082話 5月22日#09
地面の揺れは、どんどん大きくなっていく。木がメキメキ鳴る音も、少しずつ聞こえてきた。
そして、森の奥から、大きな体のモンスターが現れた。
「「え……」」俺とリアは固まった。
『……あー。このモンスターは大丈夫なヤツですね』月の神は青く光り、安心したような声で言った。『『ジャイアントサラマンダー』です。ただの大きなサンショウウオです』
――『ただの大きなサンショウウオ』って……
ジャイアントサラマンダーは、確かに見た目はサンショウウオに似てなくもなかったが……口が、ピエール号を一呑みにできそうなほどデカい。体も、見上げるほどデカい。しかも体表から出る粘液が、あたりの地面にぼとぼと落ちている。
「また、丸呑みにされるんじゃ……!?」
『だから、大丈夫ですって!』月の神はぶんぶん頭を縦に振った。『彼らは『火』しか食べませんから!』
「え……」
その瞬間、ジャイアントサラマンダーは狼煙に食いついた。
そして、火のついた枝ごと飲み込み、何事もなかったかのように、悠然とその場を去っていった。
『「「「……………………」」」』
狼煙が、消えた。
『全然大丈夫じゃなかったですね』
俺は長いため息を吐いた。
「何で今日って、こんなことばかりなんだろう……」
「まあ、誰もがそういう日を経験するんじゃないか?たぶん……」
『困りましたねー……』
「火が使えないなら、何をすればいい?」
「……音か」
『みんなで一斉に、大きな声で歌いましょうか?』
「……そんなの、イヤ」
「まあ、歌わなくても、こうして助けは来るものです!」
「そうなのか?……て、うええ!?誰!?」
俺たちは一斉に、声が聞こえた方を振り返った。
よく手入れされたセミロングの白い髪に深緑色の瞳。格好も、上着が見当たらないが、シャツにネクタイに、ベスト、手袋まで着用している。頭には、シルクハットを被っている。
そんな男が、なぜか深い森の中にいる。しかも、しれっと俺たちの中に混ざっている。
「え?そんなに驚きました?」
「驚くわ、普通!」俺は思わず叫んだ。「せめて、前から出てこいよ!前から!」
「んー、そうですか……」
男は森の中へ入っていくと、10秒ほど経ってから、前の木々の間から現れた。
「まあ、歌わなくても、こうして助けは来るものです!」
「……何がしたいんだ、この人」俺は頭を抱えてしまった。
「え?前から出てきてほしかったんでしょ?」
『あのー』月の神が、遠慮がちに男に話しかけた。『どちらさまで?』
「ああ。僕の名前はヴァル……ええええ!?」
男は、急に飛び上がった。
「虫が、しゃべってる!?」
『ええ。しゃべる虫ですよ、ワタクシ』
「ちょっ、まっ!」男はうろたえている。「こんなおっきい虫がしゃべるなんて、アリなの!?」
「あんたの方が『アリなの?』だ」俺は腕を組んだ。「何でそんな『街なかの紳士』みたいな格好してる奴が、こんな森の中にいるんだよ?」
「僕はただ、『手品』と『手芸』の特訓してただけで……!」
「普通、こういうところでそういうの、やります?」
「えっと……やりませんね」




