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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第25話 Xday

 車から飛び出した糸成は、目標の所属不明奇術師へと一直線に家の屋根の上を走り、跳んだ。すると、電線の上を走る人影が見える。


「居た。あれだな」


 糸成は、目標の進行ルートへ先回りするようにコースを修正する。目標が走る電線に糸成が飛び乗ると、奇術師は足を止めた。


「何者だ。何故この先へ進む」


 電線上に立塞がる糸成の問いに、所属不明奇術師が答える。


「教える義理は無い。邪魔をするなら、排除する」


 そう言うと、能面を被った奇術師は背中にクロスさせて背負っていたククリナイフを2本抜いた。それに対し、糸成は苦無を1本ウエストポーチから取り出し、構える。両者が、敵の些細な動きから行動を予測して、牽制し合い様子を伺った。大臣を乗せた専用車が離れていくのに焦った能面奇術師が、糸成へ斬り掛かる。右手で振り下ろされたククリナイフを、糸成は右手の苦無で受け止めようとした。しかし、糸成はその異常な威力の斬撃で民家の屋根へ吹き飛ばされる。


「何だ今の・・・・速度は少し速いくらいなのに、凄い衝撃だ。術式か? ・・・・!」


 そこへ、飛び降りて来た能面奇術師の左のククリナイフが振り下ろされる。それを見て、糸成は直人との修行中のやり取りを思い出す。


「違う! もっと流れを感じるのだ! 何の為に、滝に打たれたと思っとる小僧!」


「いや、滝と蛍光灯で殴られるのに何の関係が?」


「滝! それすなわち水! 『螺旋拳』習得で感じた、拳から腕へ伝わる水の流れ! この蛍光刀も“水”なのだ!」


 このとき糸成は、直人の言っている意味が全く分かっていなかった。しかし、敵の得物が近づく刹那、振り下ろされるククリナイフに、何千と見てきた蛍光灯が重なる。それに、条件反射で左拳が動く。


『螺旋白刃流し』


 全身の関節を回転させ、何万と突き身体に染みついた螺旋の突きが、腕に水が流れるように敵の武器を受け流した。


「なに⁉︎」


 能面奇術師が体勢を崩す。そこへすかさず、糸成は突いた左手で相手の左肩に触れる。


『緋掌』


 能面奇術師の左肩は消し飛び、腕は屋根へと落ちる。一瞬動きが止まった隙に、右肩にも触れ消し飛ばす。両腕を失った能面奇術師は、膝から崩れ落ちた。


「僕の勝ちだ。言え、目的はなんだ。このままだと、出血多量で死ぬぞ?」


 能面奇術師は痛みに耐え、糸成を見上げながら答えた。


「何も答えねぇよ。クソ野郎」


 糸成は、能面奇術師の両足を順に踏みつけて骨を折る。うめき声を出しても、能面奇術師は何も答えなかった。これ以上、自分では何も聞き出せないと判断した糸成は、能面奇術師の両肩を魔術で創り出した炎で焼き、止血する。糸成は、ズボンのポケットから携帯を取り出し、電話を掛けた。


「もしもし? 真矢? 敵、制圧完了。生け取りにした。これから奇術省に連絡して、引き渡したらそっちに向かうね。そっちは大丈夫?」


「そう。ご苦労様。こっちは異常なし。順調に移動中よ。引き渡したら、また連絡頂戴ね? じゃあ、また後で」


 電話を切ると、糸成は直ぐに奇術省へと連絡を取る。


 20分後。到着した黒子へ、『封禁』を施した能面奇術師を引き渡し、引き継ぎをすると糸成は真矢に連絡を入れ、奇術省の車で首相官邸へと向かった。


 24時。糸成、首相官邸到着。


 車を降りた糸成は、任務が終わり仮面を外した界斗と真矢と合流した。


「おう! お疲れ! 怪我は〜してねぇみたいだな? 糸成のほうは陽動だと思ってこっちも警戒を続けたんだが、あれ以降は何事もなく送り届けたぜ」


 界斗が親指を立てた。


「暇でしょうがなかったわよ」


 腕を組む真矢を界斗がニヤニヤと見つめたが、何故ニヤついているのか分からなかった糸成は不思議そうな顔をした。

 首相官邸には、専属の奇術師護衛部隊“御庭番(おにわばん)”が首相の身辺警護を行っている。

 御庭番。江戸時代、第8代将軍徳川吉宗(とくがわよしむね)が設立した直属の奇術師部隊である。大政奉還後も、時の権力者に支えてきた。雷蔵も、転哉と結衣とのチームを解散した後数年間、御庭番筆頭を務めていた。


 御庭番の奇術師へ引き継ぎを行い、深夜で帰りの新幹線が無かった3人は、奇術省の車で神隠れの里へと帰還する。道中、3人は車内で談笑した後、眠りに就いた。いつもどおりの任務。いつもどおりの日常。そんな日に、“その日”は訪れた。


 4時30分。

 糸成、真矢、界斗が車で神隠れの里へ戻る途中。下り岡崎サービスエリアで休憩中に、その知らせは届いた。


「そんな!」


「嘘だろ⁈ 一国の首都が、魔獣によって壊滅⁈ そんなバカな!」


 口に出して明らかに動揺する真矢と界斗に対し、糸成は話を聞いて直ぐ頭に浮かんだのは、鬼門神社襲撃事件。傷の男、そして自分と同じく家族を失った住民。糸成は静かに、拳を握りしめ歯を食いしばる。


 報告内容。

 現地時間22時。プティ共和国、首都シエル、レゼール大聖堂。

 総戦力で襲撃して来たアンノウンにより、龍門(りゅうもん)護衛部隊は壊滅。レゼール大聖堂は焼失。張られていた守護結界は破壊され、開門された龍門からは特級魔獣を含む、数千の魔獣が現れ首都シエルは壊滅。魔獣と奇術師による戦線は、現在も拡大中。プティ共和国政府は、非常事態宣言を発令。首都シエルを放棄し、第2都市アンジェに政府機関を移転、シエルを包囲する防衛線を構築。数十万人の避難民が隣国へと押し寄せ、現在も増加中。EU加盟国のみならず、全世界へ奇術師の応援を要請。

以上。


 プティ共和国。人口約120万。周囲をエストニア、ラトビア、ベラルーシ、そしてロシアに囲まれたヨーロッパの小国である。EU加盟国であり、日本とも友好条約を締結している。“家色”と呼ばれる日本で言う家紋のような一族を表す色があり、家色を家の屋根の塗料に使うことで、1軒1軒が独特な存在感を醸し出す。綺麗に区画整理されたその美しい街並みと相まって、フランスのパリに次ぐ芸術の都とも呼ばれる。


 龍門。それは、通常の門よりも遥かに大きく、魔獣の大量生息する危険地帯と繋がった門である。領土の大きな大国には複数箇所、小国であれば領土内に無いこともある。日本における龍門は三重県伊勢市、伊勢神宮が護る門である。


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