第10話 青春は忘れ物だ!
「キョン、ネクタイどうしたんだ?」
「はぁ……部室に来ても聞かれるなんて……」
今朝は目覚まし時計が故障したせいで大慌て。 ご飯も碌に食べずに学校へ。 道中、幾つかの忘れ物に気がついたが引き返すと遅刻確定なので諦めた。
「で、その中の一つがネクタイなのね」
「えぇ。 そのせいで先生には散々怒られて、もう大変でしたよ」
「私のリボンで良かったら貸してあげたんだけど……」
「いや、待て亜理紗。 そんなことしたらコイツのプライドが完全に崩れ落ちるぞ」
「でも珍しいわね。 キョンって結構真面目な感じだと思ってた」
「そうですか? よく人から言われますよ。 でも、実際はこんなんですし……」
頭をぼりぼりと掻く。 今日は本当に調子が悪いなぁ……
「そう言えば環も今日、忘れ物したでしょ」
「な、何のことかな」
視線を宙に泳がせ、口笛を吹いて誤魔化そうとするが上手く吹けていない。
「部長もですか?」
「おっ、お前には関係無いだろ!」
「実はね……」
「わーっ! 言うな! 言うなぁっ!」
「今日、体操着のズボン忘れちゃってんのよ。 もうおかしくておかしくて」
「そっ、それでどうしたんですか?」
「制服のスカートで出ようとしたのよ。 勿論、欠席扱いされたけどね」
「じ、人生の汚点……」
膝と手をつき、がっくりと項垂れる部長。 本当に悔しがっている。
「因みに私は忘れ物なんてしたことないわよ!」
「おお、それは凄いですね」
「ふふん。 夜寝る前と朝起きた時と学校に行く前とそれぞれ三回は確認してるもの」
「すっげーめんどくせーな」
「あら、誰かさんとは大違いよ」
「むきー!」
「遅れましたー」
戸が開き、遥ちゃんが入って来る。
「あれ? 今日は遅かったみたいだけど……」
「はい。 図書委員会の集まりがあったのを思い出して……簡単な話だけ聞いてすぐに戻ってきたんです」
「大丈夫なの?」
「えぇ、今度の水曜日に全委員会での顔合わせがあるんですよ」
「へぇ、そうなんだ」
「キョン君は委員会には参加しないんですか?」
「あはは、僕はそんな柄じゃないし」
「ま、参加するしないは人それぞれだがな。 けどよ、テストで良い点狙えないって解ったらそっち方面で固めた方がいいぞ?」
「か、考えておきます」
冷や汗。 部長は本当に痛いところを突いてくる……
「ところでさっき皆でどんなお話をしていたんですか?」
「忘れ物したことがあるかどうかって話」
「忘れ物ですか……うーん、あったかなぁ……」
腕を組んで瞼を閉じる遥ちゃん。 考えること数秒――
「ここ最近では無いんですけど、中学生の時は教科書忘れとかしょっちゅうありましたねぇ」
「意外ねぇ」
「遥はああ見えて結構、おっちょこちょいなんだよ」
「例えば?」
「砂糖と塩を間違えるぐらいおっちょこちょい」
「お姉ちゃん。 そんなこと言っちゃうと紅茶にレモンじゃなくて、梅干入れちゃいますからね」
「冗談だよ、冗談」
「もう!」
遥ちゃんが台所へ消えたと同時に部長が話を切り出してきた。
「キョン」
「なんですか?」
「部員証。 生徒手帳に挟んでおけよ、失くすなよ?」
保険証と同じ大きさのそれには僕が青春部の部員であることを証明する文言と胸部から上の正面を撮った写真が貼られていた。
「あら、それは忘れなかったのね。 偉いじゃない、環」
「うっせーなー。 私は部長だぞ? 過ちを二度も三度も起こしてたまるかってんだ」
「とりあえず、ありがとうございます部長」
「おう。 大事にしろよ。 絶対だぞ! 約束な! ほら、指出せ!」
「ちょっと落ち着きなさいよ、環……」
入部して半月、本当の意味で僕は青春部の部員となったのだ。




