304話 6月21日#01
日が昇り、朝が来た。
寝た場所が硬かったため、俺は体があちこち痛みだしていた。
ちなみにテンが人数分のクッションも出してくれていたので、頭と首は大丈夫そうだった。
「……あー。やっぱ寝心地悪かったねー」テンもストレッチしながら言った。「この状態で、今日も歩けるのかな?」
「この先は、歩く必要はないと思います」と、カヤはクッションを撫でながら言った。「『助け』が来ますので、その方に任せるのが一番だと思います」
「そういえば、月の神様……」
『幼虫』の姿の月の神は、俺たち3人の真ん中で、毛布に横たわっていた。
「……やっぱり、いつもよりかなり小さいな」
最初の、レイに倒された後に小さくなった時でさえ、脇に抱えるほどの大きさがあったのに、今は片手で掴めるくらいまで大きさが縮んでいた。
「……僕、虫は嫌いだけど、」と、テンは言った。「月の神様がこんな姿になっちゃったのは、やっぱり心が傷むね……」
「そうだな……」
月の神だけではない。
あの3人の仲間たちも救えなかったことが、とてもつらかった。
「……そういえば、」俺はカヤを見つめた。「『塔』の上で何が起こってたんだ?星霊使いの3人は、なぜあの場で動けなくなって……」
「……すみません。具体的なことは、その……月の神様に訊ねた方がよろしいと思うのですが、」
カヤも、俺の顔を見た。
「わたくしが無事だったのは、あなたがわたくしに触れたからですね」
「俺が……?」
「ええ。事前に『かに座の石』をあなたに渡したと思いますが、その力でわたくしは意識を取り戻した……みたいです」
「なるほど……」
俺は服のポケットから、2つの石を取り出した。
「『てんびん座』と『かに座』か……テンは石、ちゃんと持ってるか?」
「うん。『みずがめ座』と『さそり座』ね」
テンはそう言って、2つの石を指に挟んで、俺に見せた。
「じゃあ、少しはマシかもな」
俺は石をポケットに戻すと、岩の隙間から差し込んでいる太陽の光を見つめた。
「………………」
「………………」
「……あの、お二人とも、あまり落ち込まないでください……」カヤは肩を落とした。「……といっても、やっぱり無理でしょうね……」
「本当に、すまなかった」俺はテンに謝った。「あの時、命かけても守ってあげていれば……」
「……悪いのは、君じゃないよ」テンは首を振った。「それに、カイト君はちゃんと正しい選択したと思ってるから」
それからテンは、指で帽子をくるくる回し始めた。
「……でも、悲しい気持ちは、実際にあるけどね」
テンは目尻を押さえながら、ぽつぽつと話をした。
「あのね……僕が何であんなにレイさんのことが好きになったのか、理由がわかったんだ」
「え?」
「僕、『僕が考える中で最悪の事態』ってことを聞いた時、一瞬レイさんと永遠に会えなくなることかと思ったんだけど……そうじゃないなってすぐに思って」
「そう……なのか?」
「僕が本当に悪いって思うのは、レイさんが幸せでなくなった時……レイさんが健康で、元気で、楽しくいられなくなった時だなって。つまり…………」
――そこまで悪い事態を考えていたんだな。
「それ思った時、「ああ、僕はレイさんを幸せにしてあげたかったんだな」って思った。だから好きだったんだって」
「………………」
――ホントに、好きだったんだな。
「自分が、出会ってひと月しか経っていない人をこんなに愛せる人だったなんて、僕知らなかった……」
「……あの、あまり救いにならないかもしれませんが」カヤは恐る恐る言った。「一応まだ遺体を確認したわけではないので、もしかしたら何らかの理由で助かっているかもしれません……」
「あの『塔』の崩落で……」俺は首を軽く振った。「まあ、星霊使いって、どういうわけかみんな丈夫だからな」
「……そうだといいね」テンも顔を上げた。「レイさんだけじゃなくて、リアちゃんもソラちゃんもいてこその、僕たちだもん……」
「……とりあえず、朝飯食うか」俺はゆっくり立ち上がった。「まだしばらくは、ここから動けねえようだし、携帯食料しかねえけど、何も食べないのよりはマシだ」
「そうだね……」
俺たちは、食事中も黙って口を動かしているだけだった。それぞれが頭の中で、別々のことを考えていた。
テンは、いろいろあって癖のある女性にばかり会っていたので、常に『真っ向勝負ストレート』のレイに強く惹かれたようです。彼女の幸せを心から願っている、とても優しい青年です。




