第17話:案山子が嗤う夜
#名頃の村 #無月江戸 #伽椰子 #覚醒 #執着 #ダークロマンス
祖谷の谷が、連合軍先鋒隊の軍靴の響きに震えていた。草薙クランの戦闘僧数百名と、天照クランの光の騎士たちが、赤々と燃える松明を掲げてなだれ込む。彼らは怪物との死闘を覚悟していたが、そこで目にしたのは、死に絶えた村の不気味な静寂だけだった。
「呪われた村め……あんなボロ布の案山子など、すべて叩き壊せ!」
黄金の鎧に身を包んだ屈強な男、連合軍の指揮官が叫んだ。
突如、前触れもなく夜の風が止まった。
――ギギッ……ギギギ……。
四方八方から、木と布が擦れる音が重なり合って響く。公園のベンチやバス停、民家の縁側に静かに座っていた案山子たちが、一斉に首を百八十度回転させ、連合軍の方を向いた。
ボタンの瞳が、今はどす黒い赤色に輝いている。それは江戸の怒りが直接流れ込んだ「集団の呪い」だった。
「なっ……動いているのか?!」
戦いの火蓋が切って落とされた。案山子たちが闇の中から、常識を超えた速度で跳びかかる。布と藁の身体は、斬られても死ぬことはない。切り裂かれた布の端は、逆に鋭い糸へと変貌し、兵士たちの首を締め上げていく。
「助けてくれ! 腕が……何かが地面の中に引きずり込もうとしている!」
茂みの闇へと数十体の子供の案山子に引きずられていく神官の悲鳴が夜空に響いた。
混沌とした惨劇の最中、道の突き当たりにある屋敷の門が開いた。無月江戸が静かに歩み出る。その手には伽椰子の手が握られていた。二人の装束は影と一体化し、圧倒的な支配者のオーラを放っている。
「僕の家で、騒ぎすぎだ」
江戸の声は低かったが、村中に響き渡る剣の激突音を瞬時にねじ伏せた。
江戸は儀式の赤い糸が巻かれた右手を掲げる。
「伽椰子、彼らに美しい死を見せてやれ」
伽椰子は江戸に向かって妖艶に微笑むと、姿を消し、敵軍のど真ん中に再来した。優雅な舞のような動きで、伽椰子が手を振るう。指先が描く軌跡は空間を切り裂き、鉄の鎧を紙切れのように無残に引き裂いていく。
これこそが「人魔合一」の力。
江戸が動く必要はない。彼はただ重心の如く立ち、伽椰子が見えない刃となって舞う。二人のエネルギーは魂で繋がっており、伽椰子が敵を屠るたびに奪った生命力は、江戸の身体へと還元され、その無月の血をさらに研ぎ澄ませていく。
「あり得ん……二人じゃない……奴らは二人で戦っているのではない!」指揮官が恐怖に顔を歪ませた。「奴らは……一つの生命体だ!」
江戸は震える指揮官へと歩み寄る。江戸の背後には、まだ鼓動を続ける敵の心臓を数千の手で掴んだ、巨大な伽椰子の幻影が浮かび上がっていた。
「僕たちの愛は、君たちには浄化できない呪いだ」
江戸は指揮官の目の前で静かに囁いた。
「そして今夜、名頃はお前たちのクランの集団墓地となる」
江戸が指を鳴らした瞬間、村全体が「虚無の紫炎」に包まれた。連合軍の先鋒隊は一瞬にして消滅し、冬の夜気には灰と焦げた臭いだけが残された。




