第1章 第7話:腐敗の顔
「二度とあんなことしないで、レオ!」
ダイアンが叱ると、レオは肩をすくめた。
「約束はできねえな」
「よし、行くぞ。邸宅に戻ろう」とブレンダン。
「レオ、向こうで何を覚えたの?」ハナが尋ねる。
「手足を固い金属に変える体術だ」レオが答える。
「あそこの連中、訓練がキツくてな。こいつ、かなりやられてたぜ」ネコが笑いながらレオを指さす。
一行は邸宅へ向かって歩き続けた。美しい朝だった。学校へ向かう子供たちが笑い、鳥が歌い、家々の窓に太陽が反射している。
セレバーは、この街にいる二人だけの貴族が近くで笑っているのを見かけた。
その一人がセレバーを上から下まで値踏みするように見る。セレバーは不快になり、怒りが湧いた。
「何見てんだ、兄貴」セレバーが苛立った声で言う。
「何でもないさ」貴族がまだ笑いながら、今度は嘲るように答える。
「気にするな。あいつらはああいう奴らだ」ブレンダンがなだめる。
やがてアレノール王の邸宅に到着し、門をくぐって会議室へ向かった。
「遅かったな、レオナルド。良い成果を得たことを期待しているぞ」と王。
「安心しろよ、アレノール。この訓練の後なら、俺は防衛隊で一番強いかもしれねえ」レオが自信満々に笑う。
「結構だ」アレノールが続ける。「それに、邸宅近くの学校で泥棒の通報があった。三人で行ってくれ」
「俺とネコとレオで片付ける」とブレンダン。
「よかろう。下がれ」アレノールは机の上の紙に誇らしげな目を向ける。
『あの紙には何が書いてあるんだ?』セレバーは思った。
ブレンダン、ネコ、レオが学校へ向かい、残りの面々は部屋へ戻った。
「なあ、王の机の上の紙って何だ?」セレバーがケヴィンに囁く。
「知らねえよ。いつも机に紙を置いてるが、中身を覗こうとする奴は誰もいねえ」ケヴィンも囁き返す。
部屋に着くと、セレバーが尋ねた。
「アレノールの前の王は誰だったんだ?」
「アレノールの次兄だ。暗殺されて、その後アレノールが王位を継いだ」
「……マジか」
セレバーは二段ベッドの上段に上がり、横になった。
「あの三人が戻ったら起こしてくれ」ケヴィンとハナに言う。
約四十分ほど仮眠を取っていた頃――
「ははははは!」
大きな笑い声が部屋に響き、セレバーを起こした。
「ん……?」ぼんやりと目を開ける。
「おい、信じられねえぞ」ブレンダンが大笑いしながら言う。
「何があったの?」ダイアンが尋ねる。
「王が言ってた学校の泥棒、知ってるか?」ブレンダンが笑いを抑えきれずに続ける。
「行ってみたら、三人のガキが給食を盗むために学校に通ってただけだった」ネコが笑いすぎて鼻声になっている。
「現行犯で捕まえたが、三人とも逃げ出した」レオも息を切らしながら言う。
「俺とレオで最初の二人を捕まえたんだが、ネコが三人目を捕まえようとした時――」ブレンダンが息を整える。
「ガキが犬の糞に滑ったんだよ!」ネコが近くの小さなテーブルを叩いて笑い続ける。
「マジかよ……」セレバーも堪えきれず笑った。
部屋中が大きな笑い声に包まれた。
その瞬間、セレバーの頭に一つの思いが浮かんだ。
『……これくらいなら、慣れていけそうだな』
口元に薄い笑みを浮かべながら、そう思った。
――それから数日が経った。
その間、セレバーは街や近隣の村で盗賊や悪人の捜索・逮捕に奔走した。
その過程で、アレノール王と何度か口論にもなった。
午後五時四十分頃。セレバーが邸宅の廊下を歩いていると、鍵のかかった会議室の前を通りかかった。中から人々の会話と笑い声が聞こえてくる。
「今夜はどうするんだ、アレノール?」貴族の一人が笑いながら尋ねる。
「ああ、夜になったら愛しい女たちと楽しむさ」アレノールが笑う。
その言葉の意味を、セレバーは理解した。
『どういう王がそんな場所に行くんだ……』セレバーは憤りを覚えた。
無視しようとして歩き続けると、ネコと出会った。
「おい、セレバー。女がお前に会いたがってるぞ」ネコが邸宅の外を指さす。
セレバーは不思議に思いながら出口へ向かった。
そこには、アントニーの母親がうつむき加減で立っていた。
「こんにちは、マルシアさん」
