109話 5月24日#03〜テンの悩ましい暇つぶし〜
バッカスからトリトンへ向かう途中、ずっと船長室にいたテンがリビングにやって来て、いきなりニヤッと笑った。
「いいね〜!みんなだらけてる〜!」
そして俺の方を見て、ぷっと噴き出した。
「やっぱ『脳筋』は筋トレしてたんだ」
「『脳筋』じゃねえし!」俺はダンベルを床に置いた。「……てか、何しに来た?」
「だって〜、1人で船長室にいてもつまんないじゃん!」テンはウィンクをした。「ピエール号がもう大丈夫って言うから、ジャイロコンパス置いてここに来ちゃった!」
「あ、そ……」
「……あ、テン〜♪」リアがとことこ俺たちのいるところに近づいていった。「昨日ささっと作ってくれたクッション、あたし気に入っちゃった♡もう1つ作って〜♡」
「いいよー!」テンは床にしゃがんだ。「君みたいにちっちゃなマドモアゼルなら、どんな願いも叶えてあげるよ!」
「……そいつ、男なんだけど」
「えー?そうは見えないけど?」
テンはまだ俺の言葉を信じていないようだ。
「ホント、カイトって無粋よね〜!」リアはそう言って、俺の方をチラッと見た。「こんなかわいいあたしを男だなんて……」
「……考えてみりゃ、お前何かと荒っぽいところあるんだよな」
「え〜、そんなことないわよ〜♪」
「本当に女なら、そんなに『女性だ』アピールしないだろうし……そもそも、実の祖父が『孫息子』ってはっきり言ってたし……」
「………………そうだったかしら?」
「……ホントに?」テンは顔をこちらに向けた。「ホントに男なの?」
「確かめたかったら……見れば?」
「………………」
「…………こんの、ド変態が!!!」
リアが俺の体を一気に駆け上って、俺の顔に殴りかかってきた。
「いて……やめろ!目に入る!!」
テンは苦笑いをして俺とリアから離れ、レイのところへ近寄っていった。
「何読んでるの?」
「小説」レイはテンの方を見ずに言った。「少女がウサギ穴に落ちて、魔王の住処へ行く話」
「へえ、不思議な話読むねえ」テンは、レイの頭の方にしゃがんで、少し顔を近づけた。「いつも、どんなジャンルの小説を読んでるの?ファンタジーとか?サスペンスとか?恋愛小説も?」
「……だいたい全部読むけど」
「ねえねえ。じゃあ、『森の中で出会った美男美女が、一緒に飛空艇に乗って旅をしていくうちに恋に落ち、敵や無粋な乗組員たちに邪魔されながら目的の『魔法石集め』を達成して、最後は結ばれてハッピーエンド』……みたいな話は好き?」
「……つまんなそー」
「………………」
――テン。たぶん聞いてないだけだから気にするな。
テンは、相手にされないと悟ってため息をつき、ソラのそばへとやって来た。ソラは、リンゴをかじりながらぼーっとしていた。
「そのリンゴ、おいしい?」
「……うん」ソラは、テーブルの上のかごを指さした。「1つ食べてみたら……?」
「ありがと!」テンはそう言い、かごの中のリンゴを1つ手に取った。
しかしテンは食べ始めることはなく、じっとリンゴを見つめた。
「そういえば、ソラちゃん」
ソラがテンの方を向いた。
テンは帽子を取ってテーブルに置くと、リンゴを片方の手のひらの上に乗せた。
「このリンゴ、赤いリンゴだよね?」
「……うん」
「でもね、こうして布をかけて……こう、念力を送って……」
「……うん」
「しばらく念力を送って……それから布を取ると……あら不思議!赤いリンゴが、黄色いリンゴに変わりました!」
「……うん」
「………………」
テンはリンゴをかごに戻し、服のどこかからカードを取り出した。
「ここに何の変哲のないカードがあるでしょ?」
「……うん」
「これをこう伏せて、手で挟んでしばらく温めると……」
「……うん」
「あら、不思議!スペードのQがハートのQに変わっちゃいました!」
「……うん」
「………………」
すると今度は、1セットのカード全て取り出した。
「ここにこう、いろんなカードがあるよね?」
「……うん」
「さっきのハートのQをここに混ぜてシャッフルすると……」
「……うん」
「じゃじゃーん!全部のカードがハートのQになっちゃいました!!」
「……うん」
「………………」
テンははあとため息をつくと、すっと立ち上がった。
「……やっぱり、ここにいてもつまんないや……」
テンは悲しそうにそう言い、リビングから出ていってしまった。
この世界には魔法がありますが、『天使』・『悪魔』・『妖精』・『幽霊』などの存在は確認されてないようです。『ファンタジー小説』では、そういうキャラクターが題材になっているようです。




