3.剣星と僕
この世界には様々な分野において特筆した能力を持っているとき、’’星’’と呼ばれる称号が個人に付けられることがある。
’’星’’を持っている人たちは、その分野において知識・技能・その他において一線を画した力をもち、ときには一個隊分の力を一個人が持つ人間も存在する。
ヴィロンレッタ王国その王都。そこには、この国の守りの要であり人々の希望’’剣星’’がいる。憧れと尊敬の目を向けられ続け、部下からの信頼も厚い。
というのが、剣星シアーゼに対する世間の評価だ。しかし.......
「ここに来るのも去年の学会以来か」
私は、ある人に会いに王都ヴィロンに来ていた。
レンブロンも栄えてはいるが、王都はさらに栄えている。人の数も建物も街の広さも何から何までもがこの街の強さと威厳を示しているようだ。
この街の建物はレンガ造りが多い。
「さて、あいつはいるだろうか」
広い街を、北にある巨大な王宮を目印に歩いていくと王宮の側にヴィロンレッタ王国騎士団本部がある。円形で真ん中を囲むような形をしていて、石造りで高く作られている。それまた立派な石造りの門を抜けると、円形の中心には演習場が広がり騎士たちが厳しい鍛練をしていた。
あまりの厳しさに、すごいなぁと感心しながら右手にある階段から二階に行こうとしたとき後ろから誰かに話しかけられた。
「どなたですか?騎士団の人間ではないようだが何用で?」
副騎士団長ダニエル。屈強な肉体と勇猛な戦い方で副騎士団長まで上り詰めた男。シアーゼがいなければ確実に彼が騎士団長になっていたと言われている。
「はじめまして、あのーシアーゼに用があって来たんですけど今います?」
私がそう言うと彼は急に不機嫌そうな顔になった。
「シアーゼ団長はお忙しい方だ。事前に話を通していただかないとお会いにはなれない。それに、シアーゼ団長は一介の市民ごときが呼び捨てにしていい御方ではない!!態度を改めろ」
なんか、めちゃくちゃ怒らせちゃったんだけど。
「申し訳ありません。シアーゼ様とは昔からの知り合いなので....」
私がそう言うと、彼はさらに顔をしかめた。
「お前のような戦いもできなさそうな奴とシアーゼ様が知り合いなわけないだろう!!これ以上嘘を重ねれば捕まえるぞ?」
そんなに言わなくてもいいだろうに。でもまぁ、戦えなさそうなのは認めざるをえないけど。
しょうがない、怒らせちゃったみたいだし日を改めてくるとしよう。
そう思って立ち去ろうとしたとき。
「リューーー!!!!」
甲高い女性の声と、頭に響くほどの大声。嫌と言いうほど聞いてきた彼女の声だ。
長く美しい金髪の髪と、長身でとてつもなく整えられたスタイル。そして、もはや神が遣わしたとも思ってしまうほどの美貌。
学生時代は何人の男が彼女と恋仲になりたくて撃沈したことか。
「シアーゼ。久しぶりだね」
私がそう言うと、シアーゼは私に抱き着いてきた。
「シアー..ゼ..様?」
その光景を見たダニエルは動揺しているようだった。
「まったく。一年半も連絡をくれずに何をしてたんだ?まぁどうせ研究に没頭していたんだろうけど」
「手紙の一つも出さなかったのは申し訳ないと思ってる。それよりシアーゼ、活躍は聞いてるよ。また魔族の補給拠点を壊滅させたんだって?」
彼女は先日、魔族の部隊を壊滅に追い込んだことで、さらに新しい勲章が貰えることになったらしい。
「私のことはどうでもいいんだ。ずっと心配してたんだからね」
私たちのやり取りを見て呆気に取られていたダニエルが正気を取り戻した。
「シアーゼ様は、この男とお知り合いなのですか?」
ダニエルは少し怪訝そうに尋ねてきた。
「あぁ!こいつとは学生の頃からの知り合いなんだ。後にも先にも、一番の親友といえるのはリューズだけだ」
