プロローグ
#ホラー恋愛 #最強主人公 #怨霊の恋人 #案山子の村 #無月江戸 #純愛 #復讐譚 #二重血統
祖谷の谷、名頃の村。そこでは、綿と古びた布の姿で時間が止まっている。死者たちは案山子として「蘇り」、バス停に座り、田畑を耕し、あるいは静寂に包まれた小道をただ虚ろに見つめている。
無月江戸(十五歳)。彼は薄い霧に包まれた古い木造屋敷の前に立っていた。その手には、血塗られた惨劇によって崩壊したインドネシアでの生活の残り香――小さなスーツケースが一つだけ握られている。
常人にとって、この屋敷は地獄そのものだ。屋根裏からは、喉を鳴らす奇妙な音――「カカカ……」という不気味な声が絶えず響く。顔を覆う長い髪、青白い女の影が時折、視界の端を這いずる。だが、江戸にとって「恐怖」とは、持ち合わせぬ贅沢に過ぎなかった。
「ただの古い家だ」
彼は淡々と呟いた。階段からあり得ない角度で這い下りてくる女の姿を目の当たりにしても、氷のように冷たいその瞳は微塵も揺るがない。
それは伽椰子だった。視線一つで誰の鼓動をも止めうる最凶の呪い。しかし、江戸の前で、その呪いは凍りついた。
もはや生きた住人のいないその村で、その夜、幽霊よりも遥かに暗い「何か」が江戸の脈動の中で暴れ始めた。虚無なる無月の血と、鋭利なる黒鉄の血統が激しく衝突し、名頃の静寂を切り裂く共鳴を生む。
空気は突如として冷え切った。江戸の身体から静かな、だが圧倒的な霊圧が爆発する。屋敷を取り囲む案山子たちが、まるで命を吹き込まれたかのように、一斉に首を回して江戸の方を向いた。
「少し、騒がしいですよ。伽椰子さん」
江戸は静かに告げた。
数十年の時を経て初めて、怨霊――伽椰子が這うのを止めた。彼女が見たのは「人間」ではない。自らの存在すら飲み込もうとする「虚無」そのものだった。
月なき夜が証人となる。二つの血を継ぐ後継者が今、目覚めた。
この屋敷に潜む闇の住人たちにとって、それはもはや「取り憑く」ための時間ではない。いかにして彼に「裁かれる」かという、終焉の始まりだった。
プロローグをお読みいただき、ありがとうございます。
名頃の村に降り立った少年、江戸。
彼が背負う「無月」と「黒鉄」の宿命、そして屋敷に潜む伽椰子との出会いが、ここから始まります。
ただのホラーではありません。これは、孤独な二人が血と呪いで結ばれる、執着の物語です。
次話より、いよいよ江戸の名頃での生活、そして伽椰子との異常なまでの距離感が描かれていきます。
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第1話「死者が視線を送る村」でお待ちしております。