「私は大丈夫です。……アントニーが……」マルシアがほとんど泣きそうな声で言う。
「どうしたんですか?」セレバーが近づく。
「あなたとお友達が来てくれたあの日から、どんどん弱って、今は寝たきりになってしまって……」彼女が続ける。「昨夜もアレノール様に助けを求めに行ったんですが……」
「でも、何が?」
「怒って、私の顔にワインを投げつけたんです」一筋の涙がマルシアの頬を伝う。
『くそったれ……』セレバーは怒りに震えそうになったが、すぐに抑え込んだ。
「マルシアさん、アントニーに必要な薬が何なのかはわかりません」セレバーはポケットから五リリオスの紙幣を取り出す。「これで薬を買ってあげてください」
「本当にありがとうございます」マルシアが感謝して紙幣を受け取る。
彼女は振り返り、街の中心へ向かって歩き出した。
「アントニーに伝えてください! 元気になったらまたボールしようって!」セレバーが門のところから叫ぶ。
「必ず伝えます」彼女が感謝の声で答える。
その瞬間、セレバーの表情が大きく変わった。怒りに満ちた顔になる。
彼は振り返り、邸宅の中へ向かった。会議室の前を通ると、扉が開いており、王と貴族たちがまだ中にいるのが見えた。
躊躇なく中に入り、叫んだ。
「自分の怠慢で子供が死ぬかもしれないって、わかってるのか!?」
「何だと、小僧?」貴族の一人が椅子から立ち上がる。
「黙れ! お前に話してるんじゃねえ!」セレバーが貴族にリボルバーを向ける。
「聞こえた通りだ、この馬鹿野郎!」セレバーは王の方へ詰め寄る。
少しぎこちない動きで、セレバーは机の上の紙とワインの瓶を倒した。
「気でも狂ったのか、小僧!」アレノールが怒りに任せて立ち上がる。
「狂ってるのはお前の方だ! 自分が何をしたかわかってるのか!?」セレバーは机を回り込み、王の襟首を掴んで地面に押し倒した。
「次に俺を怒らせたら、ただじゃすまねえぞ」セレバーは出口へ向かいながらも、視線をアレノールから外さなかった。
セレバーが部屋を出た後、沈黙が落ちた。
「あの青年をどうなさいますか、殿?」執事が尋ねる。
「あそこの友人に連絡しろ。あいつの扱い方を知っている」アレノールが開いた扉を睨みながら言う。
「ですが、彼は獄中では?」
「保釈金は俺が出す」アレノールが、セレバーが倒さなかったワインのグラスに口をつける。
扉を出たセレバーは、防衛隊の部屋へ向かう廊下を歩いた。中にはダイアン、レオ、ネコ、ハナがいた。
「さっきの大声は何?」ダイアンが尋ねる。
「またアレノールとやり合っちまった」セレバーがダイアンの隣に座る。
「街から追い出されるか、もっと悪いことになりかねねえぞ」レオが脚を組んで言う。
「わかってる。でも、あいつのやり方を見過ごせねえ」
「セレバー……王との口論は少し……控えなさい」ハナが言う。
「そうよ、馬鹿」ダイアンがセレバーの肩を軽く殴る。「彼は王よ。捕まえることもできるし、殺し――」言い終わる前に、二人の人物が部屋に入ってきた。
それから二時間後。
ブレンダン、レオ、ネコが部屋に入ってくる。
「おい、聞けよ」ブレンダンがリリオスの札束が入った包みを見せる。
「ヘッポコ泥棒をボコって、金を巻き上げてきた」ネコが誇らしげに笑う。
「それ、良くないのか?」セレバーが尋ねる。
「自分のために使わなきゃ問題ねえよ」ネコが杖をくるりと回しながら答える。
「この金は、あの日一緒にボールした坊主の母親に渡す」ブレンダンが包みを小さなテーブルに置く。
「いいな」セレバーが笑い、ブレンダンが浴室へ向かうのを見送る。
セレバーは立ち上がり、部屋の出口へ向かった。
「どこ行くの?」ダイアンが尋ねる。
「近くの店で何か買ってくる。何か要るか?」軽く振り返って尋ねる。
「いらねえ」とレオ。
「いいぜ」とネコ。
「腹減ってねえ」とケヴィン。
「私、お菓子が欲しい!」ダイアンが目を輝かせる。
「私も」とハナ。
「わかった」セレバーは部屋を出た。
王の会議室前の廊下を通り、邸宅の扉を出て門の前に立つ。
街の景色を眺める。沈む太陽、学校から帰る子供たち、笑い声の聞こえる酒場。水平線から吹く風が、セレバーの髪を優しく揺らした。
