第15話:赤道の地の下に流れた血と、虚無の部屋での誓い
#名頃の村 #無月江戸 #伽椰子 #覚醒 #執着 #ダークロマンス
その夜、名頃には激しい雨が降り注いでいた。その雨音は、十年前のジャカルタで嗅いだ湿った土の匂いを江戸に思い出させた。彼は伽椰子の膝の上に座り、愛する者の冷たい胸に頭を預けていた。伽椰子は背後から彼を抱きしめ、長い指で江戸の髪を梳く。それは、感情的に「死んだ」者同士にしか分かち合えない静寂の時間だった。
「覚えているよ、伽椰子……」江戸が囁く。「あのリビングの床に流れた、父さんの血の鉄の匂いを」
【回想:十年前、ジャカルタ】
ジャカルタ郊外にある無月家の豪邸は、本来安息の地であるはずが、死の罠へと変貌していた。幼い江戸はチーク材のクローゼットに身を潜め、父・無月一成が五人の烏天狗の仮面を被った男たちに包囲されるのを見ていた。草薙クランと無月家の長老たちが放った刺客だ。
「一成よ、お前は我らの一族の不老不死の儀式について知りすぎた」
仮面の一人が放ったその声は、江戸にとっても聞き覚えのあるものだった。――実の叔父の声だ。
「怪物として永遠に生きるために、己の血族を裏切るのか!」
一成は妻である黒鉄華を抱き寄せながら叫んだ。
容赦なく、聖なる剣が江戸の両親の身体を貫いた。華は残された力で、刺客たちの霊的探知から逃れるよう幼い江戸の存在を封印した。江戸は、母が事切れる直前に見せた最後の微笑みを目に焼き付けた。
刺客たちは屋敷を焼き払い、無月の一族が根絶やしになったと確信して去っていった。しかし、江戸は瓦礫の中から立ち上がった。かつて輝いていたその瞳は、深い漆黒の虚無へと変貌していた。そこで、無月の虚無と黒鉄の鋭さが、復讐という名の種となって一つに混ざり合ったのだ。
【現在:名頃】
江戸は拳を血が滲むほど固く握りしめた。伽椰子はすぐにその手を取り、献身的に江戸の血を舐めとった。彼女の瞳は今、深い共感で潤んでいる。
「江戸くん……その記憶に、もう一人で苦しまないで」伽椰子が囁く。彼女は江戸の過去の痛みをすべて吸い出すかのように、優しく唇を重ねた。「私がここにいるわ。私はあなたの剣となり、盾となる。あの街へ戻りましょう。そして、あなたのご両親の死を嘲笑ったすべてのクランを、一人残らず蹂躙してやるわ」
江戸は独占欲を剥き出しにしてその接吻に応じ、伽椰子の首筋に顔を埋めた。「僕にはもうお前しかいないんだ、伽椰子。そして、お前を所有していいのは僕だけだ」
二人の力が共鳴した。屋敷から紫と黒のオーラが爆発し、すべての窓ガラスを粉砕する。名頃の数千の案山子たちが、一斉に彼らの屋敷に向かって跪いた。二人の絆はもはや単なる愛ではなく、不可分な単一の存在へと変えた「魂の契約」だった。
その頃、京都の荘厳な神殿では、天照と草薙の両クランによる連合軍が集結していた。白銀の鎧を纏った数百の戦士と、聖なる武器を手にした神官たちが加持祈祷の儀式を行っている。
「明日の夜明け、祖谷の谷へ進軍する」天照クランの当主である、雷のごとき瞳を持つ老人が告げた。「名頃の村を、あの無月の悪魔もろとも焼き尽くしてくれるわ!」
しかし彼らはまだ知らなかった。自分たちが相手にするのが、もはや一人の少年ではなく、「過去の罪」と「最凶の呪い」が融合した、この世で最も恐ろしい存在であることを。




