第五幕 若紫
「何が言いたいんだ」
「ルルーシェを合いの子だからと排除する言動は止めた方が良い。それだけだ」
「俺がいちいち村の連中の顔色を窺う必要がある」
「そう思うなら好きにしろ。忠告はしたからな」
「俺がギルドマスターだ。嫌なら他のギルドに行け」
「ふん、お前が連れてきた少年はどうするつもりだ」
「鍛えなおすだけだ。合いの子ごときに遅れを取りやがって」
とことん自分本位の考え方しかしない。
それでもギルドマスターができたのはハンターとしての実力はあったからだ。
あとは中継地のマスターになることを望むハンターがいなかっただけだ。
「もう会うことも無いだろうけど、元気でな」
「さっさと消えろ、ガイ」
ハンターたちの世話役をしてきただけあり、最後まで苦労性であり、誰かを切り捨てることをしない男なのがガイだった。
少しでも魔獣嫌いが緩和して村の人間と歩み寄れたらと思っていた。
キルシェとルルーシェを追い出したことはすぐに村中に知れ渡る。
そうなれば、ギルドに依頼していた内容は村人同士で片付けるようになってしまう。
流しのハンターだけを相手にする寂しいことにならなければ良いなと温情をかけるくらいにはボックのことを嫌っていない。
ガイという男はお人好しだった。
一番長く居たギルドを出てガイは町に続く街道へと向かった。
「ガイさん」
「待たせたな。行くぞ」
「はい」
ガイが流しのハンターをしていた頃、チームを組んでいた男たちがいた。
ガイが居るから集まり、キルシェが居るから家付きになり、ルルーシェが居るから留まっていたハンターたちだ。
キルシェとルルーシェが居ないならガイの居るところが自分たちの居るところという考えだ。
その日のうちに半分のハンターが居なくなった。
「・・・勝手なやつらばかりめ」
「ボックさん」
「明日から鍛え直してやる」
「はい」
力量が測れないほどボックは無能ではない。
あの闘いで連れてきた少年が勝てると思うほど楽天家ではない。
何か情を抱いて手加減されれば可能性はあったが、赤子の手を捻るより簡単な結果になるのは見えていた。
自分がギルドのマスターに返り咲くことも分かっていた。
二十年前に押し付けたことに僅かな罪悪感を覚える程度には人の情を持っていた。
気づくのに二十年かかるほどに自分本位ではあったが。
「・・・昼だな」
「はい」
二十年前にもあったギルドの隣の食堂兼宿だ。
そこで食事をするつもりで入った。
迎えたのは、歓迎の声ではなく、包丁だった。
「・・・・・・あぶねぇだろうが」
「よくもルルちゃんを追い出してくれたね」
「俺がどうしようと関係ねぇだろうが、ぐだぐだ言うな」
「そうかいそうかい、なら店を畳むことにするよ。宿も食堂もたった今からね。隣町の娘夫婦から一緒に店をやろうと声があったんだ。これで心置きなく行けるよ」
昼時なのに客の一人もいない。
エプロンを外すと、そのまま外に出てしまった。
「ボックさん」
「何だ」
「女将さんが作りおいてくれたみたいです」
テーブルにはサンドイッチが入った箱があった。
ルルーシェたちにしたことは許せないが、長年村でマスターをしていた男のことも知っている。
最後のやさしさだった。
「何故、あいつらは合いの子を受け入れた?」
「・・・救われたからだと思います」
「救われた?」
「はい、俺はボックさんに救われました。だからついて行きます」
「物好きだな。好きにしろ。ギルドにハンターは来ないが、ここを離れられないからな」
「はい」
どうせ受け入れられないなら、受け入れてもらう努力をしないのがボックだ。
死ぬまで理解することなく、終わっていく。
それまで少年はきっと傍にいるのだ。




