1魔法なき世界
``魔法‘‘
思うように火を操り、水を操り、雷を操り風を操る、空を飛ぶことができ極めれば天変地異すらも起こしてしまう。
それが魔法であり、誰しももし魔法を使えればなどと思う。
しかし、この世界では残酷なことに人間は魔法を使えない。魔族が使う基礎魔法のファイアーボールでさえ、私たち人間には扱うことできない。
魔法は魔族の専売特許であり、我々人間は空が飛べないように、ただ魔族が使う魔法を羨ましく眺めることしかできない。
魔族と人間は長い歴史の中で常に戦いを続けている。魔法が使えない人間が魔族となぜ張り合えているのか、それは人間には‘’加護’’が与えられているからである。加護は、神が全ての人間に与えたもので身体能力の向上や体の頑丈さなどを高めるなど様々な効果がある。
対して、魔族には加護は与えられていない。
つまり、魔法が使える魔族vs加護を持つ人間。これによって長い間戦いの均衡が保たれてきた。
しかし、いつの世でも「ロマン」や「まだ見ぬもの」を追い求める人間は必ず生まれる。科学の分野、芸術の分野、モノづくりの分野.........そして、それは魔法の分野においても例外ではない。
’’この物語は、魔法が使えない人間がロマンを求めファイアーボールを撃つまでの旅路録である’’
’’リリッカ大陸 レンブレンの街’’
今世界には4つの大陸が存在し、その一つ南に位置するリリッカ大陸。ヴィロンレッタ王国内にある街レンブレン。ヴィロンレッタ王国の中では王都に次いで二番目に大きい街である。
その街にあるレンブロン学院は、この国でも有数の名門校であり優秀な人材が集まり様々な分野の研究や教育が盛んに行われている。
「エアーナブ先生!!そろそろ授業の時間ですから研究は切り上げて下さいね」
始業の鐘がなった。いつの間にか夜を超えて朝になってしまったようだ。いつも、一度論文や研究を始めるとどうにも辞め時が分からなくなってしまう。
徹夜明けで本当は講義をするより寝ていたい所存だが、この国の優秀な生徒たちのためにも、そして給料をしっかりもらうためにも、重い腰を上げて講堂に向かう。
生徒が50人ほど集まっている講堂に入り、いつも通り挨拶をし講義を始める。
「えーー今日は、基本に立ち直って魔法というものに対しての基礎学を復習したいと思います。再来週にはテストもあるのでいい機会でしょう。....では初めに、みなさんは魔法というものがなにか分かりますか?」
私が問いかえると、一人の男子生徒が挙手したので、俺は彼に当てた。
「魔法は、魔族のみが扱うことができ様々な事象を起こすことができます。一方で私たち人間やエルフなどの亜人族には扱うことはできません」
「そうですね。まぁ80点くらいの回答です。正確に言えば人間や亜人が扱えないかどうかはまだ決まったわけではありません」
俺が答えると、さっきとは別の生徒が私に質問をしてきた。優秀な生徒が集まっているだけあって、講義に積極的なのはとても嬉しい。
「魔族と人間・亜人族が戦いを始めて千年ほど経ったと言われていますが、いまだに私たちには魔法を扱う方法が分かっていません。正直、私たちには加護もあるし、魔法が使えるようになるなんて想像もつきません。それでも先生のような魔法学者が魔法を追い求めるのはなぜなのですか?」
素晴らしい質問をしてくれた。この生徒に最大限の評定をあげたいくらいだが、今はこの生徒の質問に答えるとしよう。
「まずは素晴らしい質問をありがとう。そうだね.....まず私たちの研究が魔族との戦いの対策になっているのが大きいかな。私たちの研究が人類の平和に繋がっていることを考えると大きな意味をもつ」
これは紛れもない本心だ。私たちの研究がなければ人類は魔族の使う魔法によってより多くの犠牲を払うことになっていただろう。しかし.....
