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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第25話 狂気と凶器

 直人の元で修行を始め2週間が経った頃。

 糸成の動きは、直人の動きに大分近づいていた。


「頃合いだな。小僧、その状態で滝を突いてみろ」


 糸成は直人が見せたように構え、真上へ向かって全力で突く。その拳は、今までの突きよりも遥かに鋭く、風圧で水を押し除けた。しかし、直人のように水に螺旋を描かせられない。その日から、1日片手1万回ずつ計2万回の突きを2週間、朝から晩までひたすら滝を突く。初日は、1万回ずつ突くのがやっとだった。しかし、3日目以降からはノルマが終わっても日が暮れるまで、糸成は突き続ける。そして、とうとう糸成は本来3ヶ月掛けて習得する技を、弛まぬ努力により1ヶ月で『螺旋拳』を習得した。


「やった! 出来た!」


 ノルマが終わり、水でふやけ激しい流水で手の皮が剥がれても、滝を突き続けた糸成の狂気とも言えるその気力に、直人は不安を覚えた。家族の仇を取る。その為に、ひたすらに努力する。その気持ちは理解出来る。だが、これ程まで糸成を突き動かす憎しみが、仇を取り終えた糸成をどうするのか。糸成の現状を、直人は危ういと判断していた。


 糸成が、『螺旋拳』を習得した翌日。

 糸成と直人は、再び無門邸裏庭に居た。直人が母屋から持って来たダンボールの中から、1本の刀程の長さの蛍光灯を取り出す。


「今日から修行するのが、今回クソガキから頼まれた技だ。名を『螺旋白刃流(らせんしらはなが)し』と言う。そして、使うのがこれだ」


 直人が、ニヤリと笑い右手で握った蛍光灯を左手で指差す。すると、突然目を見開き大声を出した。


「喝‼︎」


 糸成の頭目掛けて振り下ろされた蛍光灯は、頭に当たると砕け散った。


「痛っ! いきなり何するんですか、無門師匠!」


 直人が、ダンボールから次の蛍光灯を取り出す。


「今から、儂がこの“蛍光刀”で小僧に斬り掛かる。それを、『螺旋拳』で“蛍光刀”を割らずに往なすの・・・・だっ!」


 再び振り下ろされる蛍光灯を糸成は白刃取りしようとするが、それよりも速く直人は糸成の頭で蛍光灯を叩き割る。


「痛っ! だから痛いって! ていうか! 何ですか“蛍光刀”って⁉︎それ“刀”じゃなくて“灯”ですから! “とう”違いだし、そもそもこういう風に使うものじゃないですから! ・・・・って、うわっあ!」


 直人は、間髪入れずに斬り掛かる。


「なんだぁ? じゃあ、いきなり真剣でやるかぁ?」


「嫌! 大丈夫です! “蛍光刀”で良いです! “蛍光刀”が良いです‼︎」


「そうだろう? それそれ! 避けるのではなく、受け流すのだ! この儂の“蛍光刀”をなぁ! まだまだあるぞぉ‼︎」


 裏庭では、日が暮れるまで蛍光灯の割れる音が鳴り続けた。

 『螺旋白刃流し』。それは、無門流の無手による対武器の初歩にして奥義。武器による攻撃を拳で受け流すことにより、敵の間合いに入り己の攻撃を当てる技術。『射場流弓術 流水』も、この技を元に射場家が弓を用いて編み出した技である。

 無門直人。奇術師を引退した、齢70を超える伊賀忍者一の体術使い。若き頃の直人は、素手で武器に対抗する為には“武術”を学ばなければならないと考えた。そこで、無手体術の無門流継承者でありながら、他の武術を極めし流派へ弟子入りし、あらゆる武術を学びそれを倒す為の体術を開発し続けた超人であり、奇人である。20代で伊賀流古武術を極めたと言われた直人は、以降神隠れの里に産まれる子供達ほぼ全ての体術の師であった。幼少期の服部雷蔵、大狼転哉も直人の道場へ通っていた。