そんなこと、今まで彼女の口から聞いたことなかったから少しだけ泣きそうになってしまった。
「それで、今日はなんで騎士団に?...まさか!!やっと騎士団に入団する気になった?!!」
すぐこれだ。なぜか彼女は会うたびに私を騎士団に入れようとする。
「いつも言ってるでしょ?違うよ。ちょっと相談があって君に会いに来たんだ」
「相談?まぁとりあえず色々聞きたいこともあるし私の部屋に来てくれ。ゆっくり話そう」
そうして流されるまま騎士団長室に連行された
****
騎士団長室には、私とシアーゼ、ダニエルと彼の側近の騎士が二人いた。
「なんで、ダニエル、君がいるんだ?」
「それはこちらのセリフですよ。なぜ、この男を騎士団長室に入れたのですか?いくらあなた様の知り合いだとしても、この男は所詮市民です。あなたのような方がこのような軽率な行動をして、それを目撃されれば変な噂を立てられることもあるかもしれませんぞ」
その通りだ。もし、彼女と僕が一緒にいて変な噂でも立てられれば彼女は市民からの信頼を失ってしまうかもしれない。
「ダニエルっっっ!私たちが守るべき市民を蔑むような言い方はやめろ!!...それに、私は別にリューとなら...]
最後になるにつれ声が小さくなって聞き取れなかったが。
「別に私は構いませんよ。聞かれて困るような話をするわけではないですし」
「まぁ、リューがいいなら私は何も言わないが。それじゃあ、話を聞こうか」
シアーゼが話を聞くときの真面目モードになったので私は話を始めた。
「実は、冒険者になって旅をしようかと思ってるんだ」
私がそう言うと、彼女は急に目を輝かせた。
「本当?!本当に旅に出ようと思ってるの?」
珍しく早口になっている。
「どうしたんだい?そんなに興奮して」
「あぁぁごめん。少し嬉しくて。とりあえず話を続けて」
彼女がそう言うので、私は今の悩みを話し続けた。研究が行き詰っていること。このまま研究を続けても魔法学の進歩は望めないこと。旅はしてみたいが、命の心配が常に付きまとっていること。
一通り話し終わったあと、自分の話をしすぎたと思い彼女を見ると、さっきよりもさらに目を輝かせていた。
「どうしたんだい?さっきから僕を見る目が怖いよ」
「あぁごめんね。でも、嬉しいんだ。ようやく君が日の目を浴びるときが来たかと思うと」
「ちゃんと話聞いてた?」
どうも昔から、彼女とは話が嚙み合わないときがある。それに何故か彼女は僕のことを過剰評価している節がある。
「もちろん聞いてた。聞いてたからこそ嬉しいんじゃないか!!君がようやく世間から正当な評価を受ける時代がやってくる」
「正当な評価も何も、全部君の過剰評価だよ。なんだか君は昔から僕を持ち上げすぎじゃないか?」
「そんなことはないさ。君のその性格はいい意味で言えば謙虚と言えるが、悪い意味で言えば君は君自身を知らなすぎる。君は自分が戦えないと昔から思っているようだが、私がお世辞を言う人間じゃないことはわかっているだろ?」
そう。彼女は絶対に嘘はついてこなかった。いつも、思ったことを口に出すから何かと問題を持ち込んできていた。だから昔、調子に乗って魔物を倒しに出かけたこともあったが、あっけなく怪我して彼女に助けてもらった。
「君も知ってるでしょ?昔君の言葉通り魔物討伐に出掛けたけど全然だめだったの」
僕がそう言っても、彼女はなぜか諦める素振りもみせない。
「はぁぁ分かったよ。まぁ8年説得して無理だったんだ。そんな簡単にはいかないよね。......分かった!そんなに自分が信じられないなら私と模擬戦をしよう!!これで君が私に勝てれば心配なく旅に出れるだろう?」
「はっ?」
突飛由もないことを言うのはいつものことだが、これに関しては一つ言わせてもらいたい。
「いやです!!!!!!」




