081話 5月22日#08
何とか全員が落ち着いた後で、リアがぽつんとつぶやいた。
「……旅って、こんなものなの?」
『いえ……』月の神も、紫色に光りながら疲れた声を出した。『今回は、非常に稀なケースかと』
「それにしても、腹が減った。何か食べるものはないのか?」
「あのなあ……」俺はため息をついた。「レイって、食べるか寝るか本を読む以外に、関心のあることってないの?」
「それで、本当に、ここはどこなの?」
俺たちの周囲に広がっていたのは、森。何も目印になるものはなく、ついでに雨で遠くまで見通せない。
「……まさか、俺たちマジで迷子になった?」
『……ですね』月の神は頷いた。『まあここがどこだろうと、ワタクシが変身できるようになるまで、どこへも動けませんけどね』
「前回は、一晩寝たら元気になったな」俺は月の神の方を向いた。「今回は、どのくらいかかるんだ?3時間とか?」
『あー、申し訳ないんですが、それは太陽や月がどれだけ地面を照らしているのかが重要でして……』
――何か、嫌な予感がする。
『……雲がなくならないと、ワタクシの魔力が元に戻りません!』
――やっぱり。
「え?待って……!」リアが驚いて声を上げた。「月の神なのに、自力で回復できないの!?」
『はい』月の神は首を振った。『ワタクシは、太陽からでも月からでも魔力を吸収できるんですが、そもそも地表まで到達する魔力自体が少なくてですね……雲が邪魔してほとんど来ないんです!』
「じゃあ、雲の上に戻れば?」
『レイさんのご負担になることはしたくありません!……それに、上空にいたら、他の皆さんとの場所がずれてっちゃいますよ!』
「地球が回転してるからか」レイが、月の神の言葉の間にボソッとつぶやいた。
『このまま皆さんとお別れなんて、いやです〜〜!!』
月の神は地面を転がって、イヤイヤアピールをした。
「……まあ、事情はわかったが、」
――いつ雲が消えて晴れるかなんて、誰にもわからない。
『まあ、それ以上に憂慮すべき問題があるんですが……』
「……何?」
『ワタクシ……変身できないと、ピエール号にある物を取り出すことができなくて……』
「は?」
『……つまり、食料がありませんっ!』
「……はああああ!?」
――月の神は、意外と不便だった。
それからしばらくして。
「寒いよー。腹減ったよー」
「レイ。口に出さなくてもみんなそうだから」
――今日の俺たち、かなりの難行にさらされてねえか?
「それで、あたしたち……」リアは俺の肩の上に座っていた。「……どうすればいい?」
とりあえず少し歩いてみたが、何も見つからない。ただただ、木がいっぱい植わってるだけ。
『そうですね……』月の神が考え込んだ。『歌でも歌いませんか?』
俺とレイとリアが同時に睨みつけると、月の神は『すみません……』と縮こまった。
「んー……でも、『音を出す』っていうのはいいアイディアかもな」と、俺はつぶやいた。「その音を聞いた誰かが、助けに来てくれるかもしれない」
「それよりもっといい方法があるわ!」リアが俺の肩をとんとん叩いた。「狼煙を上げるのよ!」
『あー、確かに』月の神はうんうん頷いた。『せっかくレイさんがいるんですし、ちょっとくらい湿っぽくても……』
「……森を焼き払えばいいのか?」
「枝を集めて火を点けるだけだよ!」
――というわけで。
俺たちは大小の枝を集め、火を焚いてみた。
普通は雨のせいで火が消えてしまうが、レイお姉さんの火は強力なので、枝が湿っていても雨が降っていても、中から乾燥し続け大きく燃え上がることができた。
「魔法サマサマだな」
俺がつぶやくと、その場にいた全員が頷いた。
『誰か助けに来てくれるといいんですけどねー……』
狼煙は、燃料の枝が湿っていたからか、もくもくと大きな煙をあげていた――さて、これで……
――ドスン、ドスン。
あれ?なぜか地面が揺れている。
――ドスン、ドスン。
「な……何よ……」リアが俺の懐に入ってきた。「何が、起こってるの……?」