『あの偽りの王さえいなければ、ここに一生住んでもいい場所だな』
セレバーは近くの店へ歩き始めた。
店に入り、買うものを決める。
『俺は塩気のあるやつ、女の子たちにはチョコレートだな』お菓子の棚へ向かう。
チョコレートを手に取り、店員のところへ行く。
「兄貴、塩気のあるやつ何がある?」セレバーが尋ねる。
その瞬間、ブラジルにいた頃、店で「塩気のあるやつ何がある?」と聞いていた記憶が蘇った。
「肉、チキン、ハムチーズがあるよ」店員が答える。
「ハムチーズで」セレバーが言い、内心で思う。『懐かしいな……』
店員から受け取ると、店を出た。
邸宅へ向かって歩きながら、塩気のあるやつに最初の一口を咥えようとした瞬間、背中を叩かれた。
「何だよ?」振り返ると、そこにいたのはアントニーだった。
「お前こそ迷子かよ」アントニーがからかう。
「マジかよ、お前がここにいるなんて」セレバーが軽く締め技をかける。
「まあな」アントニーが笑う。
「お前……元気になったのか!」セレバーが声を上げる。
「ああ。お前が母さんにくれた金で薬を買ってもらって、良くなったんだ」アントニーがセレバーの手を握って跳ねる。
「よかった……!」セレバーは安堵した。
「何してるんだ?」アントニーが尋ねる。
「ちょっと買い物」セレバーは塩気のあるやつを右手に持ち替え、袋を地面に置く。
「ほら」半分に割って渡す。
「マジか、ありがとう」アントニーが礼を言う。
「俺はもう行くぞ。あんまり遅くまで外にいるなよ」セレバーが袋を拾う。
「了解。気をつけてな、相棒」アントニーがかじる。
少し歩いてから、セレバーは思った。
『神様、この子の人生を祝福してください……』
さらに歩いて邸宅の門に到着すると、奇妙な静けさに気づいた。
『静かすぎる……』
塩気のあるやつを食べ終える。
『なんで明かりが消えてるんだ?』
門をくぐり、入口へ向かう。
中に入ると、廊下が真っ暗だった。
『何この真っ暗さ。アレノールが電気代を滞納したのか?』セレバーが皮肉る。
チョコレートの入った袋を小さなテーブルに置き、廊下のスイッチを入れようとした。
だが指が触れる前に――
鋭く、無骨な刃の音が静寂を切り裂き、同時にセレバーの右手を切り裂いた。
床に落ちた自分の手と、小さな血の溜まりを見て、叫ぼうとするが、衝撃で声が出ない。
廊下の奥を見ると、フードを被った人影が刃物を持ってこちらを睨んでいた。
絶望的な動きで腰からマグナムを抜くが、引き金を引く前に腕が斬られた。
セレバーが痛みに叫ぶ。すべてがあまりに早く、彼にできたのは走ることだけだった。無駄だとわかっていても。
バランスを崩しながら走るが、腹に一発撃ち込まれる。
地面が急に近づいてきた。手も腕もなく、腹に穴が開いている。
倒れた場所に、自分の血の溜まりができる。
助けを呼ぼうとするが、血が喉に流れ込み、声が出ない。
人影が近づき、セレバーを仰向けにすると、喉を切り裂いた。
数秒後、彼は死んだ。
『殺すなかれ』
セレバーが目を開けると、そこは部屋だった。
「自分のために使わなきゃ問題ねえよ――」ネコの言葉が、セレバーの悲鳴で遮られた。
セレバーは溺れるように息を吸い込み、大声を上げた。
皆が驚いて飛び上がる。
「耳元で叫ぶな、馬鹿!」ダイアンがセレバーの後頭部を叩く。
「大丈夫か、兄貴?」絶望した様子を見て、ブレンダンが近づく。
セレバーは頭を下げ、両手で顔を覆った。
「……だ、大丈夫だ」低い声で答える。
「こいつの頭、おかしいんじゃねえか?」レオがケヴィンに囁く。
「知らねえが、似たような反応は前にもあった」ケヴィンが腕を組む。
『この幻痛……』セレバーは左腕を強く握りしめる。
「ちょっとトイレ行ってくる」セレバーがベッドから立ち上がる。
部屋を出ると、皆が沈黙した。
「なんか変な奴だな」とレオ。
セレバーは、まだ明かりのついている廊下を歩いた。
『くそっ……』浴室に入る。
洗面台の蛇口を開き、顔を洗う。
『邸宅に侵入した暗殺者と、向き合わなきゃならねえ』蛇口を閉める。
『……どうすればいいんだ』洗面台に頭をうなだれた。




