10 優菜視点
他の話では、ゆうな も ゆな も、両方平仮名なのですが、今回分かりずらかったので、両方、
優菜 柚那 表記にしました。
他の部分も後々修正していきたいと思います。
ある日夢を見たの。
知らない女の子が小型のゲーム機を持って、知らない部屋に座っているの。
ゲーム機の画面上には、裕に似た男の子がいた。
知らない女の子なはずなのに、全然可愛くない女の子なのに、なんでか、優菜はその子を自分だと思った。
そして、女の子はゲームを操作して、裕?の下に表示される文章が流れていく。
ゲームの中では、 朝田響、谷山裕、川田晃平、紺野翠、大野翔と見覚えのある名前と人物が次々と登場した。
画面の下にあるテキストの中には、主人公のしゃべるシーンでは 成瀬優菜という名前が表示されていた。
しばらくしてから、気付いた。
これは、前世の私の夢だってことに。
そして、なんとなく分かった。
私は、この世界に転生したんだって。
ゲームの中の 成瀬優菜は、守ってくれるひとがいて、愛されていて、とても幸せそうだった。
今の優菜にはないものをゲームの優菜は持っていた。
その時、私も幸せになりたいと、強く思った。
たくさんのひとに愛されたい。
だから、私は逆ハーレムを作ろうと決めた。
ゲームの中では、柚那も登場していた。
柚那は、優菜のライバルキャラのようで、ゲームの中では物凄く邪魔な存在だった。
現実世界の柚那は好きだ。
大好きといってもいい。
だって、柚那は、ひとりぼっちだった優菜にいっぱい色んなものをくれた。
天文学部のみんなだって、柚那のお陰で出会えた。
学校生活が楽しいのも柚那のお陰。
でも、幸せになるのに、柚那が邪魔。
だから、私は、柚那に一番にこの転生のことを話すことにした。
邪魔されないように。
この世界のことを思い出した次の日からなんだからみんなが優しくなった気がした。
でも結局柚那が一番で、柚那はみんなから愛されている。
友達だって、私以外にもいっぱいいる。
優菜は柚那以外いらないのに、柚那は優菜じゃなくても良い。
優菜がヒロインなのに…。
柚那ばかりずるい。
みんなに大切にされて、ずるい。
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい。
柚那なんて、いらない。
柚那が、お昼の時間にこの世界のことについて聞いてきた。
中込先輩とのことに口を出された。
そんなの私と中込先輩の問題でしょ?
それに、おずおずと身をひいた中込先輩の元カノだって悪いじゃない。
優菜は悪くないよ。
だって、優菜はヒロインだから。
柚那とは違うんだよ。
それから、柚那を避けるように天文学部には行かなくなった。
天文学部のみんなを誘い、柚那だけをはじき出そうと思ったけどそれは出来なかった。
裕と翔以外はやっぱり柚那が大事らしい。
優菜がヒロインなのに。
教室では裕がいてくれるから寂しくない。
でも、柚那と話せないのは寂しかった。
柚那なんて邪魔なのに。
柚那がいないと寂しかった。
柚那といつも時間を合わせていたバスをずらすため、早めに登校していた日、知らない先生に声をかけられた。
「すいません、事務室ってどっちかな?」
見たことのある先生だった。
いや、初対面だ。
でも、夢でみたゲームの世界の人物だった。
彼もゲームの攻略対象だった。
丹野昌樹、それが彼の名前だ。
彼を事務室まで案内すると、非常勤講師として、この学校に来たことが分かった。
担当は英語だそうだ。
彼はルックスもよく、優しい先生だったので、すぐに生徒の人気者になった。
といっても非常勤の上に優菜達の学年の授業を持っていないから、優菜の学年での知名度は低いけど。
でも、優菜は、先生を見かける度に話し掛けて、段々と仲良くなった。
柚那と話さなくなった寂しさを先生と話すことで埋められているような気がした。
柚那を避けるようになってから一度柚那と話した。
久しぶりに話し掛けられて少し嬉しかったけど、柚那を見た時に裕や、翔、中込先輩が動揺していて、やっぱり柚那は邪魔者だと思った。
寂しさ紛れに柚那の悪い話をみんなにしといて良かったー。
柚那との話で、
「晃平と翠と響は優菜のことが嫌い」
だと優菜が言うと、
柚那は、
「そんなわけないよ!」
と、強く否定した。
柚那は何も知らない。
何も分かってないからそんなことが言えるんだよ。
腹が立った。
みんなに愛されてるから、柚那はそんなこと言い切れちゃうんだよ!
「私、柚那のそういうところ大嫌い」
思いっきりそう言い柚那の前から逃げだした。
それから、たまたま通りかかった先生にその話をした。
先生は優しく慰めてくれて、
「大丈夫」
と一言だけ言ってくれた。
それが、凄く安心した。
その出来事から数日経った日、また前世の夢を見た。
でも、今度は幸せそうな 成瀬優菜が移っている画面ではなく、 山川柚那が車に轢かれて、血を流して倒れているシーンだった。
それから画面は暗転して、次のシーンへ。
病院で寝ている柚那の手を綺麗な男の子が握っている。
その男の子は泣いていて、ひたすらに柚那に謝っていた。
夢から覚めると、背中に汗をびっしょりかいていて、その上、手足は震えていた。
柚那が死んじゃう?
