04_終幕
あっという間のエンディングでーす。
次の日、彼はまた場末の酒場に立ち寄った。先日の口約束を律儀に守ってきたらしい。私としては些か早すぎて拍子抜けしてしまったくらいだ。
彼は酒を頼むよりも先に私の前に跪くと、手を取ってそこに接吻を落とした。
「俺と結婚して欲しい。」
まっすぐ私を見つめる彼の視線は射殺さんばかりに皓々としていた。彼を突き刺したくなるのをグッと堪えて平静を装う。
「ええ、是非。」
務めて自然に私は彼の手を取った。彼は私の手を引いて自分の胸の中に抱き込んだ。
「私の命はくれてやる。代わりにお前の命は頂くぞ。」
私の耳元で囁かれた言葉は私の全身を駆け巡って熱に変わった。私は彼の腰に回した手に力を加え指先を彼の血で汚した。代わりに彼は私の口内へ舌を這わせた。
彼の唇が離れると私も手を離して距離を取る。そして、私は彼の腕を取り、今度は正真正銘の夫婦として場末の酒場を後にした。
その後、彼の両親に挨拶し、結婚披露宴を催し、彼の妻として夜会に招かれ、その際に流血沙汰が度重なり起きた事以外は特に無かった。
毎夜、彼と殺し合える事が私にとっての全てだった。
そして今は、彼が率いる帝国軍第一軍団の征伐に秘密裏に付き従っている。これに関しては父母の了承も得ている。夫妻とは折り合いが良く、家庭環境は円満であった。
彼に仇なす敵を排除する護衛であると共に、彼の命を狙う暗殺者として、私は彼と共にある。
あの時の約束を私は決して忘れない。
―――――貴方を殺していいのは私だけ。
「貴方は私が必ず殺す。忘れちゃ嫌よ。」
寝息を立てる彼の首筋にそっと指先を沿わせる。
この世で最も愛しい私の伴侶。その額に私は軽く唇を押し当てた。
これにて完結ですが、吃驚するほど簡潔に終わってしまった。しかも、一応連載という体裁でありながら、内容は短編とそう変わらない長さという体たらく。
だらしねえな。