第27話 国連の公表
糸成達がシエル壊滅の報告を受けた頃から時は遡り、要人警護任務同日。現地時間22時。プティ共和国、首都シエル。レゼール大聖堂。
世界遺産にも登録された、歴史あるプティ共和国一の絢爛豪華な美しい大聖堂。それを中心に、半径500メートル圏内の建物全てが吹き飛ぶ大爆発が起きた。寝静まった美しい街並みの雲1つ無い星空に、灰色のキノコ雲が浮かぶ。シエルの住民は、消し飛び燃え盛る大聖堂跡地に現れた、フランスの凱旋門を彷彿とさせる程巨大な龍門から押し寄せるものを見た。
「ば・・・・化け物だ!」
大聖堂で護られていた龍門から溢れ出た魔獣により、一夜にしてシエルの街は蹂躙された。そして、一国の首都が壊滅した情報と魔獣の存在が世界に広がるのに、時間は掛からなかった。ネットには、現代兵器が一切通用しない幾つもの人類を襲う魔獣とそれに立ち向かう超常現象を扱う人間。その写真と動画がアップロードされ続け、その存在を隠し切れなくなった国連は、シエル壊滅から3日後に魔界と魔獣、奇術師の存在を限定的に公表する。
公表内容。
人類の住む世界の他に、魔獣の住む魔界と言う世界が別次元に存在する。その世界から、魔獣が人類のいる世界、聖界に“偶然次元を超えて出現する”。それを奇跡の術を使う“一族”、奇術師達が国の管理の下、聖界に出現した魔獣から人類を秘密裏に護ってきた。そして、今後も国の管理の下護っていく。今回のプティ共和国における魔獣の大量出現は、歴史的“大災害”である。
以上。
各国軍、国民、過激派テロ組織などが奇術の力と門の先にいる魔獣を軍事利用し始めれば、第三次世界大戦を引き起こしかねないと判断した国連は、門の存在と全人類が奇術を扱えるという情報を隠蔽した。そして、限られた血族のみが神秘的な現象を発現できるとすることで、人類の“奇術師化”を防ごうとする。
勿論、公表後の数ヶ月間、世間は国連と国を批難し続けた。余りにも限定的で少ない説明。そして、自分達の生命に関わる重要事項を隠蔽していたこと。メディアはこぞって取り上げ続ける。連日、ワイドショーではその話で持ち切り。ニュースでは、プティ共和国の魔獣と奇術師との戦線状況と、避難民の話ばかりだった。しかし、国連の企みは後に成功する。これまで、魔獣に襲われたことも奇術を目にしたこともなく発展してきた人類は、プティ共和国の周辺国民以外、事態を対岸の火事としか認識しなかった。よって、国連が危惧した“世界規模パニックの阻止”は成功した。
要請を受けた世界の国々は、続々とプティ共和国へ奇術師を派遣する。その名簿には、日本所属の奇術師の名前もあった。プティ共和国から採掘されたレアメタルを融通して貰っていた日本は、政治的観点から奇術師派遣国で唯一の特権術師を派遣する。
時は戻り、要人警護任務の翌日。
任務で『螺旋白刃流し』を習得出来た糸成は、直人にその戦闘での出来事を伝えた。話を聴き、最終試験として直人は刀で斬り掛かる。それを糸成は、『螺旋白刃流し』で見事に受け流して見せた。
「ようやった。『螺旋白刃流し』の修行は卒業だ。だが小僧。お前の勝利条件は、格闘戦の中で手のひらで相手に触れること。よってこれからは、武器を持った相手を素手でいなし、伊賀流古武術に掌打を組み込んだ新しい拳法を開発する」
その日からの修行は、直人がこの世のありとあらゆる武器を使い、糸成を殺すつもりで繰り出す技を、素手でいなし相手の懐へ入り込む特訓となった。終始笑顔で笑いながら打ち込んでくる直人を見て、雷蔵の容赦無い修行は直人に似たのだと、糸成は確信する。
シエル壊滅から5日後。
プティ共和国の北と東からはロシア奇術師部隊。南からはベラルーシ奇術師部隊。そして西からはEU奇術師連合部隊が、それぞれプティの残った奇術師と共に魔獣の侵攻をシエル近隣都市で食い止めていた。世界各国から派遣された奇術師達は、分散してそれらの援護に回る。
プティ共和国、西部国境の街ウエスト。
特級魔獣と多数の上級魔獣の群れによる侵攻により、戦線は日に日に後退。ラトビア国境付近まで追い込まれていた。
「アンドリュー隊長! 前方より、巨人種6体接近! それも30メートル級です! このままでは、戦線を維持できません!」
「駄目だ! これ以上、後方に魔獣の侵攻を許してはならん! 何としてでも死守するぞ!」
巨人。上級魔獣である巨人種の身長は、10メートルから30メートル。その高さに応じて、脅威度は上がる。分厚い皮膚とその高い身長から、上級術師でも有効打を与えるのは骨が折れる魔獣である。
『紫電神柱閃華』
侵攻してくる6体の巨人の足元が、紫色の花模様にそれぞれ光る。すると、花模様から巨人を包み込む程の紫色の雷で出来た柱が立つ。巨人は、その超高温の電撃でできた柱によって、一瞬で蒸発する。紫電の柱が消えると、そこには地下何十メートルに及ぶ円柱の穴が空いていた。
「あ、あの巨人が、塵も残さず蒸発するなんて。・・・・隊長。あれは、一体誰ですか?」
紫電を纏った日本刀を握り、空中に立つ猿の仮面を被った男。彼を見て、アンドリューは唾を呑み答える。
「あれは、日本の特権術師。終わりの閃光だ」
終わりの閃光。それは、各国の奇術師が接敵し、紫電が見えたときには既に誰かが死んでいる。そんな理不尽な強さに各国の奇術師達が恐れ、雷蔵に付けた二つ名である。
「接敵すれば、生きては帰れないと言われる男が味方とは。これ程頼もしいと思うのだな。よし! このまま、戦線を押し上げるぞ!」
EU奇術師連合部隊へ合流した服部特権術師は、次々と上級魔獣の群を殲滅。士気を上げたEU奇術師連合部隊は、西側の戦線をシエル近郊まで押し戻した。