「ただ......私たちが研究をする一番の理由は、やはりロマンの追求かな。空を飛びたい、火を水を風を操ってみたい、そんな子供のころに抱いた夢にいまだ取りつかれているだけだよ.....。たしかに、今の人類からすれば、魔法を使うことは人間に空を飛んでみろと言っているのと同義だろう。でも、飛んでみたいのだから仕方ないんだ」
少しだけ、心の中の本音を本気で漏らしてしまった。でも、多くの人類は魔法を使うことを諦めている。それどころか、魔法は人殺しの手段でしかないと考える人がたくさんいる。この時代、この世界においてその考えはごく一般的で仕方のないことだが、私はそんな中でも人間は空を飛べるのだと証明してみたい。もし私たちが魔法を使えれば、魔法は人を傷つけるものではなく生活を豊かに変えてくれるものだと知ってほしい。
その後はいつも通り、魔法学の基礎を復習し講義は終わった。
講義が終わって教務室に行くと、同じ魔法学科のヤング先生が近づいてきた。
「今日の講義も後ろの方から見学させていただきました。若いながらに分かりやすい説明と授業の構成。さすが、魔法学界で稀代の天才といわれているだけありますね」
「大げさすぎですよ。私はただ私が好きなことを生徒たちに教えているだけです。もし一人でも魔法学に関心を持ってくれればいいなと思って......」
私がそう言いかけると今度は剣術学のワートナー先生が話に割って入ってきた。
「相変わらず絵空事を語って給料貰ってるんですか?楽でいい仕事だ。そんな出来も叶いもしない話をして生徒たちの貴重な時間を奪わないでいただきたい。彼らには、強くなって国を守る盾となる役割があるのですから」
と、肥満気味の身体と顔で嫌味を言ってくる。
基本的に魔法学科と剣術学科は仲が悪い。この学校に魔法学の先攻の学科はなく、私たちは剣術学科の生徒のカリキュラムの一つとして魔法学を教えている。そして、この剣術学科の学科長はこのワーグナー。とある貴族のボンボンらしく、大した実力もないが、その家柄だけでその地位に居座っている。
「いいですか?あなたがたは剣術学科のおまけなんです。余計なことで私たちの生徒を誑かすのはやめてもらいたい」
「十分承知しています。それでは私たちは次があるので失礼いたします」
最後にワーグナーの嫌味な顔に会釈をして、ヤング先生と教務室をでた。
「やっぱりエアーナブ先生は凄いですね。あのワーグナー先生と堂々と話せるんですから。自分なんて逆らったらどうなるのかとばかり考えてしまいました」
「しょうがないことですよ。現実問題、魔法学はいまだに絵空事の学問だと言われ地位が低いのも事実です。剣術学科での授業が無ければ、この学校で研究すらできません」
悲しいけれどこれが現実。魔法学はなかなか世間から認められずらい学問である。
いくら魔族との戦いの対策になっているとはいえ、剣術学のように表立って魔族討伐に大きな貢献をしているわけではない。そのため、世間の人からすれば魔法学は絵空事を馬鹿がいつまでも追い求めてる学問に見えてしまうのだ。
「エアーナブ先生は、なんでこの学校に残っているんですか?ワーグナ先生が学科長になってから他の魔法学の先生は辞めてしまったし、先生ほどの’’実力’’と知識があるなら他の学校や研究機関でも十分やれるでしょうに。だって先生、剣術の腕も国内随一なんですよね?ワーグナーなんて屁でもないくらい。たしかこの国の騎士団長のシアーゼ様とも....」
「買いかぶりすぎですよ。私にそこまでの能力はありません。それにこの学校に残ってるのはこの学校は研究材料も論文も豊富だからで.....」
私が次を言いかけた時、ヤング先生が話を続けてきた。
「それか、先生なら自分の足で調べるという方法もあると思いますけど....。今は、冒険者と呼ばれる職業も出てきて、研究者の人も依頼したり実際に自分で冒険して知見を広めている人もいますよ」
ヤング先生は一選択肢として私に教えてくれたのだと思う。
しかし私は、ヤング先生が軽く言ったその言葉になぜか心がざわついてしまった。