やだ!やだよ!そんなの!
だって、柚那は優菜が嫌なことをしても怒るけど、「嫌な子」だって言って離れて行かなかった。
どうしたら柚那を守れる?
分からない。
でも、柚那の事故現場には見覚えがあった。
車に気をつけてって、柚那に言えばいい?
でも、柚那に話しかける権利、私にはない。
それに、柚那が優菜の話を聞いてくれるのかも分からない。
それから、毎日、夢で見た、道路に行った。
遅刻してたって関係ない。
でも、どうしたらいいのか分からなかった。
裕や、翔、中込先輩に相談しようと、思った。
せめて、事故には気をつけてって柚那に伝えてって。
でも、「事故には気をつけて」なんて言って、優菜が何かしたと思われるのは怖かった。
そもそも、柚那が事故にあうなんて知り得ない事実を優菜が知っているのはおかしなことなのだから。
学校で、柚那と、翔、裕、中込先輩が話しているところを見かけた。
やっぱり、結局みんな柚那が大切なんだよ。
丹野先生に会いたくなった。
丹野先生は柚那を知らない。
だから、優菜だけを見てくれる。
廊下を歩いていた先生を呼び止めた。
廊下に人影はなかったから今がチャンスだと思った。
「先生、もしとても大切な人がいて、その人が危ない目をあうのが分かっている時って先生ならどうする?」
廊下で突然そんなことを言った私に驚いた様子の丹野先生。
でも、それからいつものように笑って、
「もちろん。守りたいって思うかな」
と言った。
「守りたい…。うん!優菜も守りたい。でも、どうすればいいか、分からない…」
先生も、うーん、と言って悩んでから、
「いつでも守れるようにいつも近くにいてみたら?」
「近くになんて居られないよ。だって、喧嘩しちゃったから」
「じゃあ仲直りしなきゃ。だって、守りたいって思う相手なんでしょ?大切なんでしょ?」
そう言われて、気付いた。
そう、柚那は優菜にとって、大切な、大好きな人だ。
「でも、話し聞いてもらえるかな?優菜、その子にひどいことしちゃったの」
もう嫌われちゃったかも。
「そっか。聞いてもらえないかもしれないけど、ひどいことしたなら、成瀬が悪いんだから、ちゃんと受け入れなさい。ちゃんと向き合って、それで挫けそうになったら、先生のところに来なさい」
そう言って先生は、優しく優菜の頭を撫でた。
少し恥ずかしかったけど、嬉しかった。
先生がいれば頑張れる気がした。
その日は帰って、次の日から柚那に話し掛けられるように頑張ろう、と思った。
次の日、やっぱりダメで、裕も翔も中込先輩も、柚那と話していることが多くなって、もう既に挫けそうになっていたから、先生に会いたくて、先生を探していた。
職員室付近のラウンジに丹野先生と数人の女子生徒がいて、勉強を教えてもらっていた。
「丹野先生、大好き!」
誰かが言って、賛同するようにみんな言い出す。
照れたような先生の笑い声が聞こえて、
「みんな、先生の大事な生徒だ!」
と言う声が聞こえた。
少しだけ、心臓がズキッとした。
その後、一人になった先生を捕まえて、話を聞いてもらおうとしたら、いつものより少しだけ距離を開けられて、
「ごめん、今忙しいから」
と、通り過ぎて行ってしまった。
その日のトイレで、優菜と丹野先生が付き合っているっていう噂を聞いて初めて先生が優菜を避けた理由が分かった。
それを聞いた後も、先生に話しかけたけど、やんわりと断られた。
柚那とも話せてない。
一人、机に突っ伏す。
机は冷たくて、そのまま目を閉じると、周りの声が遠く聞こえる。
あーあー。
みんな居なくなっちゃった。
優菜は、ひとりぼっち。
柚那に話せてないし。
優菜はひとりじゃなにもできない。
柚那を救えない。
もう、嫌だ。
もうどうだっていい。
泣きたくなった。
けど、学校に優菜の泣く場所なんてなくて、家に帰ってからずっと泣いていた。
両親は共働きで、帰って来ない日もある。
だから、家でもひとりぼっちだった。
次の日は目が腫れてしまっていて、優菜の顔は全然可愛くなかった。
学校に行く気にもなれなくて、そのまま寝た。
裕や、翔や、中込先輩から着信があったけど、もうどうでもよくて、無視した。
それから何日か、ケータイも放置して家に引きこもった。
気付いたら、夏休みに入っていたことに、ママに言われて気付いた。
でも、なんだっていい。
なんだったら、このまま死んでもいいと思った。
柚那のことが心配じゃなかった訳じゃない。
でも、柚那には守ってくれる人が沢山いるじゃん。
だから、柚那は大丈夫だよ。
そう思うことで逃げ出した。
でも、逃げたって意味が無いことに気づく。
「優菜!優菜!柚那ちゃんが交通事故にあったんだって!今すぐ病院行きなさい!」
ママが大きな音を立てて、階段を登ってきた。
頭がひどくいたくなって、痺れたように動けなくなる。
あー来てしまったんだ。
分かってたのに何もしなかった。
出来なかったなんて言い訳。
もし、柚那が死んでしまったら、優菜も死のう。
そううまく回らない頭で決めてから、頭痛に飲まれて意識を手放した。
ごめんね、柚那。
大好きだったよ。