 弛まぬ努力で『螺旋拳』を習得した糸成だったが、『螺旋白刃流し』の習得には苦戦していた。


 伸び悩んでいたある日。

 糸成は真矢、界斗と共に要人護衛任務へ出た。今回の任務は、極秘でアメリカから来日する外務大臣の身辺警護である。


 22時。埼玉県狭山市、航空自衛隊入間基地。アメリカ政府専用機着陸。


 警護対象が飛行機から降りて来る間に、真矢が手を後ろで組み糸成の顔を覗き込みながら尋ねる。


「糸成、あんた最近無門先生のところで修行してるみたいね? 糸成の体術、それなりのレベルだと思うけど、何やってるの?」


 真矢の問いに、糸成は心ここに在らずの状態で答えた。


「うん。蛍光刀で殴られてる」


「は? 蛍光刀? どんな修行よ。ていうか、なんか暗いわね。大丈夫?」


 『螺旋拳』習得から1ヶ月。どれだけ蛍光灯を使っても、割らずに受け流せない。修行に進展がなかった糸成は、思い詰めていた。真矢に指摘されそれに気付いた糸成は、両手で自分の頬を強く叩く。


「うん! ごめん! 任務に集中するよ!」


「ちょうど、護衛対象が降りて来たぞ。2人共お喋りはここまで! 行くぞ」


 3人は仮面を被ると車に乗り、大臣を乗せた専用車の後ろに付いた。大臣を乗せた専用車は高速道路を使い、首相官邸へと向かう。所沢インターチェンジを過ぎたとき。目を閉じて意識を集中していた界斗が、聖気を探知した。


「2人共。北東から、殺気を帯びた聖気が接近して来る。数は1。速いぞ。糸成、頼めるか?」


 糸成も、目を閉じて瞑想する。


「うん、確認した。足止め、出来れば拘束でしょ?」


 聖気の探知。奇術師は、周囲十数メートルであれば平常時でも聖気を探知できる。それを、聖気操作をマスターした者が瞑想をすることで、更に広範囲の生物の聖気を感じ取ることが出来る技術である。瞑想している間、奇術師の意識は自分を中心とした暗く広い球状の空間に入る。自分を中心とした一定範囲内に、一定以上の聖気を宿した生物が入ると、聖気の出力に応じて空間に火が灯る。火が大きいと膨大な聖気、小さければ少量。荒々しいと聖気操作が未熟、揺らぎがない程洗練されている、等を感じ取ることができる。探知出来る範囲は、奇術師の練度によって異なる。そして、探知範囲を一定方向へ集中させると、探知出来る範囲は伸びる。呪嶽島制圧作戦で、雷蔵はこれを用いてパラシュート降下中に前方の呪嶽島へ向かって聖気探知を行い、上級上位の奇術師を特定した。また、相手の探知に引っ掛からないように、4名の奇術師は輸送機搭乗時から聖気を一般人の聖気量まで抑えたことで、敵の探知を逃れた。


 界斗の探知範囲は、半径3キロ程。それに対し、糸成はまだ半径1キロが限界だった。その為、界斗が指定した方角に意識を集中したことで、探知距離が伸び、捕捉できた。


「大丈夫でしょ。糸成はこれより聖気の整った相手を、呪嶽島で経験しているわ。ここは任せましょ?」


 真矢が糸成の背中を押す。


「じゃあ頼んだぞ。終わったら連絡くれよな?」


 界斗が差し出した右手拳に、糸成が応えてグータッチをする。


「うん。2人はこのまま護衛よろしくね! じゃあ、行って来る」


 セカンドシートの1番左に座っていた糸成は、ドアを開け北東へと跳んだ。


「シートが広くなったな」


 界斗が、瞑想しながら呟いた。


「そうね。・・・・無事だと良いけど」


 真矢が窓の外の流れる景色を観ながら、心の声が漏れた。自分でも驚いた真矢は、慌てて仮面の上から手で口を覆う。それを見て、界斗がイジリ始めた。


「あっれ〜初めて糸成と会ったときは、あ〜んなに嫌ってたのに〜おっかし〜いな〜」


 界斗のウザい言い方に、真矢が誤魔化しながら怒る。


「うるさいわよ! 索敵に集中しなさい! 界斗、あんた最近デリカシーの無さが先生に似てきたわよ?」


「げぇっ⁈ ・・・・それは、嫌だなぁ・・・・」


 界斗はしょげた。真矢の赤面した顔は、被っていた仮面のお陰で界斗に見られることはなかった。


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