪割り、年を取ると重労働になることを若手が引き受ける。
ハンターに必要な薬を作る。
少しずつギルドにハンターが寄りつくようになり、家付きハンターが生まれた。
だけど、それはキルシェが居たからのことだ。
キルシェがマスターをしていないのなら村に留まる必要はない。
「二年前の冬だったな。雪がいつもより早くてな。森の動物たちも満足な冬ごもりができない年だ。同じように魔獣も冬ごもりができなかった」
「村が襲われたのか?」
「あぁ、村に魔獣の群れが来たよ。それに気づいたのはルルだ。ルルは村人が襲われる寸前で助けて、応援が来るまで一人で魔獣と闘った。血の匂いに引き寄せられて魔獣は集まる。終わりの見えない闘いで村を守り続けた」
「なら、もっと英雄の扱いだろう」
「助けられた村人がルルを怖がった。魔獣を殺せるルルを。だから真相は冬ごもりができなかった魔獣の群れが同士討ちをしたことにした。あいにくと目撃した村人は一人だけだったし、恐怖でまともな精神状態ではなかったからな。嘘の理由は受け入れられたよ」
「だから魔獣は入れるべきではなかったんだ」
「・・・家付きハンターは村を守ったルルに感謝をしている。一人の死者を出すことなく魔獣を退治したんだ。ボックが魔獣嫌いなのは好きにすれば良い。だけど家付きハンターは皆、あの年のことを知っている」
ルルーシェが村を守ったから受け入れるという理由も納得していないボックは魔獣が人を襲う生き物だと再認識しただけだった。
ハンターたちがルルーシェに感謝をする意味が分かっていなかった。




